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リフレ派に関する連載ウォッチ#4

武田真彦教授の連載12回の第4回は、
マネタリーベースの増加とマネーサプライ・為替の関係についての記事だそうです。

(*1) 量的緩和がマネーサプライ、為替相場にもたらしたもの https://business.nikkei.com/atcl/seminar/20/00039/022500005/?n_cid=nbponb_twbn

僕はマネーサプライや為替に関する武田氏の論点よりも、雇用環境の改善がなされたこと、現実に為替レートが円安方向へ大きく動いたことを重視しています。

標準的な経済学を基にしたリフレ派の主張を、正確に把握していない批判があるとすれば残念です。そのような言説から得ることは少ないと思いので、ここでは、リフレ派の主張に触れたいと思います。

岩田規久男氏によるデフレの原因とその対策を引用しておきましょう。

“ デフレの原因に関しては,生産性向上による総供給曲線の下方シフト説,中国などの発展途上国からの安い輸入品の大量流入説,卸売りを省略した流通の効率化説,大量の不良債権を抱えた銀行の貸し渋り説,成長期待の消失説,生産年齢人口減少説など,さまざま非貨幣的要因説が登場した。しかし,これらの説はいずれも,「戦後,デフレに陥った国は日本だけである」という事実を説明できない,という致命的欠陥を抱えている”(*2)

日本銀行が無い他の先進国でも、様々な国でデフレが起きている訳ではないのですね。

“ 日本がいつまでもデフレから脱却できないのは,日本銀行が「金融政策によって市場のデフレ予想をインフレ予想に変えることができる」ことを理解していないためである。すなわち,「中央銀行が物価安定目標の達成にコミットした上で,流動性(マネタリー・ベース,準備預金,超 過準備預金など)を適正に供給すれば,民間の中期的予想インフレ率を目標インフレ率近辺に維持し,それによって,実際のインフレ率も目標水準に維持できる」ことを,日銀は理解していない。そのために,日銀は間違った金融政策を一生懸命実施しているのである。”(*2)

物価安定目標の達成にコミットした上で、金融政策を実施することが重要なのですね。日本銀行が存在しない他の先進国で、デフレに陥らない米国などを見ると、うなずけます。

2012年1月25日のFOMCで米国中央銀行のFRBは次のように声明を出しています。
“ FOMCは、最大限の雇用、物価安定、穏やかな長期金利の追求という、議会から委ねられた法定の責務を遂行することにしっかりコミットしている。FOMCは金融政策決定について、できる限り明確に一般の人々に説明していく。そうした明確さは家計や企業による十分な情報に裏打ちされた意思決定を促し、経済や金融に関する不透明感を薄れさせ、金融政策の効果を高め、透明性や説明力を高めることになる。それは民主的な社会にとって不可欠な要因である。“(*3)

残念ながら、長らくデフレを続けていた国では「民主的な社会にとって不可欠な要因」が欠けていた可能性があります。

それにしても、正しい金融政策を理解せずに、間違った金融政策を一生懸命というのは…
ただ、この点は、岩田規久男氏と僕は異なる考えです。
黒ひげ危機一発で、黒ひげが飛び出さない場所に剣を刺し続けるには、何処に剣を刺してはダメなのか(デフレ脱却してしまうか)を知っていないと、1990年台後半から2012年まで外し続ける(デフレ維持)ことは困難です。以前の記事で紹介した中原伸之氏の指摘では、-0.5%の消費者物価指数をターゲットにしているかのような実績を出していました。
よって、海外事例などを研究してもいる優秀な日本銀行はデフレ脱却の方法を理解していないのではなく、理解したうえで、実施しないことで「デフレ維持元の金融政策」を実施し続けることが出来た、と考えます。

先のFRBの声明では、最大限の雇用、物価安定、穏やかな長期金利の追求へのコミットメントを示したうえで具体的な目標を示しています。
“ 長期的なインフレ率は主に金融政策によって決定されるため、FOMCはインフレの長期的な目標を具体的に定める能力がある。FOMCは、個人消費支出(PCE)価格指数に基づく年間2%のインフレ率が、長期的に見て連邦準備理事会(FRB)の責務に最も一致した水準だと判断している。”(*3)

世界で唯一、デフレを続ける「先進国」の日本の国会でもFRBの声明にある「インフレ目標」が話題になりました。

このFRB声明の後に、日本銀行の白川方明総裁(当時)は、物価上昇率1%を当面目指すという「物価安定の目途(めど)」を2012年2月14日に公表しました。弱いながらもコミットメントを示したのですが、金融政策効果の限界に言及したり、コミットメントを裏付ける具体的な金融政策が実施されず「物価安定の目途」への信認は次第に失われてしまいました。

リフレ派は、(武田真彦氏の連載記事では余り言及がありませんが)物価安定目標のコミットメントとそれを裏付ける具体的な金融政策の重要性を主張してきました。QQEを説明する日本銀行の資料でも、QQEの柱として物価安定目標へのコミットメントと量的・質的緩和という具体的な金融政策が説明されています。(*4)

リフレ派の主張と、マイルドなインフレを維持してい米国FRBのインフレ目標に関する声明は内容が良く似ていると思います。

マネーサプライについては岩田規久男氏は、デフレ脱却途上ではマネー・ストックが直ぐには増えない点を解説されています。
“ 図表21に示されたデフレ脱却のメカニズムでは,マネタリー・ベースは増えているが,銀行貸出とマネー・ストックは増えていない。なぜ,銀行貸出もマネー・ストックも増えずに,デフレから脱却できるのであろうか。それは, 家計も企業も資金余剰主体だからである。[中略]企業が大きな資金余剰の状態にある場合には,予想インフレ率が高まると,在庫投資や設備投資が有利になるため,企業は現金・預金を取り崩したり,その他の金融資産を売ることによって資金を調達して,投資を実行することができる。このように,銀行貸出が増えなくても,貨幣の流通速度が上昇して,資金調達が可能になるのである。銀行貸出が増えるのは,貨幣の流通速度の上昇では間に合わなくなるほど,資金需要が増えてからである。”(*2)

念のため、日本銀行の統計サイトで作成したM2, M3, マネタリーベースの対前年比のグラフ(*5)を見ておきます。

オレンジ色:M2(平均残高対前年比、左軸)、青色:M3(平均残高対前年比、左軸)、緑色:マネタリーベース(平均残高対前年比、右軸)

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M2, M3 の2008〜2014年に絞って見ると、2012年後半に伸び率が一段と増しているように見えます。2014年には上昇幅が何故か急降下した後、やや盛り返しています。(消費増税、追加金融緩和の影響でしょうか?)

画像2

為替レートはドル円(月中平均)の推移をグラフにしました。(データ出典:*6)

画像3

2012年後半に円安方向へ大きく動いていました。

国民の経済厚生の改善につながる経済政策やそれに資する議論が増えていくことを期待しています。

出典(*2)〜(*6)は、以下にまとめてあります。応援して下さる方、出典をご覧になりたい方は、ご購読をお願いします。


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