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リフレ派に関する連載ウォッチ#12

武田真彦教授の連載12回の最終回は「リフレ派の功罪、そしてリフレ派がすべきこと」(*1)という、マクロ経済の専門家としての知見を活かしての記事と思われます。

武田氏は” リフレ論争は単なる学術論争にとどまらず、1つの社会現象となった。これは、リフレ派に属する論者が歩調を合わせて提示した政策が政府与党に受け入れられ、完全な形で実現したのみならず、リフレ派メンバーが次々と日本銀行の執行部・政策委員会に入り、政策の策定・実施にまで直接関与するに至ったことによるものである“(*1)
と述べられています。

リフレ派の政策が完全な形で実現したかのような御見解のようです。
しかしながら、デフレ脱却よりも消費増税を優先するかのような黒田東彦日銀総裁の「どえらいリスク」発言や、消費増税により、総需要を下押しする財政政策が取られたことで、デフレ脱却が阻害されたことを充分に考慮なさっていないと思います。

黒田東彦氏の「どえらいリスク」とは、
“ 内閣府が内部でまとめた詳しい議事録によると、黒田総裁は金利急騰の危険性に触れ「確率は低いかもしれないが、起こったらどえらいことになって対応できないというリスクを冒すのか」と、政府側に予定通りの増税を強く迫った”(*2)
というものです。2度の消費増税延期がありましたが、日本国債利回りは0%近くないしはマイナスで推移しており、現実の経済やマーケットというよりも、元財務官僚として霞ヶ関3-1-1方面を向いた発言と取れます。


武田氏は、日銀執行部・政策委員会にリフレ派が入ったことに対して” 特定の金融政策論や政策処方箋に強くコミットした人物が選ばれたことはなかった“(*1)
と、述べられています。

僕としては、リフレ派以外が日銀執行部・政策委員会の9名のほとんどを長らく占めてきた、という事実の方が驚くべきことだと思います。世界標準的な経済学や金融政策に関する見識を持った人材(リフレ派含む)を遠ざけてきた、とも言えるからです。

日銀総裁人事は財務省と日銀のタスキ掛け人事が、副総裁には日銀理事からの昇格者1名は、そして、日銀政策委員会の人事では、学者枠、女性枠、産業枠、エコノミスト枠など、世界標準の経済学や金融政策に関する見識が充分に無い方であっても、日本経済に大きな影響を与え得る金融政策のボードメンバーになることが出来ていました。

標準的な経済学や金融政策に関する見識が乏しければ、日銀審議委員入りしても、「優秀な」日銀プロパーの支援により、旧い日銀寄りの考えに染め上げられていき、現状追認や旧日銀寄りの考え方や発言になってしまう可能性があります。
敢えて言えば、旧日銀に「染め易い」人であれば、長い期間に渡り、旧日銀と異なる考え方を持ったボードメンバーに波風を立てられずに済み、旧日銀は安泰と言える訳です。デフレが10年以上も続く訳です。

武田氏が”QQEの功罪“(*1)として5つのポイントを挙げられています。
僕が特に注目したのは4番目です。
”マネタリーベースの増加がマネーを増やし、総需要や物価に影響を与えるというリフレ派の単純な、抽象化された枠組みは、現実にはワークしなかった。IT導入により人々のインフレ期待が変化して均衡がジャンプするという、より洗練された経済理論もしかり。そして、マネタリーベースが人々のインフレ期待を動かすというリフレ派の「大発見」も、QQE開始後ほどなくして雲散霧消してしまった。“(*1)

マネタリーベースに関する指摘は、単純な貨幣数量説にリフレ派が依拠しているかのような誤解を招く表現だと思います。また、後半の” マネタリーベースが人々のインフレ期待を動かすというリフレ派の「大発見」”(*1)という武田氏による「小発見」は、デフレ脱却へのコミットメントにより、現在だけでなく将来のマネー増加を予想させ、期待インフレ率を上昇させることを狙い「期待」を重視するリフレ派の主張を正確に捉えるどころか、ミスリードしているように思えます。
旧日銀や、それと近い考えを持たれた方は、異様なほど「量的」な金融政策を嫌っている印象です。
ここで、日銀総裁としてデフレ維持元の金融政策を行った白川方明さんの論文を引用しておきます。

“為替レートの決定には現実の通貨供給量と並んで通貨供給量の予想も重要”(*3,p15)

“名目的(nominal)、貨幣的(monetary)な現象であるインフレーション”(*3,p19)

白川方明氏も「予想」(リフレ派が言う「期待」)の重要性をご存知だったからこそ、小出しの金融緩和でデフレ脱却してしまわないような金融政策を実行出来たのかもしれません。

武田氏は、“QQEの下で日本経済は改善したものの、リフレ派が掲げていたような目覚ましい復活は生じていない”(*1)
とも述べておられます。

物価目標未達な点はありますが、失業率低下や有効求人倍率の大幅な上昇など雇用環境は大きく改善しました。名目GDPもQQE開始前と比較して一時60兆円ほど増加し、税収も大きく伸びました。
拡張的な財政政策は極めてわずかで、その後、消費増税による需要下押しがあったにもかかわらず、です。
消費増税が無かったら、日本経済はもっと目覚ましい改善をしていたであろうことは、容易に想像できます。

消費増税の邪魔は入りましたが、日本経済、特に雇用環境と名目GDPを改善させたと言える金融政策。
QQEよりも前の日銀の金融政策が、世界標準的な経済学に基づくリフレ派の主張に基づくものであったなら、平成の長いデフレはなく、失業者数を抑え、名目GDPはもっと大きく、日本は豊かだったかもしれません。

武田氏はQQEを「微善微害」と表現されましたが、それでは、旧日銀のデフレ維持元の金融政策の評価は如何に?

僕には「独善極悪」と見えてしまうのは、経済学素人だからでしょうか。

武田氏の連載は最終回。
時間と気持ちに余裕が出来ましたら、総括する記事を書いてみたいと思います。


(*1) リフレ派の功罪、そしてリフレ派がすべきこと https://business.nikkei.com/atcl/seminar/20/00039/031100013/?n_cid=nbponb_twbn

(*2) 黒田総裁、消費税先送りは「どえらいリスク」 点検会合で発言: 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS06038_W3A900C1EE8000

(*3)マネタリーアプローチについて(白川方明氏)
https://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kks3-1.pdf


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