『孟子』万章上137ー孟子と万章の対話(3) 父母に嫌われた舜〈2〉偉大なる孝の悩み

*前回の孟子の言葉はつづきます。

帝(てい)は、自分の子どものなかでも、九人の男子と二人の女子それぞれに、多勢の役人と、牛や羊、それに穀物倉と米倉を与えた。
そのうえで、田畑で仕事をしていた舜に仕えさせた。

*帝とは、これまでにも登場してきた尭(ぎょう)のことです。

すると、天下の人士たちも、多くのものが舜についてまわるようになった。
そこで、帝は、天下が治まるのを待ったうえで、舜にその地位を移譲しようとした。
ところが、舜の方はというと、父母にしたがってもらえないがために、まるで困窮した人が帰る家もないような様子であった。

さて、天下の士(し)であれば、自分がその統治を任されることは、喜ばしいことであるはずだ。なぜなら、それが人の欲求だからである。
ところが、舜の場合は、それでも悩みを解消するには足りなかったのである。

それに、美人の色を好むといえば、人としての欲望である。
だが、舜は、帝の二人の娘を妻にしたというのに、それでも悩みを解消するには足りなかったのである。

また、富といえば、人が欲しがるものである。彼は富として、天下を納めたというのに、それでも悩みを解消するには足りなかったのである。

権威といえば、人が欲しがるものである。そして権威として、彼は天子となった。だが、それでも、悩みを解消するには足りなかったのである。

人であれば誰でも喜ぶこと、美人の色香、富と権威。
どれもこれも、舜の悩みを解消できなかったのである。
それはただ、父母が彼に従うことだけが、舜の悩みを解消できることだったからである。
人というものは、年少のときには、父母を慕う。
つぎに、異性の色香を知れば、美少女を慕う。
それから、妻子を持つようになれば、妻子を慕う。
そして、出仕すれば、君主を慕うものである。
そこで君主に気に入られることがなければ、君主に気に入られようと熱中するものだ。

さて、このような、めくるめく人生のなかで、大いなる孝行者だけが、父母を慕いつづける。
そして、五十歳をすぎて、父母を慕いつづけることができた者を、さがしてみたのだが…。
私は、偉大なる舜こそが、それに当てはまることを発見したのである。」

*以上、『孟子』万章上137ー孟子と万章の対話(3) 父母に嫌われた舜〈2〉偉大なる孝の悩み

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