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『孟子』73滕文公下―孟子と陳代の対話(1)信念を曲げず~ある虞人のこと

*今回は、弟子の陳代(ちんたい)との対話です。
陳代は、引きこもってしまった孟子を諭して、諸侯に出仕するよう薦めていました。

陳代は言った。

「先生が諸侯にお会いにならないのは、どうも、小さなこだわりがあるからではないでしょうか。
いま一度、先生が諸侯にお会いになり、大きな功績をあげれば、その諸侯を王者にすることができるはずです。
それに、小さな功績であったとしても、諸侯を覇者にすることはできるのではないでしょうか。
古の記録には、このようにあります。
〈一尺を曲げても八尺をまっすぐにせよ。〉

どうか先生、小さなことにこだわらず、諸侯にお会いしてみてはいかがでしょう。」

孟子は言った。

「むかし、斉の景公(けいこう)が狩猟をしていたときのことだ。
景公は、その山林を管理している虞人に、近くに来るよう指示を出すために、旌(し)の旗を掲げた。
だが、虞人は来なかった。
そこで景公は、この虞人を殺そうとした、ということだ。

*虞人とは、王の山林を管理する役人を指します。
旌とは、大夫を呼び出すための信号旗です。
ですが、虞人は、大夫の身分ではありません。
そのため、
虞人は、この旗の呼び出しに応じなかったそうです

さて、このような言葉がある。
〈志ある人物は、常に溝や谷間に捨てられる覚悟を忘れない。
勇敢な人物は、自分の首が撥ね飛ばされる覚悟を忘れない。〉

この言葉は、この虞人について称賛された孔子の言葉だ。
では孔子は、なぜ彼を賞賛したのであろうか。
それは、身分に従った正しい作法によって召し出されないかぎり、彼が、命を賭けてでも、その場を動かなかったからだ。
このような逸話があるほどなのに、招かれることを待つこともせず、こちらから赴くというのは、どういうことだ。

それに、〈一尺を曲げても八尺をまっすぐにせよ〉というのは、利益を追い求める言葉だ。
もし利益を追求するのであれば、では逆に、八尺を曲げて一尺をまっすぐにしたほうが利益があるなら、八尺を曲げてしまうのか。
…………。
*孟子の言葉はつづきます。

*以上、『孟子』73滕文公下―孟子と陳代の対話(1)信念を曲げず~ある虞人のこと
*『孟子』について詳しく知りたい方はこちら

【原文】
陳代曰、「不見諸侯、宜若小然。今一見之、大則以王、小則以霸。且志曰、〈枉尺而直尋〉、宜若可為也。」孟子曰、「昔齊景公田、招虞人以旌、不至、將殺之。志士不忘在溝壑、勇士不忘喪其元。孔子奚取焉。取非其招不往也、如不待其招而往、何哉。且夫枉尺而直尋者、以利言也。如以利、則枉尋直尺而利、亦可為與。……。

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