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『孟子』89 離婁上ー孟子の言葉(10)先人の知恵と仁

孟子は言った。

「ブンマワシとサシガネは、方形や円をえがくのに完璧なものだ。聖人は、人の倫理の完璧なものだ。

君主たろうとするならば、君主としての道を極め、臣下として仕えようと思うならば、臣下の道を極めるのだ。

この二つの道は、いずれも尭と舜を模範とすれば、それでよいのである。
舜が尭に仕えたように、君主に仕えることができないのであれば、その君主に不敬であるということだ。尭が民を治めたように民を治めないのであれば、その民を虐待しているということだ。

孔子は言っている。
〈道は二つ。仁か、仁でないか。それだけだ。〉

自分の民に暴虐にふるまえば、自分自身も殺されて国を滅ぼすことになるだろう。そうはならなくとも、自分の身は危うくなるし、国は弱くなってしまう。

こうした現象を、名づけて〈幽(ゆう)〉や〈厲(れい)〉と言うのだ。
その後の世代で、たとえ親への孝に努める子どもや、祖父への慈愛に満ちた孫が生まれ、百世代を経てたとしても、かつて仁ではなかったことから逃れることはできないのだ。

『詩経』には、このようにある。
〈滅びた殷(いん)のカガミ、遠くにはなく、すぐそこの、夏(か)の王朝にあったのだ。〉

この詩は、そのことを言いたかったのだ。」

*以上、『孟子』89 離婁上ー孟子の言葉(10)先人の知恵と仁

【原文】
孟子曰、「規矩、方員之至也。聖人、人倫之至也。欲為君盡君道、欲為臣盡臣道、二者皆法堯舜而已矣。不以舜之所以事堯事君、不敬其君者也。不以堯之所以治民治民、賊其民者也。孔子曰、〈道二、仁與不仁而已矣。〉暴其民甚、則身弒國亡。不甚、則身危國削。名之曰〈幽厲〉、雖孝子慈孫、百世不能改也。『詩』云〈殷鑒不遠、在夏后之世〉、此之謂也。」

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