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『孟子』71滕文公上―孟子と陳相の対話(6)許行批判~価値はひとしからず

*前回まで、長々と批判を浴びせられた陳相ですが、それでも孟子に反論します。

陳相はこたえた。

「ですが、許行先生の道に従えば、市場の物価は安定します。
それに、国内では詐欺行為も無くなります。
五尺の童を市場で買い物させても、その子を騙すような者もいなくなります。

麻の布であろうと絹の布であろうと長さが同じであれば、その価値は同じなのです。
麻糸でも、絹糸でも、重さが同じであれば、やはりその価値は同じはずです。
五穀も、どれであろうと、量が同じであれば、やはり同じ価値のはずです。
クツも、大きさが同じであれば、やはりどれも同じ価値でしょう。」

孟子は言った。

「そもそも、物はどれも、ひとしく同質であるわけではありません。
それは人の、物にたいする“情(じょう)”なのです。
あるものは、価値が倍であるかもしれません。
あるものは十倍や百倍、もしかしたら、千倍、一万倍であるかもしれません。

ところが、あなたは、あらゆる物を比べて、これらをひっくるめて同じにしてしまう。
これでは天下を乱してしまいます。

大きなクツであろうと、小さなクツであろうと、どれもこれも同じ価値になってしまったら……、
人が、どうして、いちいちクツを作るというのですか。

許行先生の道は、誰も彼もを率いて欺瞞を行おうというものです。

どうして、国家がうまく治まると思うのですか。」

*以上、『孟子』71滕文公上―孟子と陳相の対話(6)許行批判~価値はひとしからず
*『孟子』について詳しく知りたい方はこちら

【原文】
「從許子之道、則市賈不貳、國中無偽。雖使五尺之童適市、莫之或欺。布帛長短同、則賈相若。麻縷絲絮輕重同、則賈相若。五穀多寡同、則賈相若。屨大小同、則賈相若。」曰、「夫物之不齊、物之情也。或相倍蓰、或相什伯、或相千萬。子比而同之、是亂天下也。巨屨小屨同賈、人豈為之哉。從許子之道、相率而為偽者也、惡能治國家。」

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