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『孟子』75滕文公下―孟子と景春の対話 縦横家批判~大丈夫、おとこの道

*当時、縦横家と呼ばれる人々がいました。
彼らは、諸侯間の勢力均衡を目的とした、“
合従連衡”と呼ばれる外交を軸とした国家戦略を得意とする人々です。
その縦横家に、景春(けいしゅん)という人物がいました。
今回は、彼との対話です。

景春は言った。

「公孫衍(こうそんえん)や張儀(ちょうぎ)は、なんと、実にすごい男たち、まさしく大丈夫(だいじょうぶ)ではないですか。
彼らが、ひとたび怒れば諸侯は恐れをなし、彼らが動かなければ天下の兵乱が収まるのですから。」

*公孫衍と張儀は、いずれも縦横家の代表的人物です。
公孫衍は、当初は秦に仕えていましたが、後に魏に鞍替えしています。
また、張儀は、秦の強大化に貢献した人物で、魏や楚との外交戦に活躍した人物です。ちなみに、張儀も最晩年に魏に亡命しています。

すると、孟子は言った。

「それがどうして、すごい男ということになるのですか。
あなたは、まだ礼を学んでいないようですね。

男が成人して冠をつければ、父はこれに、大人としての心がまえを諭すものです。
女子が嫁に行くときには、母がこれに大人としての心がまえを諭し、門まで娘を見送って、彼女に戒めて言うものです。
〈その家に嫁いで行くならば、必ず家を敬い、必ず自らを戒めよ、夫に反抗してはいけませんよ。〉

このように、嫁ぎ先に順応することが正しいふるまいであるというのは、妻となる女の道です。
我らは天下という広大な空間そのものを住まいとし、天下のあるべき正しい位置に立ち、天下の大道を行なわなければなりません。
そして、自分の志が採用されれば、民とともに道を歩み、採用されなければ、自分一人で天下の道を歩むのです。

富や権力で、その心を淫らにすることができない。
貧しさや屈辱のなかでも、動揺することがない。
権威や武力でも、屈服させることができない。

これが、偉大な男、大丈夫というものですよ。」

*なお、今回の逸話は、“大丈夫”の出典とされています。

*以上、『孟子』75滕文公下―孟子と景春の対話 縦横家批判~おとこの道
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【原文】
景春曰、「公孫衍、張儀豈不誠大丈夫哉。一怒而諸侯懼、安居而天下熄。」孟子曰、「是焉得為大丈夫乎。子未學禮乎。丈夫之冠也、父命之。女子之嫁也、母命之、往送之門、戒之曰、〈往之女家、必敬必戒、無違夫子。〉以順為正者、妾婦之道也。居天下之廣居、立天下之正位、行天下之大道。得志與民由之、不得志獨行其道。富貴不能淫、貧賤不能移、威武不能屈。此之謂大丈夫。」

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