『孟子』101 離婁上ー孟子と淳于髡の対話(1) 兄嫁の手をつかむこと

*今回は、斉の淳于髡(じゅんうこん)との対話です。
淳于髡は、梁恵王篇に登場する斉の宣王の先代、威王(いおう)に仕えて以来、とくに外交で活躍した斉の重要人物です。
当時の斉は、豊かな経済力を背景として、学派を問わず多くの学者を都に集めていました。
いわゆる“稷下(しょくか)の学”です。
もちろん、孟子もその学者の一人でした。
淳于髡は、その学者たちの代表格でもありました。

淳于髡は言った。

「男女がなにか受け取りをする際に、自分たちで直接会わないというのは、礼なのでしょうか。」

孟子は言った。

「礼ですね。」

淳于髡は言った。

「それでは、兄嫁が溺れているので、彼女を助けるために手をつかむというのはどうなるのでしょう。」

孟子は言った。

「兄嫁が溺れているのに助けなければ、それは人でなしで、豹や狼と同じですよ。
男女が直接ものを受けとるのは、礼ですね。
兄嫁が溺れているので彼女を助けるために手をつかむのは、臨機応変の措置、つまり権です。」

淳于髡は言った。

「なるほど、では今、天下が溺れています。
先生が助けようとされないのは、なぜなのですか。」

孟子は言った。

「天下が溺れているならば、助けるには道が必要です。
そして、兄嫁が溺れていれば、助けるには手が必要です。
まさか…、あなたは、私の手だけで、天下を助けろと望まれているのですか。」

*以上、『孟子』101 離婁上ー孟子と淳于髡の対話(1) 兄嫁の手をつかむこと

【原文】
淳于髡曰、「男女授受不親、禮與。」孟子曰、「禮也。」曰、「嫂溺則援之以手乎。」曰、「嫂溺不援、是豺狼也。男女授受不親、禮也。嫂溺援之以手者、權也。」曰、「今天下溺矣、夫子之不援、何也。」曰、「天下溺、援之以道。嫂溺、援之以手。子欲手援天下乎。」

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