『孟子』離婁下136ー孟子の言葉(49)妻と妾を辱める良人(おっと)

斉の人物で、一人の妻と、一人の妾(めかけ)と、同じ家に暮らしている者がいた。
その人物は、外出すると、必ず酒や肉をたらふく食べてから帰宅した。
彼の妻が、飲食を一緒にした者を尋ねると、いずれも富貴な人物たちであった。
そして、彼の妻は、一緒に暮らしていた妾に告げて言った。

「良人(おっと)が出かけると、必ずお酒やお肉でお腹いっぱいにしてから帰ってくるでしょ。
それでね、あの人に誰と一緒に飲んでいるのか聞いてみたの。
そしたら、全員、富貴な方々ばかり。でも、これまでそんなお偉い方々がいらしたことなんてないでしょ。
私、あの人がどこに行くのか尾けてみようと思うの。」

そこで、朝早く目覚めると、彼女は良人の行く場所を尾けていった。

さて、彼は、斉の都城をひとまわりするばかりで、一緒に立ち話をする者すらいなかった。そして、彼は、最後に、都城の東門の外壁を出ると…、

なんと墓場で墓前祭を行なっている者に近づき、お供えの余りをもらったのである。
さらに、まだ食べ足りないのか、四方を見回して他の墓前祭を行っているひとびとを探し出し、同じように余り物をもらっているではないか。

結局、これこそが、彼が外出するたびに、腹を満たすためにあゆんできた道だったのである。

妻は、帰宅すると、妾に告げて言った。

「良人というものは、仰ぎ望まれるような生涯を全うしなければならないというのに…、今のあの人は、あんな体たらくで…。」

そして、妾と一緒になって彼を非難すると、中庭で互いに泣きくずれた。

さて、彼は、家でこんなことになっていることなどツユ知らず、意気揚々と外から帰宅した。そして、いつもどおり、妻や妾にたいして得意げに話をするのであった。

*この逸話について、孟子はこのように言いました。

「さて、君子の立場から、この逸話について考察してみよう。

世間には、人が、富や権威、それに立身出世を求める方法というものがある。
だが、彼らのなかで、自分の妻や妾たちに恥をかかせずにすむ方法や、互いに泣かずにすむ方法をとる者は、ほとんどマレにしかいない…、ということなのである。」

*以上、『孟子』離婁下136ー孟子の言葉(49)妻と妾を辱める良人(おっと)

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