『孟子』万章上145ー孟子と万章の対話(8) 尭舜革命の真相

*今回は弟子の万章との対話です。

万章は言った。

「尭は、天下を舜に与えたといわれますが、これは事実なのでしょうか。」

孟子は言った。

「いや、天子(てんし)が天下を人に与えることはできないよ。」

万章はあらためてたずねた。

「そうであれば、舜が天下を保ったというのは…、
誰が、舜に与えたのですか。」

孟子は言った。

「天が舜に与えたのだ。」

万章はさらにたずねた。

「天が舜に与えたというのは…、
天が懇切丁寧に、舜に命令をあたえたということなのでしょうか。」

孟子は言った。

「いや。天がなにかを言うことはないよ。
その人の行いと、その結果によって、天下を与えるかどうかを示すだけだ。」

万章は言った。

「その人の行いと、その結果によって、天下を与えるかどうかを示す…、
それは、どういうことなのでしょうか。」

孟子は言った。

「天子は、天に対して人物を推薦することができる。
しかしながら、天子の方から、天の力で、推薦した人物に天下を与えてもらうとことはできない。

諸侯は、天子に対して人物を推薦することができる。
しかしながら、諸侯の方から、天子の力で、諸侯の地位を与えることはできない。

大夫は、諸侯に対して、人物を推薦することができる。
しかしながら、諸侯の力によって大夫の地位を与えることはできない。

昔、尭が舜を天にむかって推薦すると、天もこれを受け入れた。
そして、舜の実力を民にあらわにしたうえで、民が彼を受け入れたのだ。

だから言うのだ。

〈天は語らず。
その人の行いと結果によってのみ、天下を与えるかどうか、示すのだ。〉

…とね。」

万章は言った。

「ぜひとも質問をおゆるしいただきたいのですが…、
尭が舜を天に推薦して、天がこれを受け入れたのですよね。
そして、天は、舜を民の上に現して民も舜を受け入れた…。
と、おっしゃられますが、これはどういうことなのでしょうか。」

孟子は言った。

「尭は、舜に祭りを主催させると、多くの神々がその祭りを受け入れた。
これは、天が舜の祭りを受け入れたと言うことだ。

さらに、舜にさまざまな事業を管理させると、その事業はうまく治まった。そして、多くの民たちがその恩恵に安心した。
これは、民が舜の事業を受け入れたということだ。

つまり、天が舜に天下を与え、人々が舜に天下を与えたということだ。だから言うのだ。

〈天子は天下を人に与えることはできない。〉

さて、舜は、尭の宰相として二十八年をすごした。これは人ができるようなことではない。天のお力なのだ。

尭が崩御すると、三年の喪を終えて、尭の子に遠慮して、南河(なんが)の南方に身を隠した。ところがだ…、
天下の諸侯で、天子に朝見した者は、尭の子ではなく、舜のもとに集まるようになったのだ。また、訴訟を起こした者もやはり、尭の子のもとではなく、舜のもとに向かった。それに、歌を謳う者は、尭の子をたたえる歌を謳(うた)わず、舜の歌を謳ったのだ。だがら、天のお力と言うのである。
このような情勢のなかで、舜は、ようやく中国に戻り、天子の位についたのだ。

これがたとえば、もし舜が、尭の宮廷に居座り、尭の子を脅迫したというのであれば、これは簒奪(さんだつ)である。天のお力によるものではない。
『尚書』の太誓篇にはこのようにある。

〈天が見ている。我が民の目にしたがおう。
天が聴いている。我が民の耳にしたがおう。〉
これはそういうことなのだ。」

*以上、『孟子』万章上145ー孟子と万章の対話(8) 尭舜革命の真相

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