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2023年の港南アクションを専門家が提案 キーワードは「調査」「文化」-品川スタイル研究所 公共空間活用プロジェクト第3回公開会議レポート-

品川駅の東側、改札デッキを通り抜けると目の前に広がるまち、港南。

品川スタイル研究所では「どうすればこのまちがより良くなるか」をテーマに、港南に関わる専門家の皆さまと意見を交わしあい、実証実験を行っています。今回お届けするのは2022年11月に開催された、最終回である第3回の公開会議レポートです。港南に関わる方も、そうでない方も。ぜひ、これを機会に港南の魅力について考えてみましょう。

会議参加者


竹内 雄一郎 氏
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室 リサーチャー

西倉 美祝 氏
建築家(一級建築士)/リサーチャー・コンサルタント

古屋 公啓 氏
港南振興会事務局長 港区観光大使

土屋 直亮 氏
渡邊倉庫株式会社(Wビル)開発部

長岡 公一 氏
NTTアーバンソリューションズ総合研究所(品川シーズンテラス)
街づくりリサーチ部 上席研究員 一級建築士

越智 裕子 氏
NTTアーバンソリューションズ株式会社
街づくり推進本部プロジェクト推進部

土田 恭四郎 氏
ソニーグループ株式会社HQ総務部
地域渉外・行政グループ 渉外担当マネジャー

齋藤 敦子 氏
コクヨ株式会社
ワークスタイルリサーチ&アドバイザー
一般社団法人 Future Center Alliance Japan理事

荒木 信博 氏
株式会社丹青社CMIセンター プロデューサー

辰巳 寛太 氏
株式会社アール・アイ・エー 東京本社
開発企画部室長 兼 プロジェクト開発部

加藤 友教(モデレーター)
品川シーズンテラスエリアマネジメント事務局
株式会社花咲爺さんズ代表

「公共空間活用プロジェクト」とは?


「港南のオープンスペースを活用することで、歩くだけで楽しいまちをつくれるのではないか」。本企画では3回にわたり、この仮説を軸に専門家や視聴者の皆さんと公開会議をしています。

公開会議として目指すゴールは何かを決めることではなく、フラットに言葉を交わしあうことにあります。これはさまざまな視点から港南を見つめることで、新たな可能性を引き出し、他のまちとは違う港南ならではのチャレンジをしたいと考えているからです。

第1回は港南の歴史や過去の事例、第2回はオープンスペースの活用事例を振り返りながら「多様性」「日常への調和」「共感性」を深掘りしました。第3回となる今回は来年に向けた提案や意見を交わしあう、未来につながる内容となりました。いったいどんな提案が出されたのか。気になる話の前に、まずは港南への知識をより深めるため、専門家から見た港南、そして自社スペースとして活用されるTHECAMPUSの取り組みをご紹介しましょう。

港南をさらに知る

1.みんなでつくる、未来の港南:株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 竹内雄一郎氏


株式会社ソニーの研究所に所属する竹内氏は情報工学と建築・都市デザインの境界領域を専門に研究する専門家です。そんな竹内氏は現在「Wikitopia Project」というものを進めています。いったいどんなプロジェクトなのか、それがどう港南につながるのかをお話していただきました。

竹内「Wikitopiaとは、Wikipediaのようにみんなの手によってまちを創ろうというプロジェクトです。そもそもコンピューターやデジタルの世界では、みんなで作るということが常態化していて、うまく機能しています。このような世界を現実のまちに起こそうというものですね。」

竹内「デジタル化されたまちと聞くと、スマートシティーが頭に浮かぶ方も多いかもしれません。しかし、Wikitopiaは最先端技術によってトップダウン的思考で創るのではなく、オンラインカルチャーにあるような民主制や双方向性を街にもたらすことを理想にしています。」
 
例えば、市民発信で予算を集めて公園を作ること、ゲリラガーデニングと呼ばれる空き地の緑地化、クラウドファンディングによるスペースの再開発など。このような取り組みは世界各国でいま広がりを見せています。しかし、このような取り組みをそのまま日本に持ち込んで実践するのは難しいと竹内氏は語ります。

竹内「海外の事例をそのまま取り入れても、結局そのまちの文化を無視しては本末転倒となってしまいます。だからこうしたアイディアは参考にしつつ、まずはSNSなどユーザーとして参加しやすいまちづくりの形を模索できればと考えてサービス作りをしています。こうした取り組みを先駆けて導入できるまちとして、多くの人が行き交う港南はとてもいい条件がそろっていますし、環境の整ったまちだと感じています。」

2.THE CAMPUSが変えた まちの景色:コクヨ株式会社 ワークスタイルリサーチ&アドバイザー 斎藤敦子氏


品川駅港南口から徒歩3分。オフィスビルが立ち並ぶ一角に、大きな木や階段が目をひく開放的なスペースがあります。ここはコクヨ株式会社が管理する、地域に開かれたパブリックエリア「THE CAMPUS」。オープンな雰囲気のラウンジや公園、ショップ、コーヒースタンドなど。近隣オフィスで働くワーカーだけでなく、地域住人もゆったりと過ごす憩いの場となっています。会社としてこのようなオープンスペースを持つことにはどのような意義があるのでしょうか。ワークスタイルリサーチ&アドバイザーの斎藤氏はこう語ります。

斎藤「このスペースはもともと40年以上建つ建物を『まちで働く チームで働く』をテーマにリニューアルしたものです。建物に向かって右側がオフィス、左側がショールームとなっており、総合レセプションの先にはオープンラボもあります。様々な人が集まれるパブリックスペースとしてご活用いただいていますが、まちのにぎわいをつくるだけではなく、オープンイノベーションを推進することがわたしたちコクヨの目標としてあります。」

斎藤「企業は常にオープンイノベーションが求められており、それぞれにラボラトリーを構えています。しかし、それは実験するだけでなく町にひらいていくことで未来をクリエイションすることが重要だと考えています。それを都市で実装していこう、という形で作られたのがTHE CAMPUSです。
THE CAMPUSのある品川エリアは産学官が近い距離感で集積しており、行政サービスと企業のイノベーションが両立されている都市ともいえるでしょう。わたしたちコクヨとしては、そうした外部との連携を深めながら港南を拠点に未来社会を共想していきたいと考えています。」

これからの港南に向けて 専門家が提案する3つの未来


港南の歴史や公開空地の活用事例、そして今回の竹内氏、斎藤氏の話をうけて港南というまちがより鮮明になってきたところで、ここからは港南の未来の話に移ります。この公開会議全3回に参加した3名による「未来の港南」への具体案の発表です。それぞれ空間活用やまちづくりに携わる専門家ということもあり、港南に関わりがない人も引き付けるようなユニークな案ばかりでした。

1.企業文化祭でまちと人を活用する:株式会社アール・アイ・エー 辰巳寛太氏


まちづくりに関するコーディネート事業を行う株式会社アール・アイ・エーの辰巳氏は、公共空間の活用に必要なのは分かりやすさだと語りました。

辰巳「公共空間があったとしてもそれをどう使えばいいのか。それをまず周知しないことには活用事例は増えていかないと考えています。そのためには公開空地がただの場所として存在するだけはなく、そのなかでどう利用できるかを可視化させる必要があるでしょう」。

辰巳「そこで、私は公開空地をつかったアイディアとして企業文化祭という案を紹介させていただければと思います。これは住民や企業から公開空地の活用案を募り、それぞれの展示や出店を同日に行うことでひとつのお祭りとして発信しようというものです。」

辰巳「これは実際に丸の内で実施した際の写真ですが、この回では自分事として行うちいさなまちづくりというのをテーマとしていました。それぞれの出し物を同じまちで行うことで様々なシームが重なりあい、場所を多いに活用して楽しめた事例かなと感じています。」

辰巳「具体的には港南がもつリソースを有効活用して、地元プロバスケチームの公開試合や、まち全体をつかった映画鑑賞イベントなど。それぞれの小さな取り組みをまとめてお祭りとして出すのもいいかもしれません。まちに詳しい人材が活躍してプロデュースするなどの参加型にすることで、より自分事になるイベントとして打ち出せるかなと思います。こうした学園祭的なイベントを通じて、港南の課題としてあがっていた、まちに対する愛着を持てる人がいなかったというところへのコミットするひとつの解決策となったらいいなと考えています。」

2.体験と許容空間の提供でまちのファンを生み出す:NTTアーバンソリューションズ総合研究所 長岡公一氏


次は、地域に開かれたイベントを数多く企画してきた品川シーズンテラスの運営に携わる長岡氏の発表です。長岡氏が注目したのはパブリックとプライベートがシームレスをつなげるというポイントでした。

長岡「いままでの公開会議を通じて、ふと気になったのはワーカーのまちというイメージの改善でした。働く場所の自由度が高まっている今だからこそ、パブリックとプライベートの境界がなくすことで働く環境も外に滲み出していく、そんな環境や回遊性がまちの環境を豊かにしていくのではないでしょうか。」

長岡「そこで今回提案させていただくのが、様々な企業のスペース、公共のスペースをつなぐ移動体験の提供です。図のオレンジ部分は企業内の公開空地ですが、実は歩くと少し遠く感じられる距離にあります。そこで、公開空地をつなぐ紫部分を活用する移動体験を提供できないかと考えました。」

長岡「企業前スペースはどうしたらよいかという点についてですが、わたしは日常を作ることが大事だと考えています。認知度も上がるし、場所のファンにもなってもらいやすいためです。それぞれのスペースが自然と有効活用されるような許容空間としてペイリーパークのようにできると、その変化も数値として提示しやすくなるのではないかと思います。」

長岡「最終的には『港南が楽しいと感じてもらえるような体験を届け、運河で分断されている職と住のエリアをつなげるとしてスペースが活用される』という流れを目指したいですね。」

3.「港南文化研究会」でまちの価値を知る:荒木信博氏


商業施設などの空間づくり事業を展開する株式会社丹青社の荒木氏は、港南に直接関係する人々(港南人)同士による相互認知、相互理解を促進する内向きの動きと、港南をとりまく人々(=通過する人々や来訪する他の地域の人々)と港南人との関係性を良好なものにする外向きの双方が重要だと語りました。

荒木「港南に対する内向き、外向きの動きを取り入れる必要があることを念頭に置いたうえで、今までの公開会議で出てきた港南に関わるキーワードを振り返ってみました。港南がもつ特徴、みんなが横通しでまちづくりに参加できるテーマ。それはやはり“文化”ではないでしょうか」

荒木「そして、今回は文化をキーワードとした活動のアイディアとして研究会の設立を案としてお話ししようと思います。この研究会は、ただ文化を研究するだけではなく、その調査や情報発信のツールとしてモバイルカーを運用。さまざまなコミュニティ(切り口)を複数設けてテーマ設定をしながら展開していくというものです。」

荒木「港南文化の情報発信機能を担うスタジオcarはLIVE配信機能を搭載して、車内から生レポート配信。カフェサービス機能を搭載したカフェcarでは特定の文化テーマに沿ったメニューを展開、地域住民との情報交換の場として活用するなど。さまざまな機能を搭載した車を運用することで、場所や時間を選ぶことなく気軽にイベントを開催することが可能となります。ひとつのイベントをやるときにも様々な切り口を持つことができ、港南のアイコンとしても活躍する。そんな未来を描けたらと考えています。」

これからの港南づくり どこから始める?


それぞれの発表を受け、ここからは参加ゲストが来年どんなことを出来るかをテーマに話していきます。

加藤「いままでの話を振り返ってみて、具体的な活動のなかに調査をふくめてもいいのではないかと感じました。具体的に何かをやるならば、まずは1歩ずつ進めることが重要だと、この公開会議を通じて感じましたね。」

竹内「調査ステップを入れることに賛成です。参加型のまちづくりにつなげるにしても、それぞれ地域差があります。なによりも土地に根付いた文脈のものをやることが重要です。他から持ってきたものは一時的に消費されてしまうので、まずは港南の方が持っている課題感を調査するステップを踏まえていくといいのではないかと感じました。」

西倉「わたしはアジェンダがエリア包括的なのか、限定的なのかが重要だと思います。港南エリアの多様性を整理しつつ、地域として他との違いを出せるかが大切ですね。ほつれた糸をほどくように、まずはひとつに絞って考えるのもありなのではないでしょうか。」

古屋「港南の特性のひとつとして、車の便の良さ、物流における利点というものがあります。イベントをやるときに道路を動的に使えると良いと思います。道路を使いながら公園で滞留をするというような、スムーズな動きで場所の使い方を誘導できるといいですね。」

土田「この公開会議で色々なキーワードが出てきましたが、それをみんなで共有したいと感じました。まずは限定的でもいいから社内でも深掘りするなど、一過性でおわらせることなく、小さなコミュニティから周知していくことが、わたしたちが最初に取り組めることなのかと思っています」

2023年の港南はどうなる?


今回は専門家による見解や具体案が示され、いままでの総括にふさわしい回となりました。この公開会議で生まれた共通言語は参加したゲストや視聴者だけでなく、港南で働く人、住む人など多くを巻き込んでこれから進化を遂げていくことでしょう。
 
もっと詳しく知りたい!という方はアーカイブ動画をご覧ください。

今までの会議をふまえて、品川スタイル研究所では2023年に具体的なプログラムの発表を予定しています。ぜひ、わたしたちと一緒に未来の港南を作りあげていきましょう。

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