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2023年の港南で何をする? 事例と分析から学ぶ港南の新たな可能性 -品川スタイル研究所 公共空間活用プロジェクト第2回公開会議レポート-

品川駅の東側、改札デッキを通り抜けると目の前に広がるまち、港南。

品川スタイル研究所では「どうすればこのまちがより良くなるか」をテーマに、港南に関わる専門家の皆さまと意見を交わしあい、公開会議を行っています。2022年の第1回となった前回は、港南エリアの歴史を振り返りながら公共空間活用の活用について語り合いました。その内容を踏まえ、第2回では実際のオープンスペース利用事例を見たのち、港南エリアに関わり深いゲストとともにトークセッション実施。新たな視点から港南を見つめる機会となりました。港南に関わる方も、そうでない方も、ぜひこれを機会に港南の魅力について考えてみましょう。

会議参加者


竹内 雄一郎 氏
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室 リサーチャー

西倉 美祝 氏
建築家(一級建築士)/リサーチャー・コンサルタント

古屋 公啓 氏
港南振興会事務局長 港区観光大使

土屋 直亮 氏
渡邊倉庫株式会社(Wビル)開発部

長岡 公一 氏
NTTアーバンソリューションズ総合研究所(品川シーズンテラス)
街づくりリサーチ部 上席研究員 一級建築士

越智 裕子 氏
NTTアーバンソリューションズ株式会社
街づくり推進本部プロジェクト推進部

土田 恭四郎 氏
ソニーグループ株式会社HQ総務部
地域渉外・行政グループ 渉外担当マネジャー

平野 順一 氏
港区芝浦港南地区総合支所 協働推進課長

荒木 信博 氏
株式会社丹青社CMIセンター プロデューサー

辰巳 寛太 氏
株式会社アール・アイ・エー 東京本社
開発企画部室長 兼 プロジェクト開発部

加藤 友教(モデレーター)
品川シーズンテラスエリアマネジメント事務局
株式会社花咲爺さんズ代表

「公共空間活用プロジェクト」とは?


「港南のオープンスペースを活用することで、歩くだけで楽しいまちをつくれるのではないか」。本企画では3回にわたり、この仮説を軸に専門家や視聴者の皆さんと意見を交わしていきます。

公開会議として目指すゴールは何かを決めることではなく、フラットに言葉を交わしあうことにあります。これはさまざまな視点から港南を見つめることで、新たな可能性を引き出し、他のまちとは違う港南ならではのチャレンジをしたいと考えているためです。

第1回公開会議では、港南の歴史や過去の事例を学びました。そして、第2回となる今回は、前回のキーワードである「多様性」「日常への調和」「共感性」をさらに深掘りしていきます。その一歩として、はじめに実際のオープン活用事例について振り返りましょう。

3つのオープンスペースとその事例から学ぶ、港南の可能性

事例1.品川シーズンテラス:NTTアーバンソリューションズ総合研究所 長岡 公一 氏 


品川シーズンテラスでは、オープンシアター、ハロウィン、イルミネーションなど、年間を通して、地域に開かれたイベントを開催。品川で働くこと、住まうことがもっとわくわくできる「新品川スタイル」を目標としています。担当の長岡氏が、スペースの活用によって地域の範囲が広がった事例として印象的だったと語るのが、2016年7月に開催された品川ウォーターテラスです。

広大な広場を活かして開かれたこのイベントでは、港南エリアに長く住む方も多く参加しました。今まで駅前エリアで休日を過ごすことが少なかった地域住民の方が、品川シーズンテラスを新たな遊び場として利用していた光景は、長岡氏にとっても想像以上のものだったといいます。

コロナ禍により一時イベントは休止が続いていましたが、今後は情勢を見極めつつ次第にイベントを再開。かつてのような、地域のにぎわい創出を目指すと語りました。

事例2.港区公園:港区芝浦港南地区総合支所 平野 順一 氏


港区芝浦港南地区総合支所の平野氏は、地域特性の観点から港南の特徴のひとつ、運河について語りました。実は、運河管理には入り組んだ法体系が存在し、知識を持ったうえで多くのステークホルダーと合意形成をとる必要があります。その反面、水辺の風景は地域の誇りにも直結する、地域の人からの関心が高い地域でもあります。このように利害関係、法体制が複雑な運河だからこそ、知識を得続けることが必要だと平野氏は語ります。

「水辺に関する課題を地域の人に聞いてみたら、北海道小樽にも負けないまちという言葉が上がったんです。そこで小樽の歴史について調べてみると、運河を軸に商売が始まり、まちが出来上がったことがわかりました。それと比較すると港区は港湾としての歴史も浅く、知識もないのが課題だと感じています。こうして他地域から学びを得ながらステークホルダーとコミュニケーションをとっていきたいですね。」

3.ソニー1階オープンスペース:ソニーグループ 土田 恭四郎 氏


2006年に本社移転以降、品川にオフィスを構えるソニー。日本を代表するグローバルカンパニーですが、なんと社内に地域渉外を担当する部署が存在します。ブランドの価値向上を目標に、港南を含む品川エリアとの渉外を担当している渉外担当マネージャー土田氏は、本社1階のスペース利用について多様な意図があることを語りました。

「ここは通り抜けできる通路でもありますが、ソニー製品の体験スポットや歴史を学べるヒストリーウォールなど、会社の情報発信の場として一般の方や社員に開放している場でもあります。また、過去には品川ハロウィンのスタンプラリー拠点としても活用されるなど、地域イベントへのスペース提供も行ってきました。スタンプを押した子どもが自社製品で遊んでいる光景も見たとき、このスペースの多様性をつよく感じました。今後もできる範囲で、スペースを地域に開いていきたいと考えています。」

港南を歩いて見えたオープンスペース活用のヒント「エクストリーム」


つぎに、一級建築士でリサーチャーでもある西倉氏から、独自の視点で港南エリアの課題、活用アイディアを語ってもらいます。今回のイベントに際し、登壇者でもある古屋氏の案内のもと港南を実際に歩いたという西倉氏ですが、そのなかで港南が持つある課題に気付いたといいます。

「いままで品川のイメージって”大きな四角い箱がいっぱいあるようなオフィス街”という感じだったのですが、昨日実際に歩いてみたら、すごく楽しいまちなんだと勉強になりました。いろんなモードの人が行き交う多様性と、運河が出来上がるまでの歴史が両立するこの風景がとても興味深いと感じたのですが、その面白さを知っている人ってすごく少ないと思うんです。だからこそ、まちの風景を見ることでまちの面白さに気付くような、気付きを与える仕組みがあるといいのではないかと考えました。

「たとえば、仙台市では滞在空地マップというものがあって、WEB上で誰でもアクセスできるようになっています。こうやって、まずはどんな場所があるかっていうのを周りに伝えるのがすべての第1歩になると思います。しかし、ただ紹介するだけではどう歩いたらいいのかわからないという人も多いかと思います。」

「そこで、今回は散歩や親子でのまちあるき、デートなど。ターゲットに合わせたルートとスポットの設定を解決策の一つとしてまとめてみました。具体的には、道路上に色を付けた線や石を配置することで、辿るだけで新しい風景に出会えるようなオブジェクトを配置するなど。まずは、まちを歩く目的やきっかけを作り出せたらいいのではないかと考えています。さらに可能であればその場の人の動きなどをリサーチすることで、スポットの構築などにつなげられると良いのではないでしょうか。」

「このとき、目を向けたいのがエクストリーム行為というものです。これは利用者の工夫や自由な発想から、その場が予測されていた使用方法とは異なる形で利用されることを指しています。わたしたちが認識していない可能性を、まちの人に引き出してもらうこのシステムは、まだ魅力が発見されていない港南に適していると思っています。

事例を見て考える、港南の2023年トークセッション


実際の事例、そして具体的な課題と解決策の提案を受け、「2023年に何をするとよいか」をテーマにトークセッションを行いました。興味深い意見が多く交わされたこのセッションを、今回はダイジェストでお送りします。


越智:
まちを見てみると既にエクストリーム行為がされている気もしています。これから実証実験をするときは、そのエクストリーム行為を引き出すような仕組みを作れたらいいですね。

土屋:
いままでオープン活用の利用となるとすごく大掛かりなイメージがありましたが、仙台の滞在空地マップのような、すぐに取り組めるところから初めて見たいなと思いました

西倉:
マップを作るときは、出来ることを示してあげるのが重要だとおもっています。例えば、ソニーさんのスペースでは歴史や製品について深く学べるということを伝えることで、より行きたいという気持ちを引き出せますし、逆に「写真撮影はOK、SNS投稿はだめですよ」みたいに出来ないことも明確に伝えてあげることで利用者の心理的ハードルはかなり下がると思います。出来る出来ないをはっきりさせることで、地域の人も関わりを持ちやすくなるのではないでしょうか。

辰巳:
いま実際に地図をみながら話を聞いていたのですが、どうして駅をおりたときに港南の特徴である運河を感じないんだろうと考えていました。そこで気づいたのですが、駅を出てまず目に映るのが建物で、囲われた空間にみえてしまう構造をしているんですよね。これは何かしらの方向で、見方を変えてあげる必要があるとおもいました。マッピングや公共空間活用はそのいいきっかけになりそうですよね。

平野:
それでいうと、少し前から港南の運河の良さが浸透していないというのは肌感覚として感じていました。管理側の視点からすると芝浦の運河と港南の運河はかなり違うんですよね。港南のほうが川幅が広くて空が広いなと感じますし、広さゆえに水質も気になりにくいと思います。でも、地域の方はあまり散策されていないようなので、魅力があまり伝わっていない気がしました。

古屋:
たしかに運河は港南にとって欠かせない風景なのですが、住んでいると当たり前の風景になってしまいますね。潮の香りや風景が日常に刷り込まれていて、魅力について言語化されていないと思います。

土田:
運河のことを話すと話が止まらないですね(笑)。このまえソニーが芝浦工場を作った1969年ころの航空写真を見てみたのですが、いまの運河の海岸通りのあたりは橋が架かっていなくて、ひとつの島のように感じました。地上を歩いていると橋を渡ったときに運河を感じますが、視点を変えてまちを見下ろすことで見えるものもあるかもしれませんね。

荒木:
この公開会議で歴史や事例を学ぶことで、港南の全体マップが自分のなかで出来あがってきました。こうして学ぶと景色が変わることを、地域住民や学生に伝えていきたいですね。ふるさとであるこのまちの歴史をつたえていくことは、まちおこしにもつながるとも思うのですが、同時にアプローチの範囲も難しいなと思っています。港南地域のなかで関係しているひとたちで共有するのも大事ですし、外の人たちをイベントなどで集めて共有するのも大事。このどちらを先にやるのか、順番はどうするのか、というポイントはぜひ皆さんと考えていきたい所です。

古屋:
ちなみに、前回の公開会議で事例として紹介した港南振興会主催のハーフマラソンイベントでは、地域内外の参加者比率はおおよそ半々といったところでした。情報の発信の仕方にもよりますが、地元の人と主語を共有しながら進めるのは、まちおこしとして大事な視点かと思います。

土田:
どうしても本社でワークショップをするとなると、HPに掲載するような会社としての発信になるのですが、いまの話を聞いて地域にも声をかけることが出来たらいいなと感じました。情報の公平性は担保しつつも、昼間人口だけに目を向けずに地域とのかかわりを持っていきたいですね

港南の未来はどうなるのか


今回のトークセッションでは2023年の港南、そしてその先にある30年後、40年後の港南について語られました。まちに関わる住民、ワーカーだけでなく、このまちをふるさとと呼ぶ次世代に響くようなまちをつくりたいという想いが、一人ひとりから伝わる会となりました。

もっと詳しく知りたい!という方はぜひアーカイブにてご覧ください。

最終回となる次回は、専門家から実際に「港南でやるべきこととできること」について提案していただきます。いったいどのような話が聞けるのでしょうか。次回も、ぜひ皆さんご参加ください。

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