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12月16日

【21時39分に着く。遅くなるから無理しないで】 
 出張にいった彼に何時に駅に着くのかとメールをするとそう返事がきた。
【うん】とだけ短く返す。 
 新幹線のホームから出てくるところをだた見たかっただけだった。重たいコートを着て重たいバックを持ってきっとくたびれた顔をしているだろう彼の顔を。
 雪がパラパラと降っている。今年は暖冬かとおもっていたのに急に大寒波がきて日本列島がおどろきを隠せない。雪対応にしていない地域。あんなフケみたいなわたボコに人々はかなり躊躇し怯えてしまう。ささやかな凶器だ。新幹線は無事に着くのだろうか。ニュースをチエックしてもどの線もまだ遅れはない。わたしはダウンを着、ブーツを履いて真っ赤なマフラーを巻き自転車で駅までもり漕ぎをした。顔に雪がぶつかってくる。初雪はけれどどこかワクワクする部分がありマスクを外して口を開ける。あーんと声を出して。雪はなんとなく口の中に入り瞬時に溶けてなくなる。ぼんやりとあかりのついた電灯を見上げる。雪が心もとないあかりに照らされやぶれかぶれに舞っている。神秘的な世界にわたしは自転車を漕ぐ足を止める。雪になりたい。彼はこの雪を見ているのだろうか。わたしはまた自転車を漕ぐ。駅に着き自転車置き場に置いて新幹線の入り口の前で彼を待つ。待てよ。とおもいSuikaで改札を通る。乗り換えをするためそっちのホームで待とうとおもいついたのだ。びっくりするだろう。わたしはつい頬が緩む。
 手がかじかんでいる。吐く息は真っ白でまるでタバコを吸っているみたいだ。アイコスは持っている。急にタバコを吸いたくなり喫煙所を探す。けれども全面禁煙でなく全くもうと肩を落とす。
 たった10日あってないだけでとてもあいたくて仕方なかった。なぜこんなにもあいたいのだろうかと考えてみる。したいだけなのだろうか。それしかおもい浮かなばない。体だけの糸で繋がっている。彼との行為はわたしが生きているという意味を示している。依存だとは承知しているし彼もまたわたしが依存体質だと承知している。あえない時間があればあるほど彼が好きだという自覚が芽生える。あっているときよりもなおいっそう。わたしはだから彼を待っている。

 新幹線が到着し乗り換えのため彼が上司とおもわれる人と並んでホームを歩いてくる。わたしには気がついてなかった。結構人がいたしわたしがまさかいるなんて皆目おもってなかったからだろう。彼は死にそうな顔いや顔はもう死んでいて途方に暮れたような顔をしており声がかけれなかった。上司もいるし。

【うしろみて】
 彼は後ろ向きに座っていたからその裏からメールを打つ。気がつかない。今度は電話をかけた。電話に気がついたみたいでけれど出なかった。
【うしろみて】
 また同じ文面を打つ。
 彼は何気なく携帯を見、そのあと何気なく後ろを振り返る。
 あっ、という目を向けうなずいた。わたしは手をふる。一緒に電車に乗ろうとしたけれどやめた。顔が見れてよかったよ。おつかれさま。とメールを打つ。
【うん。わざわざ来たんだね。ごめん】
 上司がスマホをいじっているのを横目に彼からメールが届く。
 こんなに近くにいるのにひどく遠い世界にいる気がして胸がざわざわする。電車が発車をする合図がホームに鳴り響く。待って、待って。彼はもうわたしの方などみてはいない。
 まさか誰もわたしと彼が繋がっているなんて知る者などいない。それがひどく不思議だった。彼の全てを知っているのに彼とわたしは今は他人のそれだ。
 電車はプシュと間抜けな音を鳴らしドアを閉め発車をする。
 雪の中に彼を乗せた電車が闇の中に吸い込まれてゆく。赤いランプが見えなくなるまでじっとみつめていた。じっと。雪が舞い散る駅のホームで。わたしは孤独だった。
 結局はさ他人なんだよな。付き合うっていったいなんなのだろう。よくわからない。理不尽なことが多い。彼はそもそもわたしのことをどうおもっているのだろうか。わからなかった。
 雪だけが今は全てであり雪だけが現実を突きつけてくる。鼻水が、垂れていた。寒い。体が。いや、心が。凍るのも時間の問題かもしれない。わたしはホームから踵を返す。

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