もも
スーパーに並ぶももをみて
「おしり」
と真っ先に叫んだ隣にいた小さな天使はやさしそうなパパとママの間に包まれるように立っていてその頬を目の端で捉えるようみるとそれはしかしまるで桃そのものだった。
桃のように薄いピンクをしておりちょっとだけ毛羽立ってみえるのは子ども特有の乾燥あるいは汚れなどでありそれがリアルにまるで桃を彷彿させる。
「なあに? ももたべたいのかな?」
ママは子どもの目線にあわせながらそっと訊いている。
子どもはううん、と首を横にふりつつママの目をみてまあるいどんぐりお目目で
「パパにね、パパがね、ももね、すきでしょ? だって」
たどたどしい口調でそういった。
パパが? ええ? 隣にいるじゃんよ。あたしはあまりに可愛らしい返答に微笑む。
「そうね」
ママがゆっくりと立ち上がり2個500円 —1個250円(税込270円)— を持ってカゴの中に入れた。
「わーい。ゆうくんもちょっとだけたべていい?」
ママはほとんど破顔し笑った。
「パパはそうね。匂だけでもよろこぶしゆうくんが選んだものだからもっと喜ぶわ」ママはクスクスとまた笑った。
盗み聞きをしていたわけじゃあないけれど会話自体がおかしいことに気がつく。パパはその会話の中にすっかりと省けになっているのだ。パパをみてみる。
パパはそこにいてニコニコと笑っている。
えっ!
一瞬にして鳥肌がたった。桃の毛のように。ピンピンに。
パパの足がないのだ。パパはあたしの方に一瞥をくれ目だけで笑った。果たしてあたしも申し訳ない程度のおじぎをしその場から離れた。
「お盆だもんねー」
スーパーの中にいる人々を眺めるとたまに足のない人がいる。
「お盆だし」
あたしはナスとキュウリとパピコを買ってスーパーを出た。
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