見出し画像

はまぐり

 金曜日の夕方。仕事が終わってから車でなおちゃんのうちに行った。最近はもっぱら車で行っている。つい先月までは自転車電車また違う電車そしてまた自転車とまあめんどくさかったなおちゃんちまでの帰路が今では嘘のようあっけなく着いてしまう。もともと長距離運転が苦手だしそんなことよりも車の運転事態が嫌いだった。それが、電車だと人ごみもあるだろうしコロナとか心配だしなぁ、ということもあってじゃあ車で行くわ。という結果になって車で行くようになった。なおちゃんは大体酒を飲んでいるのであたしのことをお迎えに来たり送ってくれたりとか数える程しかしたことがない。あたしの住んでいるところだって一度しか来たこともないしなおちゃんはどう思っているのか知らないけれどあたしはまずなおちゃんにとってとてもたくさんの秘密を抱えている。けれど彼はそんなことはどうでもいいようで目の前にあるあたしの存在だけが全てでありもし消えてしまうことがあっても、ああ来なくなったんだなで終わるだろうということはわかっている。だから余分なことはいわないしきかないししゃべらないのだ。こうやってあたしとなおちゃんはこの7月が来たら付き合って6年目を迎える。
 あたしは全く飽きてない。むしろまだまだ好きの方の割合が多い。
 けれど。最近はもう馴れ合い過ぎてしまいなおちゃんはあたしを抱きしめるがセックスはしない。してはならない体であるから今はちょうどいいけれど、なおちゃんはあたしを抱かなくなった。したいの、と誘っても、ああと目を逸らしきかなかったことにしてしまう。セックスだけじゃないからね。なおちゃんはそういいたいのかもしれないしもうめんどくさくなったのかもしれないしあるいはあたしにすっかり飽きてしまったのかもしれない。赤ちゃんでも同じおもちゃでばっかり遊んでいてはぽいと捨ててしまい新しいのを与えると目を輝かせ喜んで遊ぶ。なおちゃんも新しければ遊ぶのだろか。古女房に成り下がったあたしとなおちゃんはこの先もしかして『セックスレス』状態に突入をするかもしれないという危惧が拭えない。
 金曜日は絶対に泊まる。いつも先にあたしは眠ってしまい気がつくとなおちゃんは横にいて規則正しい呼吸で眠っている。
 下半身が異様にむずむずしてああなおちゃんがあたしの下半身を触っている。つい、ああっ。と体を震わせやらしい声を出し身震いをし、はっと目をさます。
 どうした? なおちゃんは震える体を抱き寄せながら背中をさする。怖い夢でも見たの? そんなことをいっていたような気がするけれどあたしの意識はなおちゃんの胸の中にもっていかれそのまままた意識を失った。はっ、また目がさめるともう明るくなっていてなおちゃんはガサガサと何かをしていた。
「おはよ」
 その背中に声をかける。「あ、おはよ。てゆうか今日ゴルフだった」
 まじでっ? 「あ、そうなんだ」なんでもないようにこたえた。
 昨日いえよ。と思いつつまあいつものことなんでと開きなおる。
「夜、なんかうなされていたけどまた」
「あ、うん。ほら、いつもの。金縛り的なやつ」
 あ、へえ、とまずもって興味なさげに雑な返事が返ってくる。夕方には帰るから。もっと早いかも。支度をしながらゴルフウエアに身を包むなおちゃんを目で追いながらあたしは布団を頭から被った。そのうち玄関の開く音がして次に施錠の音がし続いて車のエンジン音がしてなおちゃんは出ていった。
 時計を見たらまだ朝の7時だった。
 夜中に誰かとセックスしている夢を見て、ああっ、と声をあげたことを思い出す。相手はなおちゃんではない。誰だろう。顔がちっとも思い出せない。とゆうか幽霊だったのだろうか。あたしはよく幽霊とセックスをするしけれそれとは別によく怖い夢を見てうなされるのだ。そのたびになおちゃんは、どうしたの。とても心配をしてくれる。だから昨日もそうだったのだ。
 金縛りも得意分野でよくなる。あ、今夜は来そうだなと思えばくしなんの予兆もなくくるときもある。
 まだ7時か。
 起きようという思考もあったけれどまた意識を失って眠ってしまった。起きるとお昼だった。
 あたしはいつもなおちゃんを待っているなと寝ながら天気のいい空を見上げぼんやりと考える。帰ろうかなぁ、どうしようかなぁ、けれど帰ってもすることないしなと帰ろうかどうしようかという考えが帰る方に傾きかけたとき、慣れ親しんだ車のエンジン音がして、え? 立ち上がり出窓から見える車庫を確認した。なおちゃんが帰ってきた。
「あれ? 今起きたの?」
「起きた」
 早かったね。といおうとしてやめる。
「ゴルフ場もさ、暇だし、飯もなくて。まあコロナの影響もあって早めにおひらきになった」
 聞こうとしたことを見透かされたように先にいわれて、そうなんだね、ゴルフ場も自粛かなと苦笑まじりに笑う。
「スパゲティ」
 へっ? 変な声が出てなおちゃんが、なに驚いてんの? と笑う。
「ハマグリ買ってきたからさ。スパゲティにして食べようと思って」
 食べる? と聞かれ、くう、というと、わかったといい麺を茹で出す。なんでアサリじゃなくハマグリなんだろうなぁと思いつつなおちゃん本当は内緒で潮干狩りにでも行ってきたんじゃないのかなぁと疑ぐりのまなざしで見つめる。
 酔ってないときのなおちゃんは別人のようにかっこいいのだこれがまた。なんというかかっこいいのにボケた感じというか故意でそうして振舞っているかのような自然な態度。
「わっ、わわ、ハマグリでかいね」
 だろ? 大きいし味も濃いからそんなに要らないんだよ。と知った顔をしいう。
 へえ。大アサリかと突っ込みたくなるほど大きかった。そういえばハマグリなんていつぶりだろう。いやもしかして食べたことがないかもしれない。
 フライパンに白ワインを入れハマグリを投入する。少し経つとハマグリの蓋が開いて『やあ』という声がして『やあ。はじめまして』と挨拶をし、しばらくぱっくりと開いたハマグリとなおちゃんの横顔を交互にみやりあたしはああなおちゃんがやっぱり好きだと再確認をしなんとなく幸せを噛みしめる。
「出来たよ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?