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オンナでいること

 1日に5人のおとこがわたしの乳首を舐め胸を揉みしだき陰部を舐めあげ股を割り箸のように2つに割り容赦なく入ってきて出ていった。
 もう今さらなんともおもわない。無意味に天井だけをぼんやりとみつめる。天井にある壁紙が鳥の柄だったということに気がつく。鳥が揺れて視界が狭くなり、上にいるおとこの荒い息遣いだけが部屋中を満たす。
「いってもいい?」
 決壊が迫りおとこの声に余裕がなくなる。わたしはそこで勝ち誇った顔になる。
 うん、いいよ。という返事のかわりに、背中に回してある腕に力を込める。
 出してしまえば、わたしの役目は終わり、おとこの方も冷静になる。部屋に入ってきたときと終わって出ていくときの変わりようったらない。気分よく踵を返す。
 なんともおもわない。虚しいとか、苦しいとか、助けて、とかそうゆう負の感情は。

 わたしは決して普通ではない。普通の感性では風俗嬢などは皆目出来ない。性依存。風俗嬢がもっともなりやすい病気だ。
 おとこに満足をして貰えば自分が必要とされていると錯覚をし、もっと、もっと、しなくてはという危機感に駆られる。暇な時間の方がひどく疲弊する。
 不倫を繰り返すのもそう。
 家庭のあるおとこから自分の元に引き寄せたという変な自信。自己満足。全く持って悪いことなどしていないとおもってしまう。たくさんのおとこたちを相手にしたあとで平気で修一さんにあう。これも、もういかれている。

 それでも修一さんとの行為だけは特別かもしれない。けれど、不倫。罪悪感はけれどない。もうどうなってもいいや。どこかでそうおもってはいる。彼もそう。絶対にバレない。訳はない。事実、もう3回もバレている。修一さんは一体なにを考えているのだろう。

「わたしのこと好きなの?」
 半年にいちどくだらないことを訊いてみる。今日たまたままたホテルにいき終わったタイミングを見計らって訊いてみた。
「嫌いならあわないし、連絡もしないし」
 また常套句だった。そういうんじゃなくて。なんていえばいいのかな。好きっていう2文字だけが欲しいのに。その2文字だけでわたしは救われるのに。けれど、不倫だ。

「わたしは好き。もし居なくなったら死んじゃう」
 おおおげさなと小声で笑いながらいう。わたしの頬を撫でて。大きな手のひらで。わたしはたくさんのおとこのこともう忘却をし、今からまた新しい体になった気がした。
 わたしね、風俗で働いてるんだよ。嘘をついてるの。ねぇ、修一さん。それを知ってわたしを抱ける? いやだよね。どうおもう? 仕事だし、しょうがねーじゃんっていって笑う? どう? けどね、あなただって奥さんいるよ。風俗と不倫ともうわたしたちってダメでしょ? 

「おい!」
 考えごとをしていてその声にはっとなる。
「時計買おうかなっておもってる」
 そういえば何年前かは時計をしていたような気がする。だから、以前してたよねと語尾をあげ質問の形式をとる。
「してたよ。けど、すぐにだめになった」
「ロレックス!」
 なにを買うのかなにもいってはいなかったけれど、なんとなくロレックスのような気がして大声で叫んだ。
「え? なんでわかった?」
「へへへ。なんとなくね。で、なにがいいの? 種類?」
 これなんだよね。
 そういいスマホの画面をみせられる。
「わ、グリーン……。素敵」
 2021年の新作。パネルがグリーン色したロレックス。
「そんなに高くないから」
 いやいや、十分高いだろ? とはいえない。嫁さんに内緒では買えないしなぁとブツブツとなにかをいっている。
「買ってあげる」
 心の中での声。買ってあげるよ。わたしね、だってフーゾク嬢なんだ。なんならすぐにでも買えるよ。
「素敵だよ。似合うとおもう。さりげなくつけてるっていうのがいいよね。なにせ監督だしね」
 監督は関係ねーしなと笑いながらいう。
 窓の外から灼熱地獄の日差しが部屋に伸びている。
「外、ヤバイな」
「うん」
 ヤバいのはね、この状況だよ。修一さん。いつもおもってるけれど。
「シャインマスカットのソフトクリーム買ってよ。ミニストップで」
「お前さ、ほんとうにアイス好きだな」
「修一さんの方が好き」
 冷房が効きすぎている。ほんとうはアイスよりも温かいカフェラテが飲みたかった。
「ばか」
 好きに理屈などはない。不倫でも。わたしが風俗嬢でも。性依存でも。

 だって、人間はさ、いつはは死ぬんだから。だから、オンナを使ってなにがいけないのっておもってしまうわたしはきっとやっぱりばかなのだろう。

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