箱ヘル
「あけましておめでとうございます〜」
フロントのおじさんと目があいいつもは、おはようございますというけれど新年そうそうだったので新年の挨拶をするも
「あ、おめでとうっていうか部屋2番で。お客さん待ってるから」
焦った声でせわしなくいわれ、あ、はいといいすぐに部屋に入る。
去年は2日から営業をしていたけれど今年は4日からだった。お正月。暇。パチンコ。風俗。長期休みになると風俗は忙しくなる。それもお正月の初日。ももちゃんにあいにお客さんはニヤニヤした顔をしてくる。
部屋に入ると長く部屋を使っていないような新鮮な匂いがし深呼吸をした。いつもなら狭い小部屋はなにかがこもっている。おとことおんなの淫猥な匂い。その感じがまるでなかった。たった3日部屋を使わなかっただけなのに。
急いで部屋のスタンバイをしマジックミラーからお客さんの顔をいちおう確認し(といっても目が悪いので意味はない)チャイムを鳴らす。
『ピンポン〜』
カーテンが開いてフロントのおじさんにプレイ時間の書いた紙を渡され
「ももちゃんご指名のお客さまどうぞ〜」
お客さんが呼ばれそこで対面をする。確認だけれど近眼ですぐそこまで来ないとだれだかわからない。
「あ、オレオレ。覚えてる?」
部屋に一緒に入り開口一番、質問をされる。だれだっけ? さっぱりわからなかった。まあよくあるやつだ。
「はい。ってゆうか、」
わたしはふふふと笑い、オレオレ詐欺ですかぁ? とつけ足す。
「ははっ」
多分いつかはわからないけれどあったことのあるお客さんが気だるそうに笑い顔をみせた。
「1年くらい前に2回ほどあったことあるよ」
「あーそうですよねぇ〜」
しらないなぁ。お客さんの顔など4回くらいみないと把握できない。皆似たような顔をしており、だいたいがお腹がこれでもかというほどでている。
直人にあいたい。別れてしまったので別れてやっとなおちゃんのことがほんとうに好きだったなと実感をする。別れて気がつくことがある。とゆうか別れたから気がついたのだ。別れていないときは当たり前でも別れてしまったら後悔しても遅い。
「ももちゃん?」
あ、すみません、急に名前を呼ばれて現実にかえる。そこには知らない顔があり知らないいちもつが屹立をしている。
作業的にそこそここなし作業的な顔を向けお客さんの最近の出来事を聞きうなずき、へーだのあっそだのを繰り返す。
2時間コースだの90分コースだのがひたすらつづき、たださえ喋るのがめんどうでしんどいのにとりあえず聞き手にまわり愛想だけよくしておく。接客よりも喋るほうのがわたしは辛い。コミ症だし。
「最後お願いね」
休む暇もなくひっきりなしにお構いもなくお客さんがつき、もう腹ペコだった。合間にファミマのおいなりさんを急いでつまみ、口をモゴモゴさせてまたカーテンの前に立つ。
「え?」
久しぶり〜と対面したお客さんはわたしのほうが気に入っているお客さんだった。
「ももちゃんさ、あまり出勤しないからもうレアだよ。今日は嫁さんに嘘ついて連れときてる」
「え? 友達? あ、さっきトイレに入ったひと?」
「そう」
へー、そうなんだね。でもあえて嬉しいと笑顔でいい抱きつく。アメリカじゃね? という気分を一瞬味わった。ハーイみたいな感じ。
「お連れさんはだれ指名なの?」
「ゆずこ」
知らねーな。その実。何年も前からお店にいるけれどだれとも顔をあわせたことがない。
「ゆずこちゃんかぁ〜」
「知ってんの? 女の子同士ってさ仲良いの?」
質問が多いなぁとおもいつつ、仲良くないしと素直に仏頂面をしてこたえると
「ももちゃんって友だちいなさそ」
笑いながらそういわれて、いないよほんとうにとまた仏頂面をぶら下げていう。
「性格悪い?」
どうだろう? 首を傾げただけでなにもいえなくなった。そういえばとおもいだす。そういえば最近同性と喋ったことがない。おとこばかりを相手にしている。おんなという生き物は嫌いだ。めんどくさい。まあわたしもおんなだけれど。どちらかといえば考えはおとこだ。髭が生えてきそうなくらいおとこに近い。
お客さんはSでわたしはもうMすぎるのでウマがあう。だからあいたいのだろう。
「殺しそうになったし」
Sっけのあるおとこがよくわたしに向かっていう台詞だ。わたしはいつかきっとおとこの手で殺される。
本望だ。
「また出勤をみてくるわ」
「うん。またね。ありがとう」
お客さんはそういいのこし帰っていった。やれやれ。わたしの仕事がやっと終わった。ひどく疲弊をしていた。
最後の精算のときフロントのおじさんに声をかけられなんだろうと振り向くと
「ももちゃん、俺、今月でここやめるんだよ」
頭を掻きながらそう真顔でいった。転職をするという。
「え?」
変な声がでてしまいなんといっていいのか迷った。わたしはこのおじさんに大変お世話になっている。
「さみしくなります」
ぽつりとつぶやくと、そうだね。ももちゃんにあえなくなるよとおじさんは小声でつぶやいた。
「けど20日まではいるから」
「あ、はい。おつかれさまです〜」
間延びした返事をしフロントから踵かえす。この業界は入れ替わりが激しい。おんなもおとこも。ずっとやれない仕事なのだろうか。どうだろう。
寒いのでいやに厚着をしおもてにでるとそれでも寒く吐く息が真っ白だった。ミスドが近くにあり寄ってみるとなにいったいこれはくらいの長者の列で並ぶ気が起きず結果的にファミマにより肉まんとホットのカフェラテを買う。
アツアツの肉まんは毎年確実に美味しく変化をしている。肉まんマニアのわたしがいうのだからそうだろう。肉まんはけれど太る。まあいいけれど。
胃の中が肉まんで満たされると体内が急激に温かくなりわたしは駅の階段を軽い足取りでかけ上がった。
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