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2人のおとこと

 1日に2人の男と体を重ねた。どちらとも彼氏でもないしかといって嫌いでもないとゆうかとても好きな人だ。あたしの立ち位置に名前をつけるのなら『セフレ』という軽っーい名前になるだろう。
 年下の男の子と年上の既婚者の男。
 何も接点などはないし歳も年齢も何もかもが違うけれど共通することは何せ体の相性がいいのだ。
 ただするだけ。言葉などはあまりない。あるのは男たちの体温と息遣い。おもてから聞こえてくる雨の音。そしてあたしの感じる声。そのいちいちにあたしの背筋は凍りそうになりそして最後はやっぱり凍る。そして終わった後は必ず涙を流す。何の涙なのかわからない。けれど涙はとめどなく溢れてきて困ってしまうのはあたしではなく男の方だ。けれど毎回のことだから涙の訳を決して聞こうとはしない。
 ただあたしを抱き寄せて無言を貫く。そのうちスースーと寝息が聞こえてきてあたしもたちまち眠くなる。
「じゃあ、いくね」年下の男の子に着替え終わっていうとまだベッドにいる彼はうんとうなずきじゃあと手をふる。
 おもてはまだ雨が降っていてあたしの頬を濡らしけれどそれは涙と区別がつかない。
 悲しい訳じゃない。嬉しいのに。涙はとめどなく溢れ車の運転を困らせる悪質な材料になる。ワイパーを一番早くしても雨が降り視界が遮られて涙と混じり全く見えない。それでもあたしは既婚者の男との待ち合わせ場所に行く。たった今まで他の男と抱き合っていたのに。
 はたして彼は20分遅れて車を走らせてきた。
「久しぶり」
 あ、うん、と小声でうなずき助手席に乗る。
 やや車を走らせたあと、あたしにあいたくて連絡してきたの? といつもなら絶対にしない意地悪な質問をしてみる。もし怒ることがあったのなら雨のせいにしたらいい。
「そう」
 彼は雨だねくらいの軽い口調ですんなりと認めた。そうって、とあたしはいいかけて口をつぐむ。勘違いしてしまうじゃない。そんな簡単に心の内を見せて。ほとんど泣きそうになる前にホテルについてしまった。
 余分な話などはしないですぐに抱き合った。なんか痩せた? あ、うん、わかる? 現場が過酷だからね。他愛のないことだけ話てあたしと彼は無我夢中で抱き合った。やはりそこには2人の世界しかなくておもてから聞こえてくる雨の音と雷の轟音だけが鳴り響きあたしの声と彼が吐く時折のため息が余計に非日常を感じさせあたしはまた涙を流した。彼の前では泣くのはやめていた。けれどももう限界だったしやっぱり好きだということを再確認してしまって泣けてきた。もうあわない。あってはいけない。嫌いになりたいいやもう嫌いだと勝手に決めつけていたけれどあいたかったの? うんなんて素直にいわれたら断る理由など見つかるはずなどがない。
「そんな顔をしてあたしを抱かないで」
 え? 彼がアイコスを吸いながらあたしの方に顔を向ける。
「どんな顔?」
 だから、とその続きを話そうとしたら、泣くなよと眉をひそめて制された。またあたしは又しても涙を流している。
「ごめんなさい」
 なんで謝るのみたいな顔をして彼は黙っている。苦しい。さっきまで抱き合っていた瞬間だけは自由で饒舌だったのに。体と体を重ねる方がどうして饒舌になれるのだろう。
「もうあまりあえないかもしれないな。現場が遠くなるから」
「……ど、どこに?」
 彼はまあまあ遠いところの地名をいった。現場を3つ見るらしい。
「そう……」
 あえないなんて平気だといつも思っているしあえるのが奇跡くらいに思っている。けれどこうやってあえないことを本人から宣言されると胸が痛く締め付けられる。心臓を抉り取られるようなそんな感じ。
 好きという思いは素晴らしい感情でありけれど余分な感情だといえばそうかもしれない。男に翻弄され流されてあたしはいつまでこうやって流されていくのだろう。女である期間がもうあまり長くない。だからなのか余計に求めてしまう。
 女でなくなったとき本当にあたしは死んでしまうだろうという確固たる意思は確実に刻々と迫っている。
 雨が降っているときに限って彼を抱きしめてあたしをささやかに殺してゆく。ささやかな殺人犯。あなたはわかってる? ねえ? 


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