最後に
最後にしなくては。もうやめなくては。
あうたびにそうおもい、そうしようと心の中だけで決めただけで、顔をみるとつい、好きが溢れ過ぎてしまい、なあなあになってしまっていた。
7年と少し。
おもいの他長く付き合ってしまった。過去形。わたしと修一さんはもう終わったのだ。
「ごめん」
行為をしても最後まで果てることができなくなることが多くなってきて、いつも気まずい雰囲気になりだから、そんないいよぅ〜、と明るく振る舞ってはきたけれど、実際のところ、不倫だし、先はないし、あげく喋ることもあまりないし、ないし、ないしばかりの上に行為自体ももうしなくてもいいとなってしまえば、あう必要などはなくなってしまう。わたしはあえるだけでいいんだよ。などといってはみたもののあっても体を重ねることを避けるようになった既婚者のおとこになどもうあってもしょうがないとどこかそんなことも考えていた。
「もう、ダメなのかな……」
ベッドの上で天井をみつめながらため息とともに言葉も吐く。
「なにが?」
動く気配がしわたしのほうに顔を向けるのがわかる。修一さんとあう日はだいたいが雨だった。なぜ、今日にかぎって晴天なのだろう。新幹線が通り過ぎる音がする。
「わたしと修一さん」
また、新幹線が通った。このホテルは防音がなってないな。以前修一さんが外壁を叩きながらいっていたことをおもいだす。息を吸う気配がしたので言葉を待つ。けれど、待っても待っても返ってくるのは、重苦しい空気と見えない不穏な時間だけだった。
「わたしはね、抱いて欲しいだけなの。だって、ほら、もうわたしたちには先なんてないでしょ? けれど、それすらもままならないなんて。あう意味がみいだせないの。わたしのいっていることっておかしいかな。ただやみくもにしたい、したいって。おかしいのかな。おかしくないよね? だって──」
「ちょっと黙ってくれ」
だって、まで一気にいうとそこで遮られてしまった。
「──、そればっかりじゃ、ないだろ? 飽きたとか、そうゆうんじゃないんだ。仕事とかいろいろとあるんだよ。下半身の事情がさ。お前にいったところでわかってはもらえないけれど、おとこってさ、まあやりたいだけじゃないんだよ」
なにかいってはいたがうまく耳に入ってこない。どうでもいいように聞こえる。
今度は救急車のサイレンの音がし、目の前を通っていったようだった。
「──、お前と俺はもう全てが違うんだ。わかるか?」
わたしは黙殺を決めていた。だからうなずきもしない。それでも、無理矢理声を絞り出す。
「わかる、よ。わたしは修一さんに体と心を求めている。けれど、修一さんは特になにも考えてない。ただの都合のいい人間みたいな。そんなふうでしょ?」
「都合がいい? バカか? 俺、いつも時間がないっていってんじゃん。それでもこうしてお前にあってる。嫌いなやつにいちいち時間割くか? なぁ、おい」
もう、わからないよ! わたしはほとんど絶叫をし布団の中に潜ってしまった。
ああ、もうだめだな。
この関係をつづけてゆく自信がなかった。これ以上一緒にいたらお互いとても嫌な気分になってしまうし、それよりもお互いを嫌いになってしまう。嫌いでもなくかといって好きでもない曖昧な関係。このままフェードアウト。それがいいのかもしれない。
ほんとうにね、大好きだったんだ。であったときからずっと。今だって、大好きなんだよ。そういって抱きしめたかった。けれど、それすらもうできないほど修一さんは遠くにいってしまった。心が。体が。
不倫だから後ろめたいからこんなにつづいたのだろうか。わからない。今になってみたらもうなにが正解だったのかわからない。ただ、わかったのは、もうあうことはないだろうということだけだった。
「いつかは終わらないといけなかったんだよな」
修一さんの声が上のほうから聞こえ潜っているわたしの体に手を伸ばし、背中をさすった。
『背中触ってよ』
背中を撫ぜられるのがひどく好きだった。安心した。大きな無骨な手のひらで撫ぜられるのが。大丈夫。大丈夫といってもらっているような気がしたし、愛されていると錯覚をし、ここにいてもいいんだなとおもい、そして、わたしは今生きているんだという確認を得た。確認。生存確認。
親に愛されなかったわたしは修一さんに依存をし過ぎていたのだろう。そんなことずっとわかっていた。
「最後に抱いて」
小声でいいながら布団から這いでて、修一さんの体に抱きつく。
「最後って、なんだ?」
その声はわたしの唇で塞がれてないものになり、わたしは修一さんの舌を探しあてその舌を自分の歯で思い切り噛んだ。
ギヤーという悲鳴さえもわたしは塞ぐ。シーツが血で染まってゆく。真っ赤な舌の先っぽが枕の横に落ちている。
わたしを押し退けベッドの上で必死にもがいている目の前の愛おしいおとこにわたしは制裁を与えそして殺そうとしている。そのあと、きっとわたしも死ぬだろう。
「背中を撫ぜて」
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