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かんじょうのない女

 へえ。そうなんダァ。でもすごいね。ほら、なんかいつもいそがしそうでさぁ。ここのところどの男どもにあってもそんなようなセリフをいっているような気がしてならない。
 以前のあたしなら好きな男だからどんな話だって話すだけで嬉しくてなんでうまく聞けていた。喋るという行為よりもあっているという行為の方が凌駕していたのであって結局喋ることよりも肌を重ねる行為だけでよかったのだ。
 あう=セックス
 あたしの中の定義がそれなので無論その序章のお喋りである前戯など中華料理の前菜に出てくる紹興酒みたいなものだった。けれどここのところ紹興酒が異様にまずくて心ここにあらずとう感じで聞いている。
 よく喋るなぁ。あ、その話って前にも聞いたな。てゆうかなんか自分のことばっか話してあたしのことなんて見てないな。あたしは無料のホステスなんだなぁ。とかそうゆうことを思うようになってからだからなのかおそろしいほど狂ってしまうセックスもリンクしてどこか冷めているあたしがいる。
 嫌いになったわけじゃない。いや、嫌いになったのだろうか。いやいやそんなことないなだってあいたいしな。気持ちがどっちつかずになっていてけれどあたしは呼ばれたらあいにいってしまう犬のような女なのだ。

「出張行かなくて済んだけれど、草刈りを頼まれてさ」
 男が夕食を食べているとき堅いアメリカ牛を口の中で噛みながら話し出す。
 モゴモゴと動く口。牛肉を食べているけれど目の前の男が牛に見えなくもない。
「へえ」
 あたしの口の中にアメリカ牛が入っていて堅いので、「へえ」が「ウヘェ」になっている。で、それがどうしたんだ。あたしは話の続きを待つ。待つけれどやっぱりもう言葉は出てこなかった。こうなるともう肉の争奪戦が始まる。焼いては食べ焼いては食べて。野菜はピーマンだけ。あたしは野菜系が一切ダメなので自動的にピーマンだけ男の胃におさまる。
「雨だよなぁ。明日は」
 梅雨に入った。今もおもてからは雨が窓を叩く音が響いている。梅雨時期はジメジメとするしいつも体に重たい鎧を身につけているようで本当にうざい。
「そうね」
 その言葉は窓に打ち付ける雨の音よりも小さくて聞こえたかは定かではない。
 真夜中に一回。朝に一回。
 無抵抗なあたしの中に雑に前戯をして入ってきてでていき、男は朝から会社に行った。
 寝不足だった。確か布団の上置いてある時計を確認したら『2時』と『5時』だった。男はいたって寝不足ではないらしく快活にして出ていった。
 雨の音。まだそんなに降ってない。
 雨雲レーダーを見つつまた意識は遠くにある眠りの中に引きずりこまれてゆく。

「きゃっ」と声を出さない悲鳴はおどろいた顔を呈しているけれど裸で眠っているあたしにはもう抵抗などという単語などはない。
 会社から草刈りに行った男は汗だくで帰ってきたようでシャワーを浴びて濡れたままあたしの上に乗りかかってくる。ソープの匂いが鼻梁をくすぐる。またもや雑な前戯をして、舐めてと露呈された棹を差し出され口の中におさめる。うっ、という気持ちよさそうな男の声に顔を上げる。男は目を閉じていた。口唇奉仕。あたしは必死になって棹を上下させる。腰が震えているのがわかる。さらに緩急をつけ舌を蛇のようにねろねろと使い、棹が口の中でどくどく脈を打つのが早くなり、あっ、という声と共に口の中に生温かい液体が流れ込んできた。
 いつものことだけれどそのごは言葉はない。互いに処理をしまた布団に横になる。
「蚊に刺された。かゆいな。草ってさなんでこうも生えるのかな。ほら、雑草のように生きろ。みたいな比喩あるだろう。その意味が草を刈っていてさ、よーくわかるんだよねー。なんかさ。草を尊敬しちゃうよ」ははと笑い男はあたしを抱きしめた。うん。男の胸の中でうなずく。
 けれどどこか腑に落ちない部分はこの空虚さはこの意味のわからない憂鬱はなんなんだろう。
 一刻も早くシャワーをしたいのに男の胸の中から脱出するとこができない。男の力にはかなわない。男は勝手。男は……。
 勝手で自由でプライドが高い男たち。
 女はやはり男の支配下にいるものなのだろうか。
「女はさ、イワシなんだよね」
 ん?
 男はなにそれと笑う。
「イワシなの」
 スースーと規則だだしい寝息が耳に流れ込んでくる。出したら寝る。まあ定番だ。
「イワシってね魚へんに弱いって書くんだよ」わかる? と覗き込んだ顔はなんだか無精髭が生えている大きくなりすぎたいやおっさんの赤ちゃんがいるようでクククと笑いがこみ上げてくる。

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