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梅雨

 朝、目が覚めた瞬間に手鏡で顔をみる。よし、腫れてない。顔が腫れてないことを確認し、ベッドから這い出る。
 カーテンを開け、おもての様子を確認すると案の定、雨だった。
 昨日、美容外科に行き、おでことほうれん線にヒアルロン酸を入れてきた。四ヶ月前には糸リフトをしている。至るところににバグが起こる。そして修正をしてゆく。いまどきのヒアルロン酸はもちが良く一年〜一年半は保つ。
「うまく、入りましたよ。内出血もないはずです」
 いま、通っているクリニックの先生は女医さんで、わたしの希望通りに聞いてくれるし、無理をいわない。そして先生自身がおそろしいほど綺麗だ。
 それでも異物を体内に入れるわけであり、リスクがないとは限らない。だから今朝は不安だった。けれど、違和感は多少あるけれど内出血もなく普通だったので、ほっと胸を撫で下ろした。
 10時になり、じーさんから電話があり、ホテルにいく。じーさんはデリヘルのお客さんでいまだに電話をしてくる。
 部屋に入るとテーブルの上にスイカとミニトマトが置いてあり、ぎょっとなる。
「スイカ食べたいっていってたろ? まだ連れからもらえないから買ってきたんだよ」
 開口一番そう口にした。ニヤニヤした顔で。
「うわぁ〜! 嬉しい! ありがとうごさいまーす」
 ぱあっとひまわりでも咲いたかのような笑顔を向けてお礼をいう。しかしなぁと胸内でつぶやく。美容師の彼のうちの前にスイカ畑があり、そこの気前の良すぎるおじさんが大玉スイカを3つもくれて行くたびに食べているのだ。もう見るのもいやというと、俺もだよでもうめーなとそうした会話をして毎回食べている。美容師の彼は就職が決まりいま理容室にいき床屋さんをしている。
 じーさんとする行為など全くの拷問だ。けれどじーさんからするとわたしの身体は見事に綺麗だと褒め称える。75歳からしたらわたしは綺麗だろう。
 射精をするとき、あー気持ちがいい! と叫ぶのがひどく気味が悪い。吐きそうになるというか最後シャワーを浴びるとき絶対に吐く。吐いたものは胃液しか出ない。たまに白い蛇を吐くときがあるし、黒い蜘蛛を吐くときがある。わたしの肌に住んでいる家賃を滞納をしている動物たち。たまに出てきて、文句をいう。
「もっとさ、身体を大切に扱えよな。きたねーよ。お前はさ」
 特に蛇が文句を垂れる。背中にいる大きくて目の玉が入っていない蛇。
 うるさいな! と頬を膨らませわたしはバスタオルで身体を拭く。手彫りだから何十年経っても色褪せない刺青たち。
 わたしはどうしてこの子たちを飼っているのだろう。一緒に生きているのだろう。
 じーさんはよく昔の話をする。昔はよかったなとか昔はガソリンが100円だったよとか。どうでもいいことを。へーそうなんですかと適当に相槌を打つけれど、全くもってどうでもいい。早く帰りたいとおもっている。
 全てがもうどうでもいい。

「あのさ、やったあとさ、そっけなくする男ってその女のこと全く好きじゃないんだって」
 いとこのともこがそういっていた。
「え? いつもしたあと、彼、背中向けるけどね」
 はぁ? あんたってバカなの? 笑いながらいわれ、うん多分バカだとおもうけどと素直に認める。
「もうさ、やめたら。不倫は。ろくでもないよ。その男は」
「……」
 ぐうの音もでない。まさにろくでもないのだから。わかってるよといい返すと、わかってないくせにさと重ねていわれまた黙ってしまう。
 そんなこんなでもうそれもどうでもいいかもしれない。愛? 恋? なんか疲れた。
 生きているということはいつも疲れるし、必死だし、でも必死になりたくもないし、ということはわたしは生きていながら死んでいるのかもしれない。

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