あめ

 さっきまでピーカンでうだるような暑さだったのに急に空がグレーになってきてフラッシュ? と見まがう閃光の光のあとそれをすぐさま追うようにゴロゴロと猫の猫のご機嫌なときの声じゃないけれどお腹に響くようなかみなりが鳴った。「おう! びっくりしたぁ」とほんとうにおどろいたのはあたしではなく床屋のおじさんだった。「おれさ、まじで雷だめなんだよね。あとおやじと」なぁーんてとおやじがおやじギャグをいう。

「こわくないの? あなたは」髪を切りながら質問をされる。はいとくには。淡々と答えるあたしにおじさんはへえといい肩をすくめてみせる。いい歳をしてさ、男ってやつは。いやいやおやじってやつはと内心で毒づく。てゆうか口よりもさ手動かせよと文句をいいたくなるほど全く手が動いていなかった。床屋……。なぜあたしは床屋にきてしまったのだろう。ただ安くてただ全体的に揃えてもらうならまあ床屋でいっかというとても短絡的思考だったさっきのあたしにいってやりたい。とにかく一刻も早くここを出たかった。

「もしよければLINEしない? 君なんかいいね。ほら、なんていうかそのおもしろいよ」は? なぜにこの流れであたしがおもしろい人になりおやじとLINEをしなくてはならないのかと顔をしかめる。

「はぁ、まあいいですよ。けどあたし返事がめっちゃ遅いんで」またおもてが光る。「おう」とおやじがビビリ、いいよ別にと続ける。わーい。やったぁ。おやじは喜ぶ。

「これってまさかですけどナンパ的なやつですかね?」ちょっと疑問になり聞いてみる。「うん」おやじは素直に認めた。まあナンパですかぁ。ナンパですね〜。あたしは、ははと笑いスマホを取り出した。あっけなく友だちになってしまい少ない友だちの欄に【けんじ】という名前が浮かび上がった。終わったよ。とその声に顔を上げる。そこにはマスクをしたきのこカットのいや毒きのこになったあたしがいた。かわいいじゃん。というおやじの顔はマスク越しでもにやけている。おやじがちょっと首、襟足をそるねからねと声をかけ頭をおさえる。バリカンがばるでバイブのような音をたてて首筋を這う。店内にいる人は店員もあわせて皆男でおやじばかりだ。首が性感帯なあたしにとってこのバリカン行為はいやに刺激的でつい子宮がうなる。ぶるっと震え太ももをもじもじとさせると、(感じるの)と耳元で声がしてはっと顔をあげそうになるのを我慢しおやじがあたしの耳を舐めた。あん、と声がもれる。ここが感じるんだねとおやじは耳の穴に舌を入れネロネロと舐める。うう、くそっなんでこんなに感じるんだろうと自分の理性のなさに泣けてくる。おやじはいつのまにかあたしのスカートをまくりあげ一瞬のうちにその中に入り股を開かせパンツ越しのクロッチを舌でなぞる。ああやだけどもっと舐めて。仕切られているブースからは全く見えない位置に属している個室めいたところでまさかおやじがあたしの割れ目を舐めているなんて誰も思わないだろう。舌使いが絶妙での中のこの床屋での出来事に興奮もあいまってあたしは2度もぶさまにイッた。何食わぬ顔をして雑にほうきであたしの体をはらい、終わりましたよ。とまた何食わぬ顔のおやじの顔はあたしの愛液でだらしなく濡れていた。

「2000円です」やっす。やはり床屋は安かったけれどなぜかおつりですと1000円が戻ってきた。誰にもいうなよ的な目をしそう訴えているのがわかる。あたしはうなずきまたきますとたぶん行かないけれどそういっておく。

 おもてはさっきまでとは裏はらでまたピーカンに戻っていた。え? うそでしょ? けれど車は洗車後のように濡れていたからああやっぱりあめは降ったし雷も鳴ったんだと冷静になり一層きれいになった夏の終わりの夕方。思い切り肺の中に空気を吸い込んだ。今、あたしはノーパンになっているがまあそれでも構わない。おやじは1000円であたしの白くてど古いパンツを買ったのだ。

 まあいっか。あたしは車に乗り込んだ。

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