見出し画像

12月17日

 好き過ぎる。あうだけでもう嬉しくて満足してしまう。だからベッドの上での行為がまるで感じれない。好きだから抱き合いたい。好きだからキスをしたい。けれど好き過ぎるとなんでこんな複雑な気持ちになるんだろう。過ぎる。だからだろうか。ほどほどに。ではないからなのだろうか。中毒かしら? 依存なの? わからない……。
 とはいえず、わたしはまた奥さんのいる男にあい抱かれている。喘ぎ声もうまく出せずあうたびに嘘くさい声になっているようで自分をオープンにできない。
「マジで汗かいたし」
 行為が終わりさっきまでおそろしく寒かった部屋なのに男は汗を薄っすらとかいている。暖房くらいつけとけよとホテルの部屋に入ったとき男はチッと舌打ちをした。こんなに寒いのにと付け足して。
「けど、」
 背中を向け肩で息をしている男に声をかける。けど? と男は語尾を上げて先を促す。
「だ、けどね。今日はどうして帰ってきたの?」
 ここ最近現場が遠くずっと現場近くのビジネスホテルに連泊をしていた。帰ってくるのは大体の週末か10日後くらいだった。着替えがなくなれば帰る。そんなサイクル。
 お前にあいたかったから。というセリフを妄想する。キャ、ありがと。わたしもあいたかったの。すっごーく。すっごーのあたりを強調してかわいい仕草をする。
「別に。気まぐれ。だし、寒いから」
 妄想とは掛け離れた回答だった。想定内。男がわたしにあう意味は抱きたいからの一点だけだ。好きとか愛してるとか。そうゆうピンク色をした浮き立つ心など毛頭ない。
 男が体勢を変え天井を見上げる形になる。そっとその横顔を目だけで盗みみる。きれいな稜線を描いてるなぁとつい見惚れてしまう。あーもうと心の中でうなる。どこか一個でも嫌いなところがあれば欠点がみつかればどれだけ楽になれるだろう。鼻毛が出ていてもいいしなんなら禿げていてもいいのに。徐々に歳はとっているけれど男の場合は良い意味でうまく歳を重ねているようにおもう。
「そういえばわたし今月誕生日だよ」
 いやだなぁといかにもいやだけどいいましたみたいな口調でいう。
「28日だよな。いくつになった?」
 おぼえてたんだなぁ。嬉しかったから嬉しいといいついでに年齢もいう。
「まだ? そんな歳だっけ?」
「うん」とうなずき、何年生まれかを告げる。
「そっか」
 何がそっかなのかわからなかった。わかっているのは男と出会ってから迎える誕生日の数が今回で7回目になるということだ。けれどあえていわずにおいた。いったところで、へえとうっすーいリアクションをされるに決まっている。
「まほちゃんは? 大学決まったの?」
 さあ、と他人事のよう首を傾げ、あ、そういえばさ、と笑いながらこっちに体をひねりわたしの胸を触る。
「学校のテストでさ、名前をカタカナで書くのがあって、まほのまが『ア』になっていてさ、『マホ』が『アホ』になっていたらしく先生に『アホさん』と呼ばれてはぁ? って逆ギレしてやったたしいよ。学校側の入力ミスらしいけど。てゆうかさ、普通そんなこというかなって、俺不思議だったよ」
 胸を触りながら話すことじゃないでしょとおもいつつ、あははと笑い、まほちゃんも災難だったねという。
「まほだけまだ進路が決まってないらしい」
「そ、そう……」
 男の指がいたずらにわたしの頂をつねる。声がもれそうになるも抑えるのに必死で頭の中がぼんやりしてくる。体がひどく熱い。男はもう涼しい顔をお父さんの顔をしている。お父さんの、顔。
 まほちゃんにあったのはまほちゃんが小学6年生のときだった。スラーッと背が高く髪の毛の長い色白の少女だった。今はもう高校3年生。どんな風に育ったのだろう。まほちゃん、またお父さんを借りたの。ごめんなさいね。きちんと返すねと心の中でささやかに謝る。まほちゃんに罪はない。そう考えるとわたしが一番悪いのではと考えてしまう。
「わたしって悪い女だよね……」
 ん? なにそれ。と男は笑いながら覆いかぶさってきて首筋に舌を這わせる。
 わたしは男の頭を抱え撫ぜながらささやく。
「お父さんダメだね。浮気してさ」
 浮気だし。いいじゃん。男の声がしたような気がしたけれどおもてからの喧騒で車のエンジン音と新幹線の走る音が時折耳の中に入ってきては消えていきその合間にわたしの悦の声が小さな音となり部屋の白い壁の中に吸い込まれてゆく。バレるまできっと続く。バレてからでは遅いのに。傷つくのは当事者だけじゃないのに。わかってはいる。けれどもただただ現実から目を背けたいだけだって。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?