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学校法人制度改革に続き、教育未来創造会議の提言

私立学校法改正法案の骨子(2022年6月現在)
 
学校法人のガバナンス(統治)を強化する私立学校法改正案について、文部科学省は、今国会への提出を見送る方針を固めたため、秋の臨時国会での審議となることが確定しました。しかし、私立学校法人の関係者にとっては、制度改正に伴う私立学校法の内容が明確になるとともに、施工後の経過措置についても非常に関心の高い所であると思います。
その意味でも、現在の情報の範囲で整理可能なものを整理することに意義があると考えましたので、その概要をご紹介します。

1.目的
学校法人における円滑な業務の執行、幅広い関係者の意見の反映、逸脱した業務執行の防止・是正を図るため、理事、監事、評議員及び会計監査人の選任及び解任の手続、理事会及び評議員会の権限及び運営等の学校法人の管理運営に関する規定を整備するとともに、特別背任罪等の罰則について定めるとされています。
今回の私立学校法改正は、学校法人の不正を正すことに主眼が置かれているということがはっきりとしています。
2021年秋ごろに有名私大理事長の不祥事が世間を賑わせましたが、このように一部の理事による経営判断で私立学校が運営されることを防ぐことを主軸にした法改正となります。
文部科学省としても、税制優遇や莫大な補助金が投入されている私立大学の不正に対しては、立場上、是が非でも改善したいという思いが感じあられるものとなっています。
今までは、理事や評議員は理事会で選任し、重要議案は理事会の決議のみで意思決定がなされていましたが、一部の学校法人ではこの仕組みが不正の温床となっているということを物語っているのでしょう。
 
2.基本的な考え方
学校法人の機関設計について、「執行と監視・監督の役割の明確化・分離」の考え方から、各機関の権限分配について、法人の意思決定と業務執行の権限や業務執行に対する監督・監視の権限を明確に整理し、私立学校の特性に応じた形で「建設的な協働と相互けん制」を確立する観点から、必要な法的規律を共通に明確化して定めるとされています。
現状の私立学校法においても、「評議員会による諮問」や「監事による理事の業務執行状況の監査」等により理事会への牽制機能は法律上担保されていましたが、今以上に各機関の権限を整理することにより役割の明確化を行うことが基本的な考え方として示されています。
 
3.学校法人における意思決定
学校法人の意思決定の権限については、次に掲げる措置その他必要な制度改正を実施するとなっています。
①大臣所轄学校法人における学校法人の基礎的変更に係る事項(任意解散・合併)及び重要な寄附行為の変更について、理事会の決定とともに評議員会の決議(承認)を要することとする。
現状では、寄附行為等の重要事項を審議する場合、評議員会で反対意見があったとしても、あくまでも「評議員会は理事会の諮問機関」という位置付けのため、評議員会の意見を無視し理事会は議案を承認することができました。しかし、法改正により理事会が承認している決議事項であっても、評議員会の承認・決議を得なければ、議案を執行することができなくなります。
このように、理事会に集中していた権限を評議員会へと分散することで、理事会・評議員会の相互牽制機能を担保することになります。
 
4.理事・理事会
理事・理事会については、次に掲げる措置その他必要な制度改正を実施するとされています。
①理事長の選定及び解職は、理事会において行うこととする。
②業務に関する重要な決定は理事会で行い、理事に委任することを禁止することとする。
③理事の選任を行う機関(以下「選任機関」という。)として評議員会その他の機関を寄附行為で定めることとする。評議員会以外の機関が理事の選任を行う場合、あらかじめ選任機関において評議員会の意見を聴くこととする。
④理事の解任について、客観的な解任事由(法令違反、職務上の義務違反、心身の故障その他寄附行為で定める事由をいう。以下同じ。)を定め、評議員会は、評議員会以外の選任機関が機能しない場合に解任事由のある理事の解任を当該選任機関に求めたり、監事が機能しない場合に理事の行為の差止請求・責任追及を監事に求めたりすることができることとする。評議員は、これらが機能しない場合に自ら訴訟を提起できることとする。
⑤校長理事については、解任事由がある場合に理事としての解任がなされるように措置する。
⑥大臣所轄学校法人においては、外部理事の数を引き上げることとする。また、個人立幼稚園などが学校法人化する場合の理事数等の取扱いを定める。
⑦理事の任期は、選任後4年を上限に寄附行為で定める期間内の最終会計年度に関する定時評議員会の終結の時までとし、再任を認めるとともに、理事の任期が監事及び評議員の任期を超えてはならないこととする。
⑧理事は、理事会に職務報告をすることとし、知事所轄学校法人については、実情を踏まえた柔軟な取扱いを認めることとする。
⑨理事は、理事の立場で評議員会に出席し、必要な説明をすることとする。
まず、理事長を理事会で選任するという仕組みは維持されるものの、理事の選任は、理事会ではなく「評議員会」や「その他に寄附行為で定めた機関」で行うことになります。
しかし、“評議員会以外の機関が理事の選任を行う場合、あらかじめ選任機関において評議員会の意見を聴くこと”という条件があります。よって、大半の私立学校法人では、評議員会が理事を選任する形で寄附行為を改正するのではないでしょうか。
次に、外部理事の数の引き上げですが、現行では外部理事を1名以上置くことが必須条件となっていますが、今後は高等教育の修学支援新制度の認定条件にそって2名以上へと引き上げられることになります。
 
5.評議員・評議員会
評議員及び評議員会については、次に掲げる措置その他必要な制度改正を実施するとされています。
①理事と評議員の兼職を禁止することとする。
また、評議員の下限定数は、理事の定数を超える数まで引き下げることとする。
②評議員の選任は、評議員会が行うことを基本としつつ、理事・理事会により選任される者(卒業生・同窓会、教職員等)の評議員の定数に占める数や割合に一定の上限を設けることとする。
③教職員、役員近親者等については、それぞれ評議員の定数に占める数や割合に一定の上限を設けることとする。
④評議員は、学校の教育研究への理解や法人運営への識見を有する者とする。
⑤評議員の任期は、選任後6年を上限に寄附行為で定める期間内の最終会計年度に関する定時評議員会の終結の時までとし、再任を認める。
⑥大臣所轄学校法人の評議員会について、評議員による招集要件の緩和や議題提案権を措置する。
⑦評議員は権限の範囲内において善管注意義務と損害賠償責任を負うことを明確化する。評議員の不正行為や法令違反については、監事による所轄庁・理事会・評議員会への報告や所轄庁による解任勧告の対象に加えることとする。
 
このような改正点のかなで、理事会や規定改正担当の事務部門にとって最も頭が痛いのは、理事と評議員会の兼任を禁止すること、さらに、評議員の定数を理事の2倍を超える数から理事の定数を超える数へと引き下げることではないでしょうか。
どのようなご経歴の方が理事、評議員として識見があると考えられるのか。また、その基準などが明確に打ち出されるのか。この点はいまだ未知数です。しかし、この改正により、諮問機関であった評議員会の権限が強化され、理事会のみの決議では執行できない業務ができるということは明らかです。この効果がどのように表れるのかは期待するばかりです。
改正後は、評議員会に理事ととして出席し、理事としての業務執行の説明責任を果たさなければならなくなります。
また、評議員会が議決権を持つことに伴って、理事だけではなく評議員も善管注意義務や損害賠償責任を負うことになります。
 
6.監事
監事については、次に掲げる措置その他必要な制度改正を実施するとされています。
①監事の選解任は、評議員会の決議によって行うこととする。
②役員近親者が監事に就任することを禁止する。
③監事の解任について、客観的な解任事由を定め、監事は、評議員会において、監事の選解任又は辞任について意見を述べることができることとする。
④監事の任期は、選任後6年を上限に寄附行為で定める期間内の最終会計年度に関する定時評議員会の終結の時までとし、理事の任期と同等以上でなければならないこととする。
⑤特に規模の大きい大臣所轄学校法人については、監事の一部を常勤化することとする。
⑥監事は、評議員会に対する監査報告に限らず、評議員会に出席し意見を述べることとする。
監事の常勤化については、学校法人の規模による対応が期待されるところです。文部科学省は、これまで定員管理の考え方として、私立大学においては「4,000人未満を小規模」「4,000人以上8,000人未満を中規模」「8,000人以上を大規模」と定めていますが、この度の改正は、学校法人全体となりますので、高等学校を複数設置校として抱えている学校法人を含めてどのような基準が示されるのかが論点となりそうです。
 
7.我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について
 (第一次提言)(令和4年5月10日)

学校法人制度改革に引き続き、内閣官房教育未来創造会議担当室より「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」が5月10日付で公表されました。
主な概要は、我が国が置かれている現状や人材育成を取り巻く課題を踏まえ、基本理念、在りたい社会像、目指したい人材育成の在り方を整理したもので、以下の点に焦点をあてて、今後取り組むべき具体的方策を取りまとめたものとなっています。
①未来を支える人材を育む大学等の機能強化
②新たな時代に対応する学びの支援の充実
③学び直し(リカレント教育)を促進するための環境整備
この提言を推進していくことを前提に、文部科学省では、大学の大幅な改革を迫ってくることが予測されます。
つまり、補助金による誘導や高等教育への就学支援新制度の設立、さらには、上記の学校法人制度改革に基づくガバナンスへの大きな期待、そして最終的には、教学マネジメントの在り方や設置認可・審査、大学間・産官学連携の促進などが容易に想像できるのではないでしょうか。


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