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ハンバーガー屋さんのラノベの話 秋山瑞人の話

みなさん渇いていますか?(挨拶)

今から書くことは、いってしまえば僕の思い出話だ。
あるいは多くの人、ライトノベルというジャンルに青春を捧げた誰かの思い出話だ。

あるいは同志諸君、秋山瑞人を渇望する者共の嘆きだ。

秋山瑞人という作家との出会い

めちゃくちゃ気持ちがいいぞ、と誰かが言っていた。
だから、自分もやろうと決めた。
秋山瑞人『イリヤの空、UFOの夏 その1』冒頭 

2001年。僕はまだ中学生だった。
アンゴルモアの大王は降ってこなかったし、2000年問題も子供すぎて実感はなかった。
でもどこか世間は終末を引き摺っていたように思えたし、僕は意識していたのかしていなかったのか、結果として終末系の物ばかりを読んでいたように思う。

2001年10月。今ですら引き摺っている『イリヤの空、UFOの夏』が出版された。
正確にいつだったかは記憶が定かではないが、僕はそれを比較的にすぐ、購入した。
いつかは定かでなくても、場所ははっきりしている。金沢文庫駅を西口から出て、釜利谷へ向かう途中。今はGOLF5か何かになってしまった建物の隣にあった本屋だ。

理由は簡単。駒都えーじの絵が可愛いから買った。
オタクの子供はそんな理由でしか本を買わない。少なくとも僕はそう。

読んでみて、きっと僕は不思議に思ったはずだ。
何故って、主人公の浅羽は本当にありふれた人物で、どこにでもいるような奴だったからだ。
これまで自分で好んで読んでいた作品の主人公とは全然違う。
どんな作品の主人公よりも弱く、卑怯で、情けなかった。

大人には当然勝てないし、下手すると妹にも勝てない。先輩の水前寺は超人だから勝つなんて無理、ヒロインのイリヤだって浅羽よりずっと強かった。

ただ、だからこそ僕はそれを好んで読んだんだろう。
当時中学生だった僕は、浅羽と同じだったはずだから。
大人にも、先輩にも勝てない。情けない嘘を吐くし、人並み以上に膨れ上がった自尊心を持つ中学生で、同じだと思ってたんだろう。

同じだからこそ、他の作品の主人公よりも深く没入してあの作品を読んだ。今の僕はそう思う。

当時の僕は今よりいっそ内向的で、暗い人間だった。
女の子と付き合うなんてのは夢のまた夢。

だから僕は『イリヤの空、UFOの夏』を読んで浅羽になっていた。
浅羽は僕と同じだけど、イリヤがいた。僕にはいないが、小説を読んでいる限り、僕は浅羽だったから問題ではなかった。

2003年8月。イリヤの最終巻が出た。すぐに買った。僕は中学3年生になっていた。
なんどもなんども『イリヤの空、UFOの夏』を読んだ。
そして途中、秋山瑞人が常軌を逸するほどの寡作の作家であることを知り、僕は渇いていった。

秋山瑞人の他作を探す日々

長い闘いを繰り広げていた。

インターネットでは同じ渇きを持つもの同士が新刊が出ないことを嘆き、何度も何度も繰り返してきた既存作品の思い出話を、より深くに行くための考察を繰り返した。

もはや秋山瑞人ですらなくて良いという時すらあったかもしれない。
誰かが秋山瑞人の話をする、それを見るだけでも良いという苦しみの時代もあった。

ただ唯一、本当に幸いだったのは、彼がSF作家だったことだ。それも超一級の。
ゆえに彼の足跡を辿ることはとても楽しかった。

ファン同士で「彼はブルース・スターリング影響を〜〜」なんて話題を上げるのは馬鹿らしい事ではあったが、それ以外でも様々なSF作品の話題は挙がった。

翻訳文体に近いのではないか?と言われていたことから、僕は小川隆や浅倉久志、伊藤典夫の翻訳の作品に当たったりもした。

そういったSF世界を垣間見ることができたのは、渇いていたからこそだろう。

しかし、どんな小説を読んでも、秋山瑞人の成分は秋山瑞人からしか補充ができない。
僕はその単純な事実を長い時間をかけて希薄化していただけだった。

気づかせるきっかけになったのは、やはり『イリヤの空、UFOの夏』だった。

生存と新たな渇き

--2018年6月24日。

それはなんの日か。

曰く「ケネス・アーノルド事件」それが起きた日。
つまりUFOの日である。

いや、絶対に答えは違う。
僕ならきっとこう答える。

秋山瑞人の日だと

衝撃だった、体が一斉にエマージェンシーを告げた。
どんな感情でこのメッセージを読むのか。喜びも莫大な量を瞬間で与えられるとするならそれは凶器になりうる。

だって僕らの時計は6年近く止まっていたのだから。

でも、貪るように読んだ。
たった数百文字の彼の文章を。何べんも何べんも。

彼が生きている、それは純粋に嬉しい。
しかし、これは、ある種の、絶縁状のようでもあった。

UFO特番もすっかりご無沙汰となった今、夏休みの最後の日の最後の夜の、ど田舎の中学校のプールには一体何がいるのか。それを書くのはもうオジサンになってしまったオレの仕事ではねえので、誰か書いてくれたら読みたいなという一方的かつ身勝手な期待をもって駄文の結びとします。──なにしろここは「カク」ヨムだもんな。

引用: UFOの日:秋山瑞人からのメッセージ


書かねえって、いうのかい?

あれから2年、彼からの交信はない。

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