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こんなひどい日本社会に誰がした? 「気持ちが悪いので誰も借りないから建て替え費2億2000万円払え」 うつに非ず④

事例1 補修費80万円、慰謝料250万円、お祓い料10万円を請求された父親は支払った。
事例2 補償費600万円と改修費200万円を請求された父親は支払った。
事例3 改修費75万円と補償費350万円を請求された父親は支払った。
 
これは何の請求だと思いますか?
 
大学生らが賃貸アパートやマンションの自室や共用場所で自死し、わが子を失ったばかりで動転する連帯保証人の父親に、上記のような名目で法外な請求が非常識にも火葬場などでなされ、「迷惑をかけたから仕方がない」と黙って支払ったケースだというのです。
本書「うつに非ず」(野田正彰著、2013年講談社)で最も驚いた事例です。
日本は10年前からこんな社会だったのかと。
中には、あまりにも請求額が大きいため、法廷に持ち込まれる場合もあるそうです。
 
事例4 40歳の男性が近畿の賃貸マンションの浴室で練炭により自死。3か月後、家主が連帯保証人の姉を提訴。「被告は部屋を毀損しないように見守る注意義務がある」として、弟の部屋のリフォーム代220万円と2年分の家賃156万円、他の6室の1年分の家賃、および心理的な毀損として総計約927万円の支払いを求めた。
 
事例5 東京の大学に通う息子がアパートで縊死。補修費100万円、近隣住民への慰謝料300万円(10件×30万円)、アパート住民の家賃下げ分の補填、お祓い料が請求され、父親は支払った。
しかし1か月後、「気持ちが悪いので誰も借りなくなる」ため、築27年のアパートの建て替え費用として2億2000万円の請求が来て、和解交渉により父親は数百万円支払った
 
私もアパート賃貸業をやっていたことがあります。大家の関心事は空室を出さない、出したら速やかに埋めることですが、大家になる前の物件を購入する際に最も気にするのは、心理的瑕疵物件か否かです。国土交通省が賃貸契約の際に義務付ける重要事項説明に借り手が後から知って争いとなるような事柄の説明を求めており、裁判では自殺は「心理的瑕疵」として説明義務があると認めているからです。しかし、上記のような事例を知り、それは偏見だったと考えを改めました。病死と何ら変わりません。
 
大家の側に立って原状回復までは理解するとしても、悲しむ遺族の火葬場まで押し掛けるとか、近隣への迷惑料とかお祓い料とか、果ては建て替え費用の請求までは、まったく理解できません。
 
本書ではわが国での自殺の考察から、
<中高年の自殺率が下がる一方で、若い世代の自殺が増えてきたのは何故か。
全国自死遺族連絡会の2006年から2010年までの調査では、亡くなった1016人のうち、精神科を受診し、治療の継続中だった人が69%に上った。若い世代、20代から40代に限ると、亡くなった851人のうち630人、74%が精神科を受診していた。抗うつ剤、睡眠剤、抗不安薬などの向精神薬を多数服用していたのである。>
全国の自殺統計ではうかがいきれない傾向を示しています。とはいえ、警察庁・厚労省調べでも2016年以降「学生・生徒等」の自殺数は増加傾向で、2020年から1000人を超えるようになりました。2023年調査分から精神科・心療内科の入院・通院の有無なども調べて反映されるそうです。
しかし、官製とも言える精神疾患の疾病化という問題にメスを入れなければなりません。安易な診断・投薬で患者をつくることをやめさせなければなりません。
 
<これらの若い人たちはマスコミの啓蒙を信じて、少し気分が落ち込むと身近な精神科クリニックへ行く。…チェックリストをもとにした数分の問診でうつ病と診断され、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)をはじめとする薬が増やされていく。薬物中毒になり、精神的水準は低下し、衝動的に死んでいったのであろう。>
 
本書では、失恋をきっかけに精神的に不安定になり、体調も崩した20代の女性をうつ病に仕立て上げ、的外れな医療をするクリニック、救う機会を見捨てる病院の様子を書いています。
会社を休むための診断書をもらうために訪れた精神科クリニックで、簡単なアンケートのあと、若い人には自殺企図の副作用があるSSRIの抗うつ剤などが安易に処方される。薬のため職場で倒れるようになり、そのクリニックではまともに話を聞いてもらえず、別の病院でも予約がいっぱいで1か月以上待ち。病院に行く気も失せて最初のクリニックを受診してから5か月後、抗うつ剤を大量に飲んで自殺を図り、県立病院に救急搬送。母親が一晩の入院を頼んだが、断られ、娘を車イスに乗せて家に帰った。翌日、女性は母親が目を離したすきに自ら命を絶った。
野田医師は<彼女はうつ病ではない。>として、クリニックや県立病院が本来行うべき医療をまったく行わなかったことを厳しく批判し、
<こうしたことは全国で起こっている。>と言うのです。
 
こんな粗末な医療の下で自死を選ばざるを得なかった人がいて、国交省や裁判所がレッテル張りした「心理的瑕疵」で遺族までが苦しめられる。
 
さらに、
<全国自死遺族連絡会が明らかにしたもうひとつの問題は、自死遺族もまた、うつ病患者に仕立て上げられているのである。>
 
厚労省の調査が先鞭をつけた「うつ病の疾病化」、国交省や司法が後押しする自殺者の遺族いじめからの「うつ病の疾病化」。恐ろしい国家ぐるみの病気づくりと言えます。国と医療の癒着は国を滅ぼします。
 

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