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サダム・フセインは偉かった

元産経新聞記者の髙山正之さんのコラムは目の付け所がよいうえに切れ味も鋭く往年の名コラムニスト山本夏彦さんを思い出させます。文庫「変見自在 サダム・フセインは偉かった」(2011年新潮社発行)の表題にもなっている「サダム・フセインは偉かった」というコラムはその代表です。

ものの見方を変えてくれるコラム集


大勢の人がアメリカのプロパガンダによって「フセインは偉くない」といまだに思っているわけですから、アメリカでもアラブでも勤務経験のある髙山さんの真骨頂です。
 
「正義が正義だったためしはない」という「はじめに」で、
<不倫は死刑のイスラムでは女は袋をかぶせられ、社会的には死んでいる。その不合理を正したサダム・フセインは正義を言い立てるアメリカに殺されてしまった>とまず触れた上で、
 
「サダム・フセインは偉かった」の本文中、
<コーランに「女は男の畑だから好きに耕せ」とか「女はひたすら夫に従順に。反抗したら打擲(ちょうちゃく)を加えよ」とか書いてあり、国民の半分を占める女性を教育から遠ざけ、家に閉じ込めている。
それは国家の大きな損失になると、宗教からの脱却を図ったイランのパーレビ皇帝はホメイニ師に追放された。
同じく宗教からの脱却を求めたのがイラクのサダム・フセイン大統領。
イラクもイスラム聖職者のシーア派がフレインに対する暗殺を執拗に加えたが、「反対派を徹底的に弾圧し、国力をつけた」>
と高く評価し、こう述べます。

愛国者ゆえに標的にされた? ウィキメディアコモンズより


<イスラム圏にあってここだけが女性に教育と社会活動を保証するまともな国になった>
<国民の半分が生き返ったイラクは急速に国力を伸ばし、忘れていたアラブ民族意識も取り戻した。>
 
宗教からの脱却でグローバル化するのではなく、国連が推奨すべき「女性の権利向上」によって国力をつけ、アラブ民族意識を高めたわけですから、国連こそ「あんたは、偉いっ」と褒め称えるべきですが、国連はもちろん褒めませんでした。国連ビルの大家はグローバリストで、民族主義者、愛国者を蛇蝎のごとく嫌うからです。いかにご都合主義が蔓延しているかがわかろうというものです。
 
コラムに戻ります。髙山さんはこう分析します。
<しかし、それは欧米に都合が悪かった。アラブ国家は頑迷固陋な宗教に浸ったまま石油を供給していればいい。変に民族意識をもっては困る。>
 
イラク戦争を仕掛けられ、フセインは処刑されるにいたります。
 
そして、
<処刑台に立つ彼に「地獄へ行け」と罵る声が記録されている。死にゆく者の尊厳を踏みにじる「こんな連中を一つにまとめてまともな国家に育てた男の偉大さを、改めて思い知らされた。合掌。>
と締めくくっています。
 
911、イラク戦争当時はブッシュジュニア政権の安全保障問題担当大統領補佐官、その後国務長官だったコントリーザ・ライスの回顧録(2013年第1刷、集英社)によれば、「12月30日フセイン死刑執行。バグダッドの怪物は法の裁きを受けた。しかし恐怖のフセイン政権の陰に潜んでいた悪魔は退治されていなかった」と、永続的な危機をほのめかすという、「だからいつまでも世界の警察として紛争・戦争に介入し続けるのだ」という、いつものやり口です。
彼女は本書内でも少しだけ触れていますが、ホワイトハウス入りの前は、石油会社のスーパーメジャー、シェブロン社の取締役で同社のタンカーにコントリーザ・ライス号と名付けられた人です。ブッシュジュニア同様「オイルマン」の話は半分に聞いたほうがいいでしょう。
一方、フセインを高く評価し、ぶれずに今もそのことを発信し続けている人は高山さんくらいです。
 
そして、国を売る反日新聞、恩を仇で返すアジアの特定国、植民地時代の欧米列強を舌鋒鋭く斬りまくりますが、やさしく優秀な日本人へのまなざしは温かいのです。
 
「優しさは日本発」も印象に残るコラムなので合わせてご紹介します。
十九世紀のアメリカでの舌の腫瘍除去手術の麻酔がない凄まじい様を引用し、「患者の痛みを取り除く発想がなかった」と言います。
<苦痛のない手術、アメリカに半世紀先んじたのが花岡青洲による乳がん切除術の際の朝鮮朝顔から抽出した麻酔剤。胃カメラ、エコー診断等々ひとにやさしい医療技術は日本発。日本が生んだ超音波でシナ人や韓国人は、胎児の性別検査で女児なら堕胎する。>
 
髙山さんはなにかにつけて両国への嫌味を付け加えているわけではありません。「女性差別が根本にある」国であることを見抜き、短く伝えてくれているのです。
 
私たちがメディアに期待しているのは、日々うわべをなぞって垂れ流される最新ニュースではなく、髙山さんのコラムのような本質を穿つ見方です。

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