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33、新たな神の創造。大宇宙神との問答

何だ、一体何が起きたのだろうか? 
身体が爆発した様な気がする……。
しかし身体に異常はない。
五体満足だ。
……ただ意識がはっきりせず、めまいがする。

私は夢を見ていた様だ。
きっと身体が爆発する夢を見たのだろう。
他にも夢を見ていた様な気がするが内容は思い出せない。

ところで、ここはどこだ? 
一体どこだ? 
暗闇だ……星一つ見当たらない。
いや、それどころか銀河一つ見当たらない! 
……私の星はどこだ? 
私が奪った星や銀河は一体どこだ?

「おい、誰もいないのか! 誰か返事をしろ!」
 
誰の返事も聞こえない……。
どうして何も存在せず神の一人もいないのだろうか? 
私は周囲の銀河を破壊し、神々も殺してしまったのだろうか? 
……駄目だ、思い出せん。
脳が上手く機能しない。
 
ところで私は誰なのだろうか? 
……私は誰? 
私は……アナ。
違う……ユタ。
いや、私はアナ・ウロングクスヌク・ピエトリ・ユタ! 
――そうだ、誰もが恐れる破壊の神、アナ・ウロングクスヌク・ピエトリ・ユタだ! 
あらゆる星の神々を殺し、多くの星を奪い取った神。
宇宙の全てを手に入れ、頂点に君臨出来る力を持った神!
しかし、私は宇宙の全てを手に入れたのだろうか? 
……記憶が曖昧だが、手に入れていない様な気がする。
……そうだ、あいつに邪魔をされたのだ! 
あの忌々しいヤツに!

「大宇宙神、どこに隠れている! 今度こそ貴様の息の根を止めてやる!」
 
私の身体が光り輝き、周囲が明るくなる。
……そうだった、私は興奮すると身体が更に光り輝くのだ。
私は随分と長い間眠っていたのだろう……そんな事も忘れてしまっていた。

大宇宙神は姿を現さない。声すら聞こえてこない。
大宇宙神……何が大宇宙神だ。
何が全ての神を統べる絶対神だ。
――そうだ、思い出したぞ! 
大宇宙神が私の邪魔をしたのだ! 
私の身体を拘束し、私を長い時間眠らせた――

「アナ・ウロングクスヌク・ピエトリ・ユタよ」

聞こえた! 
大宇宙神の声だ! 
男神(おがみ)なのか女神(めがみ)なのか分からない不思議な声。
脳内に直接届く様な不思議な声……。

「姿を現せ卑怯者! この手でお前の首を切り裂いてくれよう!」
 
私の身体から飛び出した無数の光が、蛇の様にうねりながら四方八方に広がっていく。
どこだ? 
大宇宙神の姿はどこにも見えない!

「お前はなぜ自分の星だけでは満足出来なかった? なぜ多くの星を求めた?」

何を偉そうに私に尋ねるのだ? 
私に議論を挑むつもりか? 
――いい度胸だ。

「私には力があるからだ! 他に何の理由があろうか?」

しかし、大宇宙神は何も返事をしない。
……私の迫力に恐れをなしたのだろう。
情けないヤツだ。

そうだ、他に理由などない。
力のある神が多くの星を統べるべきなのだ。
もう、その星の名前すら覚えていないが、私とて元々一つの惑星を統べる平凡な神だった。
私も数十億年は他の神と同じ様に一つの星を統べていた。
万物の理を司り、始まるものと終わるものを選りわけていた。
神の道に則り、慈しみの心を持って……。

神という存在は永遠に、命尽きる事なく神の道を歩んでいく。
自らの統べる星が老いてきたならば、その星を終わらせ新たな星を生む。
そして新たな星で万物の理を司り、始まるものと終わるものを選り分ける……。
そうして神は永遠に同じ行為を繰り返して神の道を歩んで行く……。
下らん、神は全く下らん存在だ! 
私は神としての存在に嫌気が差してきたのだ。
同じ業(わざ)を延々と繰り返す神という存在に私は、「生きる実感」を得られなくなってしまったのだ!

生きる実感などというものは神にとって必要のないものかもしれない。
そんなものを得たいと思う神は、神ではないのかもしれない。
しかし、私は希求してしまったのだ! 

生きているという実感を! 
 
それでも私は自分の思いを必死で抑えた。
私は正しい神であろうと努めた。
しかし、それから数億年も経った頃に私は思った、

「私こそ正しい神ではないだろうか?」
「神の道に疑問を持ったこの私こそ、本物の神ではないだろうか?」

と……。

「お前は特別な存在なのか?」

「そうだ、私は特別な存在だ! 私は特別な神だ! 議論を挑むなと言った筈だ!」
 
私の身体から白い光がほとばしった。

「大宇宙神よ! 私は貴様に取って代わり、神々の頂点に君臨しなければならないのだ! 私は神の存在そのものを根底から覆し、新たな宇宙を創造しなければならないのだ! 神が神として存在出来る新たな宇宙を!」 
 
大宇宙神は何も答えない。
いや、答えられないのだ。
私の考えが正しいと認めている証拠だ。
私は特別な神なのだ!
 
生きているという実感が得られない神の道、そんなものは本当の神の道とは言えない!
それは惰性であり怠惰に冒された神の道なのだ! 
だから私は神の道を敢えて逸脱したのだ。

――本当の神の道を作る為に!
 
私はある時、自らの惑星を離れ近くの恒星に舞い降りた。
既に名前も顔も覚えてはいないが、私はその星の老いた男神に尋ねた。

「お前はなぜ神として生きている?」
 
老いた男神は私の質問には答えず、こう聞き返した。

「ひとつ教えてほしい。あなたは神として私に尋ねているのか?」
 
私は激高した! 
老いた男神は、私の事を神ではないと侮辱したのだ! 
神としての存在に疑問を持つものは神ではないと私に言ったのだ!
 
老いた男神は私に背を向け立ち去ろうとした。
すると私の身体が光り輝き、右腕が勝手に動いた。
私の右腕は老いた男神の右腕を切り落とした。

――その時だ、私は初めて見たのだ。
神の身体から噴き出す真っ赤な血潮を! 

あらゆる生命体の多くに流れ、生命体の維持に必要不可欠な真っ赤な血潮……。
その血潮が、永遠の命を持つ筈の神の身体にも流れていたのだ!
 
私の身体から光が乱れ飛んだ! 
私は思った……神の命は永遠ではないのかもしれないと! 
永遠ではないのならば、なおさら生きる実感を得たいと!
 
私は老いた男神を蹴飛ばして仰向けに転がした。
老いた男神は苦しそうに喘ぎながら私の眼を見つめた。
私はこみ上げる笑いを押し殺し、老いた男神に尋ねた。

「……お前は神として死ぬのか?」
 
老いた男神は私の眼をまっすぐに見て答えた。

「どうやら私は……神として死ぬのだろう。従って……私は永遠に神だ」
 
老いた男神は眼を閉じて微笑んだ。
私は老いた男神に笑いながら教えてやった。

「お前は偽物の神だ」
 
私は老いた男神の顔を踏みつけた。
老いた男神の頭が赤い血潮と共に弾け飛んだ。
老いた男神の残された身体は一瞬白く輝くと、跡形もなく消え去ってしまった。
 
私は自分の身体を眺めた。
私の身体は老いた男神の血で真っ赤に染まっている。
私は感じた事のない充実感を得た。

――これが生きる実感だ! 
今、私は生きているのだ! 
私は神を殺したのだ! 
神の命を奪ったのだ! 
何と素晴らしいのだろうか!  
今までに神を殺した神は存在しない、私が唯一だ! 
やはり私は特別な神だ。
こうなったら私が大宇宙神に取って代わるべきだろう……。

「よし、この私が創造しよう! 惰性や怠惰とは無縁の神々が存在する素晴らしい世界を!」
 
私は銀河中に響き渡る程の笑い声を上げると、その星を後にした。

私は全ての神を葬り去り、新しい宇宙を創造する為に行動を開始した。
それから私は多くの神々の命をこの手で奪った。
泣き叫ぼうが命乞いをしようが容赦せずに命を奪った。
中には応戦してくる勇ましい神も存在したが、私は圧倒的な力で叩きのめした。
私は自分でも意外だったが、非常に闘いに長けていた。

思い出してみても神を殺すというのは痛快だった! 
私は相手が怯えれば怯えるほど、応戦してくれば応戦してくるほど生きる実感を得た! 
これこそが神だ! 
命がけで生きてこそ、神としての本当の力を――

「お前はただ血を見たかったのだ」

「違う、断じて違う! 私に議論を挑むな!」
 
私の口から矢の様に鋭い光が飛んだ。

「私は血が見たいのではない! 新しい宇宙を創る為には、惰性や怠惰に支配された神々は必要ないのだ! 私は殺戮を……楽しんだ事など……」
 
大宇宙神め……忌々しい! 
……まぁ、しかしお前と議論をしても無駄だ。
お前には先進的な私の考えなんて分かりはすまい……。

数万年のうちに多くの星、多くの銀河が私の物となった。
その頃には宇宙全体に私の名前は知れ渡っていた。
しかし、数千億の神の命を何度か奪った辺りで私の前に大宇宙神が現れた。

私は初めて目の辺りにする大宇宙神の大きさと光の強さに圧倒されたが、ひるむ事なく闘いを挑んだ。
しかし私は大宇宙神の放った光に目がくらみ、一瞬で身体を取り押さえられてしまった。
大宇宙神は私の身体の上に巨大な掌をかざした。
私の全身が隠れてしまう程に大きい大宇宙神の掌。
……私は死を覚悟した。

しかし、気付いたら私はこの場所で眠っていた。
大宇宙神は私の命を奪わなかった……。
大宇宙神は私を眠らせただけだった。
――何という屈辱! 
いっその事、私の命を奪ってしまったら良かったものを!

……なぜ、大宇宙神は私の命を奪い取らなかったのだろうか? 
私の命を奪ってしまえば、二度と宇宙が混乱する事はない。
現に私は今、再び宇宙の全てを手に入れようと企んでいる。
……なぜだ、私の力が強すぎた為に、私を眠らせるだけで精一杯だったのだろうか? 
……なるほど、それは有り得る話しだ! 
よし、それならば今度こそ大宇宙神に目に物見せて――

「アナ・ウロングクスヌク・ピエトリ・ユタよ」

――とうとう現れた! 
大宇宙神が私の目の前に現れた! 
私の身体より遥かに大きく、放つ光りも桁外れに強い! 
あまりに光が強い為、大宇宙神を直視出来ない!

「アナ・ウロングクスヌク・ピエトリ・ユタよ」

「気安く私の名前を呼ぶな!」
 
私は大宇宙神に向かって光を放った。
しかし、私の光は一瞬で大宇宙神の光に飲み込まれてしまった。
あぁ、何という眩しさだろうか! 
大宇宙神の光の力で私の身体は吹き飛びそうだ!
私は手で光を遮りながら、大宇宙神に向かって叫んだ。

「大宇宙神よ、言いたい事があるならば聞こうではないか!」

「アナ・ウロングクスヌク・ピエトリ・ユタよ、お前を試す時が来た」

何を言っているのだろうかこいつは? 
試す時とはどういう意味だ? 

「お前ごときに何かを試される様な私ではない! 私を誰だと思っているのだ? 私の名前はアナ、十四歳――」
 
私は何を言っているのだろうか? 
私の名前はアナ……十四歳……。
どうした事だろうか? 
名前を思い出せない! 
アナ、十四歳……何だろうかこの言葉は? 
勝手に口から出てきてしまった! 

「私の名前はアナ、十四歳。知っている事はこれだけ。他の事は何も知らない」

「身体の特徴から考えると性別は女性。黒い髪の毛は長く胸まで届く。おでこは広く鼻は少し丸い。かまぼこ型の大きな眼のせいか、楽しくもないのに笑っている様な表情をしている。背はあまり高くない。なぜかいつもセーラー服を着ている。他の服を着た事はない」

「やめろおお!」
 
私は思わず叫び声を上げた。
私の口が勝手に訳の分からない話しを始める! 
私はもう神ではないのだろうか? 
眠りから覚めた私は別の存在になってしまったのだろうか? 

「……私は一体、何者だ! 十四歳のアナとは一体、何者だ!」 
 
私の身体から発する光が赤くなり、力が弱くなってくる。
身体中の力も抜けてくる……。
私はこのまま死んでしまうのだろうか?
 
突然、私の脳内に電気が走った。
――そうだ、思い出したぞ! 
私は、私は――

「私の名前は、アナ・ウロングクスヌク・ピエトリ・ユタ! 宇宙全てを手に入れる破壊の神だ!」

私の身体から白い光がほとばしる! 
――凄まじいエネルギーだ、その光は大宇宙神の光よりも強い! 
大宇宙神の身体が後方に吹き飛んだ! 
大宇宙神の身体は静止せず転がる様に遠ざかっていく。
――ヤツは意識を失ったのだ!
私は声を上げて笑った!

「勝てる……勝てるぞ! 私は大宇宙神に勝てるぞ!」
 
私は高速で飛んで行く大宇宙神の巨大な身体を追いかけた! 

「……『試す時』とはそういう事か! 私が大宇宙神にふさわしい力を持っているか試したのだな? 私の力はどうだ? 新たな大宇宙神にふさわしかろう!」
 
私は大宇宙神の後を追って更にスピードを上げた。


➡34、「破壊の神かアナか?」突き付けられた選択肢

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