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【本】「心を整える」~長谷部誠選手、現役引退に伴い再読してみた

今季で引退を表明した、元日本代表でドイツのブンデスリーガで活躍してきた長谷部誠選手が会見を開きました。先に白状してしまうと、サッカーに関しては本当にド素人で、日本代表や五輪代表等で話題になると応援している程度です。そのため、サッカーに関する知識ゼロゆえに、内容が薄い点はご了承下さい。ここではサッカーのみならず、長谷部選手の「お人柄」について大ベストセラー「心を整える」を振り返りながら綴っていきたいと思います。


とはいえ、まずは「引退会見」から

「正直まだあんまり実感はない。毎年のオフに入った感覚」と語った長谷部。「頭では引退したということを理解しようとしている。でも、まだ自分の体は今すぐにでもボールを蹴りたいっていう風に動いているから体が理解してくれていない」と現在の心境を明かしつつも、「後悔は全くない」と断言し、その理由について次のように語っていた。

「1つ目は、やはり自分で引退の時期を決められたということが大きかった。(フランクフルトが)僕に対して現役を辞める決断を託してくれていた。やろうと思えばやれたという中で、自分としてもいいタイミングで決められた。それが後悔がないという気持ちに大きかったんじゃないかなと思っているので、クラブに対して非常に感謝している

FOOTBALL CHANNELより抜粋

会見も少しだけ拝見しましたが、「生真面目」ということばがピッタリ合う冷静沈着かつ、お名前通りの「誠実」な人柄が伝わる名会見だったと思います。そりゃ実感は湧かないですよね、毎年ならオフ期に突入するタイミングですから。しかし、その後の言葉が素晴らしい。クラブへの感謝、特に辞める時期について長谷部選手自身に決めてもらったという点。こうしたキメ細やかな気遣いがドイツでも長年プレーするに至った「底力」なのではないでしょうか。

「常に自分を客観視してきた」

さらに、もう1つの大きな理由として、「これ以上のキャリアは自分の能力では望めないんじゃないか」と言葉を続けて、「1人のサッカー選手として常に自分を客観視してきた。その中で、たくさん点を取れるわけでもなく、すごく目立つプレーするわけでもなく、パーソナリティというか人としても目立つわけでもない。だけど、ここまでのキャリアを築けた。タイトルもたくさん取ることができた。マックスのマックスまで評価してもらって、自分自身もやり切ったという思いがある」と、自身の長いキャリアを振り返っていた。

同上

いやー、どこまで謙虚なんでしょうか!たしかに長谷部選手はディフェンダーとして活躍されていましたから、後方からチーム全体を俯瞰することに長けていたのかもしれません。とはいえ、「常に自分を客観視」ってなかなか出来ないですよね、本当に何度読み返しても素晴らしい心の持ち主だと思いますね。ちなみに今後は指導者の道へ進むそうで、まずはドイツの若手チームのコーチをされるとか。「目指すはトップチーム」と仰っていますから、ぜひとも将来的には日本代表の監督になってもらいたいですね!

ちなみに、ご本人の「心を整える」評は・・・?

長谷部選手と言えば、著書の「心を整える」も有名だ。会見では、日本のサポーターへのメッセージを聞かれた中で、「本を出してベストセラー作家にもなり、実力とは違う部分で評価していただいた」とジョークまじりに語った。会見の最後にもう一度、「心を整える」について聞かれ、「あの本を書いたのは26歳の時。いまはよりフレキシブル(柔軟)になったと思う。今はより力を抜いた感じのサッカー選手になった」「これからも、バランスのある人間、突き詰めすぎず、甘くなりすぎず、いちばんよいフィーリングの部分を探し、保ちながら、これからの人生をやっていきたい」と語った。

ハフポスト日本語版編集部 2024年5月24日版より抜粋

ということで、10年以上も前の著作について聞かれて、どこか気恥ずかしさを感じていらっしゃるようですが、いやー、あの年齢であそこまで達観した
考え方を発表できるのは凄いことですよね。ちょうど2011年ということで、東日本大震災などもあり、日本中がいろいろとバタバタしていた時期に、一服の清涼剤といいますか、若きサッカーの有望選手が素晴らしい本を出したということで、私もミーハー心から読みましたけど、一冊はマーカーを引きまくり、ボロボロになるまで読み返したことを覚えています。あれから今年で40歳という区切りを迎え、「よりフレキシブルになった」と自分を評価する長谷部選手。今後の活躍にも期待です!

さて、ここからはそんな長谷部選手のベストセラー「心を整える」からいくつか印象的なエピソードをご紹介していきたいと思います。皆さん、これらが書かれたのが2011年、長谷部選手が26歳の時だということを改めて考えながら読んで頂ければと思います。


マイナス発言は自分を後退させる。

愚痴で憂さ晴らしをするのは自分の問題点と向き合うことから逃げるのと同じ。ゆえに逆に愚痴を言わないように心がければ、おのずと問題点と向き合えるのだ。愚痴だけでなく、負の言葉はすべて、愚痴を捉える力を鈍らせてしまい、自分で自分の心を乱してしまう。心を正しく整えるためにも愚痴は必要ない。

「心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣/長谷部誠」より

もうこれは学校の「国語」か「道徳」の教科書に載せたい内容ですよね(笑)。いや、こうなると「副読本」、いや「課題図書」として、学生みんなに読んでもらいたいレベル。今回改めて読み直して見て全く「古さを感じない」もはや古典とでもいうべき名著だと再確認しました。当時から長谷部選手はこういう考えの下、遙か異国の地の最前線で活躍されてきたんですね。心に突き刺さる言葉と同時に、10年前に読んでマーカーもしているにもかかわらず、相変わらずな自分が情けなくなります・・・涙。

頑張っている人の姿を目に焼き付ける。

答えがないようなことを延々と考え過ぎて、迷いが生まれている時にどう切り替えるか。そういうときに僕は身近な所にいる『頑張っている人』を目にするようにしている。日本でいた頃で言うと、真夏の炎天下、工事現場手働くおじさん。腕まくりをして、汗を流しているおじさんを見ると僕は何だかすごく熱くなる。自分もああいうカッコ良さを身につけたいと思って、小さなことに悩んでいる場合じゃないとエネルギーが沸いてくる。僕が気付かないだけで、日々の生活は頑張っている人々の姿であふれているのだと思う。自分のことでいっぱいいっぱいにならず、そういう姿に気がつける自分でありたい。

同上

これって先ほど長谷部選手が仰っていた「客観視」の話に通じると思いませんか?「自分のことだけでいっぱいいっぱいにならず、そういう姿に気がつける自分でありたい」というのはそういうことですよね?自分中心、自分のことだけ主義ではなく、そこから目線を離し、周囲を見渡せる「余裕」。そうすることで、「大変なのは自分だけじゃない」という気づきが得られる。それにしても26歳当時に、もうそこまで達観されていたのか・・・と改めて驚かされますね。

運とは口説くもの。

経営の神様と呼ばれる松下幸之助さんが言うように運というのは、自分が何か行動を起こさないと来ないものだと思っているからだ。サボっていたら、運なんてくるわけがない。それにただ我武者羅に頑張っても運が来るとは限らない。

代理人のロベルト佃さんが「スペイン語で運(la suerte)は女性名詞。だから、アルゼンチンの人たちは「運を女性のように口説きなさい」というんだ。何も努力しないで振り向いてくれる女性なんていないだろ?それと同じで、運もこちらが必死に口説こうとしないと振り向いてくれないんだ

異性を口説くのと同じように、運も口説きなさい。ユーモアがあって、堅苦しくなくて、僕はこのアルゼンチンのことわざを一発で好きになった。運を口説くことに関しては、とことん上手くなりたいと思っている。これからも、あの手、この手で運の女神を振り向かせたい。

その後見事に素晴らしい将来の奥様を振り向かせたわけですので、長谷部選手は運の女神を口説くことに成功されたのでしょう(笑)。とはいえ、「運も口説く」という発想・・・日本ではあまりしないですよね。やっぱり、それよりは我武者羅に努力して・・・という努力至上主義的なところってあるじゃないですか。それだけでなく、こうした海外のユーモアセンスもどんどん取り入れていったんでしょうね。そうした姿勢がドイツでも評価につながったのかな、なんてこういうエピソードからうかがい知ることが出来るように思います。


というように、こうして読み返していくと、まだまだ全く古くなっていないですし、それよりも長谷部選手が全くブレていない点に驚かされます。そして年齢を重ね、良い意味で「丸くなった」ようにも感じ、円熟味も増してきたように思いました。会見で傑作だったのが岡田監督とのやりとりについてのコメントです。

エピローグ「岡田監督からのメッセージにほっこり」

岡田氏は長谷部の引退についてねぎらいのコメントをしているが、長谷部は当時のやりとりについて「今治でプレーしろ、今治でプレーしろとメールがきていた」と、今治で現役を続けさせるべく熱烈オファーを受けていたことを“暴露”して周囲を笑わせた。冗談も交えつつ、監督と選手としてW杯で共闘した岡田氏について「監督としても人としても、情熱、バイタリティーがある人。人生を大きく変えてくれた」と感謝の言葉を口にした。

日刊スポーツ 2024年5月24日より

これは会場大爆笑だったでしょうね!(笑)しかも岡田監督の場合、結構本気だったのでは?という気もしてきますよね。そして何よりお二人がこうした会話の出来る間柄であるというところにも「温かさ」を感じますね。しかもしっかり岡田監督をフォローされていますし。ということで長谷部選手お疲れ様でした!ぜひぜひいつかは日本に帰ってきて代表チームを・・・!

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