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分かりやすく伝えるにはどうすればよいか - 3つのポイントを考えてみた


この記事について

普段の生活で、「自分の伝えたいことがいまいち相手に伝わらない」「この文章で相手に伝わるのか自信がない」「この人の言っていることをあまり理解できないけれど、どう伝えてもらうと良いのかもよく分からず、伝え方のアドバイスをするのが難しい」という経験はないだろうか。それらの悩み解決をサポートするために「分かりやすく伝えるにはどうすればよいか」を主題として、この記事を書きたい。
上記のような悩みを持つ方が、この記事を読んで「分かりやすく伝える」ことにつなげられると幸いである。

なぜ分かりやすく伝えることが大切か

誰しも、少なからず周りの人と関わりながら生活をしている。家族や友人、学生ならクラスメイト、社会人なら同じ会社の人・取引先の人など、これまでの生活を考えても多くの人と関わってきたであろう。そして、それら「他の人と関わる」ことはすなわち「他の人とコミュニケーションを取りながら物事を進める」ことであると考えている。
この記事の主題である「分かりやすく伝える」ことができるようになると、「他の人とのコミュニケーションが取りやすくなる」ことにつながる。自分の伝えたいことを不足なく認識の違いなく伝えられ、様々な人とスムーズに意思疎通をとることができ、物事を進めやすくなる。
結果として、周りの人から理解を得やすい環境を作ることができ、より良い充実した生活・仕事ぶりにつながると考えている。これをモチベーションに、この記事を読んでらえるとありがたい。

分かりやすく伝えるための3つのポイント

「分かりやすく伝える」ことは「伝えたい情報を不足なくかつ認識の違いなく相手に理解してもらえるように伝える」ことと考えており、そのためのポイントは以下3点であると考えている。

  • 話し手と聞き手(書き手と読み手)の間で共通認識のある言葉を使う

  • 複数解釈のないように伝える

  • 順序立てて伝える(話の飛躍を避ける)

これからこの3点について深掘りするが、この記事のスタンスとして、分かりやすく伝えるためには細かい文法的な正確さは不要と考えている。例えば、「ら」抜き言葉の使い方を間違っても伝わるものは良しと考えているし、敬語の使い方を間違っても伝わるものは良しと考えている。そのため、この記事では日本語やその他外国語を文法的に正しく使うにはどうすれば良いかという内容には触れていない。「文法的な正確さ」よりも「伝える内容」に主眼を置くこととする。もちろん、主語を省略したら認識の齟齬が出てしまう場合など、文法に関わる箇所が原因で「伝える内容」まで変わってしまう場合は、主語を省略しないように伝えるなど文法的な配慮も必要である。しかし、それはあくまで「伝える内容」を主眼に置いた結果、文法的な配慮におのずとつながるものと考えている。
これから書く3つのポイントは日本語だけでなく外国語で話す時にも応用できるため、コミュニケーションにおいてより本質的なポイントであると考えている。

その1. 話し手と聞き手の間で共通認識のある言葉を使う

聞き手の知っている言葉は何か

自分が聞き手として他の人の話を聞く時に、分からない言葉がいくつか出てくると、話の内容が頭に入ってこなくなる経験をした人は多いのではないだろうか。
例えば、経済の用語に「金利」と言う言葉がある。「金利が下がるとお金を借りやすくなる」などのようにこの言葉を使うのだが、お金や経済のことをよく知らない人にとってこの文章が何を意味しているのか分かりづらいだろう。もしこの文章を「お金を借りた時にかかるお金のレンタル料が下がると、お金を借りやすくなる」のように、「金利」を「お金を借りた時にかかるお金のレンタル料」に言い換えると、「金利」と言う言葉を知らない人でも多少は理解しやすくなるのではないだろうか。
自分が聞き手の場合、自分が知っている言葉を使って話してもらうと話を理解しやすくなる。逆に、自分が話し手となった場合には、「聞き手の知っている言葉は何か」を考えて使う言葉を選ぶことが伝わりやすさにつながる。

また、話し手・聞き手の双方が自分が知っていると思い込んでいる用語に関しても「本当に双方でその用語の定義が合っているのか」を確かめることも大切である。例えば、保険の用語に「保険金」と「保険料」という言葉がある。この2つは似て非なる言葉であり、この2つの言葉を混同してしまうと、保険会社から受け取る金額や保険会社に支払う金額を勘違いして、自分の話を理解してもらえなくなってしまう。このような場合には、仮に「自分は用語を理解している」「相手の人も用語を理解している」と思っていても、それが単なる思い込みにならないように(認識の齟齬が生じないように)話し手・聞き手の双方があらかじめ用語の定義を確認したり用語を別の言葉に言い換えて、コミュニケーションにおいて双方が話の内容を共通認識できる状態にしておくことが大切である。
このように、話し手・聞き手がお互いに共通認識を持っている言葉・話題を用いて言い換えや例え話をしたり、言葉の定義の確認をすることが分かりやすく伝えることにつながると考えている。相手のバックグラウンドを考えて、その相手の知っている言葉・話題で話すのが大切になる。

「分かりやすく伝える=誰でもわかる言葉で伝える」ではない

ここで注意点を書きたい。
分かりやすく伝えるポイントとしてよく言われるのが、「小学生や中学生のようなまだ専門分野の言葉を知らない人でも分かるくらい易しい言葉で伝えると良い」である。しかし、話し手と聞き手が共通認識できているなら専門用語はバシバシ使うべし、と私は考えている。
元プロ野球選手の工藤公康氏は、現役時代に肩や肘など体に不調を感じる際に、医師に「上腕三頭筋が痛い」というように具体的な筋肉の名称を伝えていたと言う。これは、工藤氏と担当医の双方が「上腕三頭筋」がどの箇所の筋肉なのかを共通認識できているため、専門的な用語でも認識の齟齬なく伝えることができていたのだろう。仮に、この筋肉の部位を伝えるために「左腕の裏あたりの筋肉が痛い」と言うと、具体的な名称を伝えるよりも正確な部位を伝えるのが難しくなり、かえって分かりにくい伝え方となってしまう。
専門用語を避けるような易しい言葉に言い換えることも大切ではあるが、そのような言葉の置き換えによって大まかなニュアンスを伝えることはできる一方で、伝達の正確度合いが落ちる可能性があることを念頭におくべきである。自分も相手も理解できる言葉は、専門的な言葉でも恐れず使っていくのが分かりやすい伝え方につながる。

その2. 複数解釈のないように伝える

複数解釈できるような言い回しをすると認識の齟齬につながりやすい。その認識の齟齬を防ぎ、分かりやすい伝え方を行うために、以下4つのパターンに分けて複数解釈を避ける伝え方を考えてみる。

1. 複数の意味が考えられる言葉は、どの意味で使っているかを明示する

例えば、時刻を伝える時に「8:00」と言う場合に「朝の8:00」と解釈する人もいれば「夜の8:00」と解釈する人もいるだろう。話の前後の文脈でどちらの時刻を指しているのか分かる場合は良いが、そうでない場合はこのように人によって解釈の異なる伝え方をすると認識の齟齬が起きやすくなる。時刻を伝える例では、「朝8:00」「夜8:00」「20:00」のように複数解釈の余地のない伝え方をするのが大切である。
また別の例として、曖昧な指示語の使用が挙げられる。上司と部下の会話例を考えてみる。

上司「依頼してた仕事は順調に進んでる?」
部下「依頼してもらってた仕事、遅れ気味ですね。ちょっと別で緊急の仕事が入ってしまって。この仕事は今週中には終わる見込みです。」

この会話例の部下が最後に言った「この仕事は今週中には終わる」の「この仕事」は「上司が依頼していた仕事」を指しているのか「別の緊急の仕事」を指しているのかが分かりにくい。このような場合は無理に指示語を使うのではなく「依頼してもらってた仕事は今週中には終わる見込みです。」のように明確に内容を伝えるのが良い。
また、指示語の多用も分かりにくさを生んでしまう。私が学生時代に受けた講義の中で、講師の人が「こういう理由で、それはこうなります。」と言ったことがあるのだが、各指示語が何を意味しているのか頭の中で変換するのに時間がかかり、すぐには理解できなかった。指示語は便利なものではあるが、何を指し示しているのかが明確に分かるように使用するのが大切である。

2. 修飾関係をはっきりさせる

言葉の修飾関係が分かりづらいと主語を取り違えて認識されてしまったり、伝える内容が変わってしまうことがあるため、修飾関係をはっきり分かるように伝えることも大切である。
修飾関係を分かりやすくして伝えるために、例として、サイボウズ株式会社のエンジニア新人研修の1つである、テクニカルライティングの講義で扱われた内容を挙げたい。

上記のBeforとAfterの文章を読み比べた時、Beforeの伝え方だと「ナビゲーションの機能を提供」する主語が何なのかがパッと見では分かりにくい。それに対して、Afterの伝え方だと主語が「スマートフォン」であることがより分かりやすくなっている。この研修資料の言葉を借りると、修飾する側と修飾される側をできるだけ近い状態で伝えることが分かりやすく伝えることにつながる。このポイントは特に文章を書くときに意識すると良だろう。

3. 前提の共有・確認を行う

話し手・聞き手が認識している前提の違いによって複数解釈が起きることもある。例としては、アンジャッシュのすれ違いコントが挙げられる。コミュニケーションを行っている相互が、お互いの前提を考慮しきれないままどちらとも取れるニュアンスで伝えることによって認識の齟齬が起きる。コントとして見ていると面白いが、日常生活で当事者としてこのような認識の齟齬が起きると、不利益につながりかねない。同じことを話しても前提が異なると捉え方が異なることがあるため、どのような前提で話しているのかを含めて伝えることが分かりやすく伝えるには大切である。

4. 程度の大きさを具体的に明示する

程度の大きさの認識が異なることで、複数解釈が生まれることもある。程度の大きさを伝えるときは、「とても」や「しっかり」のような曖昧な表現をするよりも、聞き手がイメージしやすい具体的な情報を伝えることが大切である。
例として、私自身、子供の頃に野球部に所属しており監督から「ご飯をたくさん食べるとちからをつけられる!いつもたくさん食べてるか?」とよく言われた。それに対して「(夜ご飯でどんぶり茶碗1杯分は食べてて、自分にとってはたくさん食べてるつもりだし)はい!たくさん食べてます!」とこたえていたが、今考えるとこのやりとりも認識違いを起こしやすい(分かりにくい表現を使った)コミュニケーションとなっている。もし、監督にとっての「たくさん食べる=どんぶり茶碗3杯分食べる」だった場合、自分にとっての「たくさん食べる=どんぶり茶碗1杯分食べる」と異なってしまう。お互いの基準が異なるにも関わらず「たくさん食べてます」と返答しているため、認識の違う状態でコミュニケーションを進めることとなってしまう。もし監督が「どんぶり茶碗3杯分くらいはご飯を食べてるか?」と伝えていたら、たくさん食べる程度がはっきり分かるため、より認識違いを起こしにくくなる。
程度の大きさを明確にすることは、仕事においても重要である。上司から部下への指示や部下から上司への報告に「しっかり」「ちゃんと」のような程度の大きさの認識が人によって異なり得る言葉が入っている場合は、程度の大きさが分かりやすいように具体的な言葉に変換できるかを考えてコミュニケーションをとると良いだろう。

また、過去の経験との比較をして相対的な程度で表現することも効果的である。「今年の夏はとても暑かった」と伝えるよりも「今年の夏は去年よりも暑かった」と伝えると、聞き手は「去年はあれだけ暑かったのに、それ以上に今年の夏は暑かったのか、それは今年は相当暑かったんだな」とより鮮明に認識できる。※ 補足として、この過去の経験のチョイスも、話し手・聞き手の間で共通認識できる経験を選ぶ必要がある点に注意したい。
このように、話し手・聞き手の双方が程度の大きさの認識を合わせられるように、より具体的な言葉に置き換えたり別のものとの相対比較をしながらコミュニケーションを取ると、より分かりやすく伝えられると考えている。

その3. 順序立てて伝える - 話の飛躍を避ける

因果関係や時系列、話の前提を順序立てて伝えると、話の内容が分かりやすくなることが多い。
例として「風が吹けば桶屋が儲かる」という言葉を取り上げよう。(今回はことわざとしてではなく、話が飛躍する例として見ていただきたい。)この言葉を聞いただけでは「風が吹くこと」と「桶屋が儲かる」ことのつながりが見えないため、桶屋が儲かるという話の内容を理解しようとするのは難しいのではないだろうか。これを以下のように伝えると、より内容が理解しやすくなるのではないだろうか。

風が吹くと土ぼこりがたち、それが目に入ることで盲人が増える。
盲人は三味線で生計を立てようとするので三味線の需要が増える。
三味線には猫の皮が張られることで猫が減る。
猫が減るとねずみが増えて、ねずみにかじられる桶が増えることから、桶を売る桶屋が儲かる。

Wikipedia

内容が理解しやすくなったのは、「風が吹く」ことから「桶屋が儲かる」ことまでの話のつながりが分かるようになったからである。
時系列や前提情報を必要とする話をするときにも、同様に話のつながりが分かるようにすることは大切である。「コミュニケーション相手がまだ持ち合わせていない前提情報はないか」「話がつながっているか」を見直して必要情報を伝えられるようになるとより分かりやすいコミュニケーションが実現する。

ただ、このポイントにも注意点がある。
先ほどの「風が吹けば桶屋が儲かる」を順序立てて書いた引用文を見返してほしい。「風が吹けば桶屋が儲かる」の一言と比べて話が長いと感じるのではないだろうか。この話のつながりを知っている人からすると、話の途中で「この文章の結論は何だろう?」「何が言いたいのだろう?」と思うかもしれない。聞き手がこのように話のつながりや前提をあらかじめ知っている場合は、結論を先に伝えることも良いだろう。
上司に仕事の相談をする際にも、「上司はその仕事の前提情報を知っているだろうか」という点をはじめに考えると良い。日常的に上司に情報共有を行っている場合は、上司は前提情報を知っているだろうから結論を先に伝えるのが良いだろうし、そうでない場合は前提情報を伝えてから結論を伝えるのが良いだろう。
ここでも、「聞き手はどこまでの前提情報を知っているのか」「聞き手は始めに結論を知りたがっているのか、それとも背景を重点的に知りたがっているのか」を聞き手の立場に立って考えることが大切になる。

注意点・心構え

ここまで、分かりやすく伝えるための3つのポイントを説明した。この章では、分かりやすく伝える上で個人的に考えている注意点・心構えを書きたい。

聞き手・読み手を定義しよう

これは前述した「分かりやすく伝えるための3つのポイント」全てに共通しているものである。3つのポイントを押さえるとおのずと聞き手・読み手の定義ができると考えてあえてこの点はポイントに入れなかったが、大切であることには変わりない。「この話の聞き手は誰なのか」「この文章の読み手は誰なのか」を考えて、相手が知っている言葉や相手が持ち合わせているバックグラウンドを考えると、使うべき言葉や共有すべき前提情報が見えてくることが多い。
小学生のような子を相手に話しているのであれば、その子が知っている言葉に置き換えて伝える必要がある。また、同じ小学生でも野球が好きな子に対しては野球で例えて話すと伝わりやすいだろうし、サッカーが好きな子に対してはサッカーで例えて話すと伝わりやすくなるだろう。会社の中で上司に話す時と部下に話す時なども、上司と部下で持ち合わせている前提情報が異なる場合にはその前提の違いを考慮して話す内容や話す順番、用いる言葉を切り替える必要が出てくる。
このように分かりやすく伝えるためには、まず話の聞き手・文章の読み手は誰なのかを考え、その人が知っている言葉・前提情報は何なのかを考えることから始めてみると良い。

3つのポイントに照らし合わせて実践しよう

普段の生活でのコミュニケーションでうまく伝わらないと感じた時は、これまで書いてきた3つのポイントに照らし合わせてどの部分で伝わっていないのかを考えてみると良い。「相手が認識できる用語を使っているのか」「複数解釈の余地のない内容か」「順序立った内容か」いずれかの部分で改善の余地のある場合が多いのではないだろうか。
また、ここまでは自分が話し手・書き手の立場での心構えを書いてきたが、聞き手・読み手の立場の心構えも書きたい。
自分が聞き手・読み手として理解が難しい説明・文章を見た時に、理解することをすぐ諦めるのではなく、3つのポイントに照らし合わせて「何が分かればその説明・文章が理解できるようになるのか」を考えて、ぜひ話し手・書き手に質問してほしい。用語が分からなければより噛み砕いた言葉に置き換えてもらう、複数解釈できる表現が使われていればどの解釈が正しいのかを尋ねる、などをぜひ行ってほしい。
同じようにその説明・文章を見て理解できず困っている人が他にもいるはずであるため、上記のような質問とその解決によって、より理解のしやすい説明・文章が出来上がる。

「分かりやすく伝えるには」を主題にいろいろと書いてきたが、はじめからなんでも分かりやすく伝えられる人はごく少数である。(私もまだまだ精進中。)「ちょっとずつ段階を踏んでできることを増やしていこう!」という気持ちで、気を楽にして分かりやすく伝えるスキルを身につけてもらえると幸いである。

さいごに

ここまで「分かりやすく伝える」ことについて3つのポイントを軸として書いてきた。ただ、「分かりやすく伝える」方法については、これが正解!というものはないと考えている。この記事の内容や「分かりやすく伝える」ことについて書かれた他の様々な記事・書籍をもとにして、読者の皆さんに分かりやすく伝える方法をアレンジしてもらい、より良い伝え方のアイディアが生まれると幸いである。

参考

参考文献

参考サイト
サイボウズ株式会社 エンジニア新人研修 テクニカルライティングの基本 2023年版

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