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「PLAY 25年分のラストシーン」を見て、25年前の自分に教えてやりたくなったこと

「PLAY 25年分のラストシーン」を見た。
2019年のフランス映画。
地味に手のかかった映画で、個人的にはかなり好きな作品だった。

映画の内容は「25年分のホームビデオの映像をつないで青春を振り返る」っていうもの。それ以上でもそれ以下でもない。

パリで生まれ育った少年が90年代から現在まで、ひたすら日常をカメラで撮影していて、それをつないだという作品。
だから特にストーリーがあるわけじゃない。
ほんとにただの日常の断片だ。

ただすごいのは、その日常の断片を役者を使って新しく作っているところだ。
この映画、ホームビデオ風に作った撮り下ろし映像でできている。
ようするにこの何てことないアイデアを実現させるために、とんでもなく手の込んだことをしているのだ。

登場人物は25年分歳を取るし、時代も移り変わる。
作るのが大変なわりに、できあがってくるものは超地味。
実際、見ている間は「ほんとにこれホームビデオじゃないの?」ってくらい違和感なくて、良い意味で全く「作り物感」がない。

映画は主人公マックスが13歳の誕生日にカメラを贈られたところから始まる。
新しいオモチャに夢中になった少年は、日常を記録し始める。
撮影トリックを使った瞬間移動、チープなお遊びホラー映画を作ったり、自在に映像を操れる楽しさを存分に味わっている。
そして友達とのバカ騒ぎ、こっくりさん、家の電話で女の子をデートに誘ったり、無邪気な子ども時代が展開される。
青春時代は、酒飲んで、ちょっと悪さもして、やがて、大人になって仕事に就いたり、家族ができたり、親が病気になったり…。
突然、何の説明もなく登場しなくなる友人がいたりして、この辺もなんだかリアルだ。いつのまにか疎遠になる人、いるよね。

あえて説明的なシーンを作らないように、作り手は「なぜこのときビデオを録画したのか」を考えながら撮ったようだ。

一見、何でもない無駄なシーンも、そこに映っているものが、「ああ、この頃か」っていう時代を思い出させる仕掛けになっていて、実は無駄がない。
公園でストリートファイター2ごっこをしてたり、初代プレステを熱っぽく語ったり、ファイトクラブのモノマネしたりとか、だいたいこの頃か〜って思わせる。

フランスのW杯優勝のパレードとか、ミレニアムパーティーとか、かなり大がかりな時代の再現もしていて、この辺は地味な映画に見えてものすごくお金がかかってるんだろうなと。ただ、ホームビデオの映像にしか見えないので、まったくお金がかかっている感じには見えないんだけど…。

撮っているカメラも時代ごとに変わっていく。
最初はスーパー8のビデオ画像で始まってノイズまじり。これはものすごく味があって懐かしい。そして次第に性能が良くなって、デジタルになって画質もきれいになり、スマホになって縦画面になったり、画角も変化していく。

主人公マックスは、ずっと撮影しているので、画面にはほとんど登場しないのだけど、彼の心の動きは、セリフや演技ではなく、カメラが映す対象への視線の動きで表現される。

クラスの好きな子を自然に目で追っちゃう、あれ。
ある少女が現れてから、カメラが一人の子をつい追ってしまう。
で、彼女と目があった瞬間にスッと違うものを撮ったりしてごまかす。
カメラによる視線の動き、それが主人公の感情の動きそのものになっている。

ようするにこの映画、25年のホームビデオ映像を使ったラブストーリーなのだ。

13歳でカメラを持った少年が、初恋を経験して、25年でどうなっていくか…。
クライマックスまで、じつに気の効いた作りになっている。

何てことない話だけど、エモーショナルで、やっぱり感動する。
この映画、ようするに誰の何てことない毎日だって、映画になりうるってことを言ってる。

映画の主人公マックスが13歳で初めてカメラを手にしたのが1993年。
同じ年、ぼくも初めてビデオカメラを手に入れた。
半分はバイト代、残り半分は確か祖母に出してもらった。

当時、映画監督になりたい!
って夢見ていて、このカメラで何かすごいものを撮ってやろうと意気込んでいた。
意気込んでいたのは気持ちだけで、実際何を撮っていいかわからなかった。

「よし、映画を撮ろう」と思って脚本を書いたりもした。
「レザボア・ドックス」に影響を受けまくった西部劇の脚本。
…こんなんどうやって撮るんじゃ!ってものだった。

「特別な何か」を撮りたいって、何も撮らないで考えばかりいた。

ほんと、何やってたんだ!って思う。
実は撮るものはそこにあったじゃないか。
「特別な何か」って、実はもう目の前にあったんじゃないか。
そこにある当たり前の日常を毎日を撮ればよかったんだ。

この映画は超面倒なことして作ってるけど、実はこんなのは誰の人生の中にもある普通のことだし、その時、そのことに気づいてそれを記録して、何年も何十年もそれを続ければ、「特別な何か」ができたはずだ。

ちくしょう、25年前の自分に教えてやりたい!
「今を撮れ!」と。

「いちばんたいせつなことは、目に見えない」は星の王子さまのセリフだけど、
本当に価値があるものって、当たり前過ぎてその時は見えてないんだろうな。

ま、このとき何もできずにうだうだしてたところから一歩踏み出したのが、この話になるので、それはそれでよかったのかもしれないけど…。

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