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【ショートショート小説】 国会答弁

午後6時。今日も首相のいい加減な国会答弁が終わった。

国民の半数が反対するスポーツイベントや、国際博覧会、大規模な葬儀などを、民主主義を死守するために実施すると言う。
政党と関わりのある宗教団体との関係を、切ると言うだけで何もしない。
人種差別発言をする議員を閣僚に加える。
重症者の増えた感染症におざなりな対応をする。
議員の裏金問題に自身の責任を取らない。
国会を開けと言う野党の声を無視する。
これらのすべての問題を、置き去りにしたまま、自分は休暇を取りゴルフをする…。


デタラメの限りを尽くす首相が、国会を終え、たくさんの記者たちに囲まれている。
「総理。反対の多いスポーツイベントなどを、実行することは、自身がおっしゃる民主主義に反することになるのではないでしょうか?」
首相は知らん顔でそのまま国会の廊下を歩いていく。
「感染者が三万人を超えました。今のままの対応では、さらに感染は増えるのではないですか?」
「本当に宗教団体との関係は切れるのですか?」
「国会議員の裏金問題の件は…」

首相は追いすがる記者を押しのけ、逃げようとする。
「国民の支持率も下がり、不支持が上回ってます」
「うるさい」首相は怒りながら、執務室へと入ろうとすると、一人の女性記者が部屋の前に立ちふさがり、彼を引き止めた。
「なんだ君は。そこを退きなさい!」
「不祥事続きの上、国民もあなたを支持してないんですよ。早くあなたは総理を辞めるべきです」
「…」
「一体あなたは何を考えてるんですか。こんないい加減なことばかりするあなたを、私たち記者は精神病じゃないかとか、宇宙人じゃないかなんて言い合っているんですよ」

柏田首相は下を向き、その言葉を聞いていたが、しばらくすると、肩を震わせ、「ふふふふ」と笑い始めた。
「何を一体笑っているんですか」
「はははははははは!」
首相は顔を上げ、大声で笑い出した。記者たちはいきなりの首相の豹変ぶりにたじろぎ、何も言葉を発することができなかった。
「どうした。俺に何か聞きたいんだろ」
腰に手を当て、首相が記者を威圧する。
「何がおかしいんですか?私たちはおかしくもなんともありませんよ!」
女性記者が、堂々と仁王立ちしている首相に、そう突っ込んだ。
「俺にはおかしいね、全く。なぜなら、君たちが言うことは図星すぎるからだよ」
「あなたが自分勝手で、いい加減な人間だってことですか?」
女性記者は皮肉を言った。
「それじゃない。俺が宇宙人だってことだよ!」

そう言うと、首相は次第に姿を変え、黄色と黒の豹柄色の、細い体に、ヒョロっと銀色のツノのようなものを、頭に生やした、見たこともない不気味な怪人に変わった。
「どうだ。驚いたか」首相、転じて謎の怪人はまた高らかに笑った。
「私はモヒート星人。実は私こと柏田首相は、異星から来た宇宙人だったのだ!」


ドヤ顔でまた高笑いするモヒート星人を、冷ややかな目で記者たちが見つめている。
「あれ、どうしたの、みんな…」
気弱になった星人が、記者達に聞く。
「そんなことはどうでもいい!とっとと首相を辞めろっつってんだよ!」
男の記者が怪人を怒鳴りつける。
「え、だって、これ見てよ…」
自分の容姿を指差して言うが、「辞めろつってんだよ。この馬鹿野郎!」
「そうだこのクソ野郎!」
と口々に記者たちがモヒート星人に罵倒を浴びせた。

次の日、記者達に、宇宙人であることを、気にかけてもらえなかったモヒート星人は、肩を落とし、自分の星へ帰って行った。
そして、新聞社各紙の一面に「柏田首相(モヒート星人)ようやく辞任」と記事が出たのだった…。(終)

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