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『芸人交換日記』〜霜降り明星せいやの朗読劇〜

2021年1月8日、芸人交換日記の朗読劇を観に行った。意識はしていなかったが今年初の観劇になる。原作は10年ほど前に出ていたそうだが私は初見だった。観る前からワクワクとドキドキが入り混じりソワソワした心地だった。というのも、私は霜降り明星せいやさんの大ファンである。お笑いの劇場で生の漫才を見たことは多々あれど、彼の演技を生で観るのは初めてだ。朗読劇というもの自体、コロナ禍の現状、観るのはとても久々だった。

話の内容を簡単に言うと、売れない1組の芸人の奮闘、葛藤、苦悩、そして末路までを交換日記で見せていくというもの。登場人物は3人と少なく、しかし公演時間は1時間半以上あるなかなかの長編。漫才やコントでの舞台経験は豊富にあれど、初の朗読劇、演技経験はドラマのみだったせいやさんにとって、今回のキャスティングは大役だったに違いない。しかし、そんな心配は杞憂に終わった。

気がつけば、甲本を演じながらボロボロと泣くせいやさんの凄みにまんまと引き込まれ、こちらまで胸が熱くなり、同じように泣いていた。アフタートークでも語っていたが、この本は本職の芸人さんにとっても、重なる部分が多いらしい。特に霜降り明星にはこの作品とリンクするエピソードが要所要所にあるらしく、それらを回想し演じる姿は、まさに嘘偽りのないもので、見ている者の心にダイレクトに響いた。"本当に経験してきた。"それに敵うものは無い。気持ちが前のめりになり、噛んでしまう部分もあったが、それさえ尊く、不器用な主人公と重なって見えた。

作中、コンビ2人でそれぞれがお互いを褒め合う、何気ないほのぼのとしたパートで、感極まり涙を流したせいやさん。かなり序盤での涙姿に相方、田中役の小森さんも驚いたそうだが、その真相をアフタートークで聞くと、かなり印象が違って見えるものとなる。

霜降り明星を結成した当初、作家や芸人、客、周りの誰にも認めてもらえなかった時代。味方は相方しかいなかった。お互いがお互いを面白いと信じ、口に出して褒め合い、そこからスタートした。と語ったせいやさんは、役を降りたアフタートークでも目が潤んでいた。売れなかった時代、お互いを励まし合いながらやっていた時を思い出し泣いてしまったという話に、相方役の小森さんも納得した様子で頷いていた。

トークの最後、コンビはかけがえのないものですから!そう叫んだせいやさんの真っ直ぐな眼差しをきっとずっと忘れない。相方、粗品さんのこと好きですか?の質問に、そりゃ好きですよ。好きじゃないとやってられないですよ正直。と照れ臭そうに語ったのも印象的だった。

台本は全て標準語で書かれており、それを本番その場で関西弁に変えながら演じていたというエピソードを数時間後の深夜ラジオで聞き、その器用さにも驚かされた。また、天国漫才のくだりでは台本にない無茶振りで、即興ソングまで披露していて、彼の芸の幅広さを改めて感じさせられた。

フジファブリックの「若者のすべて」が劇中歌として流れていて、とても良いアクセントになっていた。切ない心にじんわり効いて、包み込んでくれる様な感覚に陥った。映像を映し出すタイプの背景は使わず、きちんと建てられたバックのセットや、シンプルな照明も世界観に合っていて趣深い。全体を通してかなり満足度の高い公演だった。派手な演出も大きな動きもない朗読一本勝負なこの作品。アドリブを入れつつ、笑いあり涙ありの感動ストーリーを見事演じきったせいやさんに今一度拍手を送りたい。

大袈裟かもしれないが、私はこの公演で、未来への勇気や、明日への活力までもらってしまった。こうして新たにnoteを始めるくらいには、影響を受けている 笑。コロナ禍で、劇場の肩身がどんどん狭くなっている現状だが、お笑いや演劇、その他全てのエンターテイメントはこの世界に必要だ。改めてそう思わせてくれる作品だった。本当にありがとう。

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