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あの夏の落とし物


平日夜の屋形船にお誘いいただいた

早めに仕事を切り上げて
浅草の桟橋に集合だ

船内の座敷にあがるだろうから 
替えの靴下を用意しておこう


船着き場の最寄り駅で電車を降りた
時間があまりない 
急いだほうがよさそうだ 

駆け足でコンビ二を探す
「飲む前に飲む」的な何かを飲まないと8割以上の確率で二日酔いする私
コンビ二を探し「ウコンの力」を購入
走りながら飲み干す
空き缶はカバンへ入れる

隅田川に架かる橋を疾走する
肉食獣のように弾むように走る


カラーン ガサッ

背後で音がした

何事か

振り返ると

カバンに入れたはずの「ウコンの力」が転がっている

しまった
カバンのチャックを閉め忘れていた

いくつもの書類もカバンから放り出されている


近くの通行人が 気づいてくれた

皆 親切だ

拾うのを手伝ってくれる

ありがとうございます

ありがとうございます


その中でひとり

腰を落として 拾ってくれようとしている女性が 

ピタっと動きをとめた 


拾おうとする手をとめた


彼女の視線の先には「靴下」 

屋形船で履き替えるための「靴下」

そりゃ触れたくないですよね 他人の「靴下」 

わかります


でも

私はあなたの親切心に触れることができました

ありがとう 親切な君

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