見出し画像

地方企業がぶち当たるデジタルトランスフォーメーション(DX)5つの壁


こんにちは 、クアンドの下岡です。クアンドは地方産業・レガシー産業のアップデートを目指すスタートアップで、これまで九州(主に福岡・北九州)を中心に製造、流通、金融などレガシーな産業領域において地方老舗企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に携わってきました。

地方企業のDXプロジェクトに携わる中で、失敗するケースはいつも同じような壁にぶつかっているなぁと感じており、今回は地方企業がDXに取り組む際にぶち当たるであろう「5つの壁」について書いてみようと思います。


はじめに

この記事は地方企業のDXに的を絞って書いています。地方には歴史ある素晴らしい企業が沢山あります。その企業も次の時代を生き抜く為、テクノロジーによって生まれ変わろうとしています。しかし、地方企業のDXプロジェクトは、上場企業のDXプロジェクトとは資金力、人材、周辺環境(スタートアップやSIerの存在、大学との産学連携、行政や政治家との繋がり)など多くの条件で異なり、あまり上場企業のDX事例は参考にならないと感じています。

地方企業の経営者の中には、AIやIoTなどテクノロジーに関して感度が高く、セミナーや勉強会などにも積極的に参加されている方も多いと感じます。しかしながら、自社の取り組みとなると、何とかしたいけど、何をしていいのか分からない!と言う企業さんが多いのが現状ではないでしょうか?

今回の記事は、そのような地方企業の経営者(もしくは事業責任者)へ向けて、自社のDXプロジェクトで対面するであろう「5つの壁」について書いています。

※デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉は該当範囲が広く定義が曖昧です。本記事では「地方企業がテクノロジーを利用して自社のビジネス課題を解決し、会社全体を大きく変革する」プロジェクト全般の話とします。

「5つの壁」の全体像はこちら↓

画像6

上図にある、1.課題定義、2.データ、3.組織、4.プロジェクト推進、5.人材それぞれの課題について解説します。

課題定義の壁

~「解く」前に「見極める」~
DX関連のプロジェクトでよく見られるシーンは「で、結局解決したい課題って何でしたっけ?」「そもそもそれって解決する必要あるんでしたっけ?」というやり取り。5割ぐらいのケースではこの話しに戻ります。手段であるAIやIoTの導入が目的化されているケースも多いのですが、それと同じぐらい多いのが課題定義が曖昧なこと。「従業員の生産性が低い」「新しい事業を創りたい」は真に解くべき課題ではなく、何となくある課題感や期待であり、それらからは何ら具体的なアクションは導かれません。

まず必要なのは、取り組むべき課題を定義すること。課題定義はそれだけで数冊の本が書けるテーマなので、今回は詳しく書きませんが、私のオススメ書籍であるイシューからはじめよを読んでいただければ何となく概要は理解できると思います。この本の第一章は、課題は「解く」前に「見極める」というテーマで全てページが割かれています。

そもそも解くべき課題は何なのか?それは時間とお金をかけて解くべき課題なのか?という問いを投げかけるとこからスタートし、真に解くべき課題を明確化して、プロジェクトの最適な手段・推進体制を決めます


画像6

我々の事例で言えば、「他社ECの影響で店舗売上が下がっているから、なんとかしたい」という流通業の課題(感)から、「ECには無い自社の強みは店舗の存在や顧客基盤。顧客コミュニティをオンラインで形成し、そこから生まれる情報・データを活用して、他社には真似できない新規サービスを作る。その為にまずやるべきことは何か?」という一歩踏み込んだ仮説設定、課題定義をすることができました。


データの壁

データこそ命。まずはデータの流れを把握する~
さて、課題が明確になり、解くべきものが見えてきました。これでプロジェクトはスタートできるでしょうか?まだ事前に確認すべきものがあります。それはデータの存在です。AIやIoTなどのテクノロジーを活用するためには、その基となるデータが必要です。経営者が理想の状態を描いても、現場にそれを実現できるデータがない、もしくはデータが収集できる仕組みになってないと、その理想は実現できません。

あるプロジェクトでは、社長が「10年分のデータはある!」と仰っていたので現場を調べたところ、記録されているデータは紙への手書きデータであり、保管されている紙データも劣化して読み取り不可能な状態でした(環境依存の問題)。また、人が記録しているデータ自体にも抜け漏れや誤りがあり、活用できない状況でした(人間依存の問題)。

データの収集状況を確認し、データを収集できる仕組みを社内に構築することで、必要なデータの量と質を確保することが重要です。

画像6


組織の壁

~トップ(経営者)の強いコミットメントが必要~
プロジェクトの成否はここにかかっていると言っても過言ではないのが、組織体制です。まず大前提としてトップ(経営者)がテクノロジーとプロジェクトに関して強い”意志”と”理解”を持っていることが大切です。

地方企業の場合、経営者がプロジェクトを牽引するケースが多いため、あまり”意志”は問題となりません。(たまに役員・部長クラスが先導し、トップがコミットメントしてないケースもありますが100%上手くいきません)。

一方、AIなどのテクノロジーが万能だと思い込んでいたり、一緒に組む外部企業やパートナーを下請けのように扱い、上手くいかないケースもあります。トップに意思と理解があり、プロジェクトに100%コミットメントしていることが最低限必要な条件です。


~現場責任者と情シス部門の全面的な協力~
次に、現場責任者と情シス部門のスタンスも重要です。現場の理解や納得がないと、経営者の理想は実行されない事が多いように感じます。一応、現場でそれとなく実施はされるのですが、(恣意的に)結果が出ないという報告が現場から上がり、それを見たマネジメントはプロジェクトを断念せざる得ない状況になります。

また、このようなプロジェクトはIT=情シスという理由で、情シス部門が抜擢される傾向にありますが、彼らに「最新のテクノロジーを活用して新しい事業を創れ」と言うのはお門違いです。何故ならば、情シス部門の任務は安定的なシステム運用であり、リスクを最小限に抑えることがミッションだったからです。先行き不透明でドンドン状況やゴールが変更になるDXプロジェクトにおいて彼らのマインドは馴染みません。(なかには柔軟に意識変容して新しいチャレンジに意欲的になる人もいますが、堅実かつ保守的な人が多い気がします。というよりは本来それが情シスのあるべき姿でした)。



画像6


このように各ステークホルダーの状況を踏まえたうえで、DXのプロジェクトを推進できるチーム体制を事前に作っておくことが、スムーズなプロジェクト運営には重要です。

プロジェクト推進の壁

~高いプロジェクト推進能力がチームに求められる~
やっとプロジェクトがスタートできました!これで万全を期してスタート!となっても、プロジェクトは大抵予定通りに進みません。

そうなった時、チーム(社内社外の混合)は機敏に動き、柔軟に計画を変えていくことが求められます。現状に合わせて開発や実施内容を変更し、意思決定者であるトップに現実と理想のキャリブレーションを行いながら、スケジュールを調整してプロジェクトを上手くマネジメントしていく能力がチームに求められます。
予定調和ではない環境下では、ある程度自律的に動ける権限をチームに与えつつ、スピーディーかつ柔軟に動ける組織形態であることが重要です。

画像6


予定調和ではない環境下では、高いチーム力とプロジェクト推進力が求められます。


人材の壁

~優秀な人材の採用・育成ができる環境が社内にあるか?~
これらの難易度の高いプロジェクトを推進するためには、AIなどの最新テクノロジーの知識だけでなく、技術一般の幅広い知識や経験、高いプロジェクト推進力が求められます。では、こういった優秀な人材はすでに社内にいるでしょうか?地方企業に該当する人材がいることは稀です。では、外部から採用できるでしょうか?これもなかなか適材が見つかりません。

優秀な人材は地域企業最大の課題です。しかしながら、DXを社内で推進する為には、外部の企業・人材の活用だけでなはく、継続的に優秀な人物が採用・育成できる仕組みづくりを行う必要があります。

一朝一夕にできるような話ではありませんが、長期的な企業の発展には、このような人物を育てる会社の風土や仕組みが重要だと思います。

画像6


まとめ

以上のように、DXは単なるテクノロジーの導入ではなく、組織改革・意識改革を伴う全社的な大経営改革です。「AIを使って劇的に・・・」「IoTを導入して自動化で・・・」など、あたかもそれを実施すれば企業が大きく前進するような話をしがちです。しかし実際には多方面で検討・実施すべきことがあり、経営者を筆頭に全社で取り組むべきものです。

東京の大企業がドンドンDXを推進する中、地方にはまだまだノウハウや人材が足りていません。しかしながら、地方企業こそDXを行い、自社の強みを存分に発揮することが日本の底力を強くすることだと信じています。

我々も少しでもそのお手伝いができればという想いを持って活動しているので、もしDXのお困りごとがある際には是非ご連絡いただければ幸いです。


代表メール:上記サイトトップページの下部にあります
代表CEO twitter:https://twitter.com/shimojquando
代表CEO Facebook:https://www.facebook.com/junichiro.shimooka

QUANDO CEO。九州工業大学 客員准教授。建設設備会社瀬登 取締役。地方でのスタートアップ、事業承継、大学発ベンチャーについて書いていきます。