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カスタマーサポートの未来を切り拓く!ノンボイス化の挑戦と実践


1.はじめに

近年、スマートフォンの普及や若年層の電話離れ、コロナ禍におけるオペレーター不足など、カスタマーサポートを取り巻く環境は大きく変化しています。こうした中で、AIチャットボットや有人チャットなどのデジタルチャネルを活用したノンボイス化が加速しています。特に、生成AIの登場により、カスタマーサポートにおけるAI活用の可能性は大きく広がりました。しかし、それと同時に、AIをどのように選択し、実務で活用するのか?というハードルも高くなっています。

このような状況の中、私たちがこのタイミングで『電話の終活』というテーマのセミナーを実施した理由は、AI時代のカスタマーサポートを設計する際に、電話対応を中心に設計してはいけないからと考えたからです。顧客体験のあるべき姿を描き、それを実現するための全体戦略を立案することが重要です。その際、人とAIをどのように組み合わせるのか、必要なデータをどのように収集・活用するのかといった点がポイントになります。

【セミナー画像抜粋】なぜ今、電話の終活なのか?

電話対応を中心に考えてしまうと、現状の電話オペレーションにAIをどう活用するかという発想から始まり、局所的な改善に留まってしまう恐れがあります。しかし、本来は顧客体験の理想形から出発し、それを実現するために必要な戦略を考えるべきなのです。デジタル化の実現には様々なハードルが存在しますが、このような思想転換こそが、真のカスタマーサポートの進化につながると私たちは考えています。

あと大事なので付け足しておきますが、『電話』のチャネルを全否定して『すべて閉じろ』と言いたいわけではありません。最適なチャネルとしての『電話』がある場合は、基本的にどんどん拡大していいと思っています。『電話の窓口がずっと中心だったから、今も電話が中心です』というような一部の企業様に向けた記事ですのでご理解いただけると幸いです。

本記事では、先日に実施した『ノンボイス化の先進企業3社に学ぶ、電話の終活と顧客サービスの未来』(アーカイブ動画もURL先でご覧いただけます)のセミナーの情報を元に、私の方で情報を肉付けして、カスタマーサポートのデジタル化に取り組む際の課題と、それらを乗り越えるための手順について解説します。

2.ノンボイス化の背景と現状

2-1. ノンボイス化の背景

ノンボイス化の流れは、約10年前から徐々に始まりました。当初は、スマートフォンの普及により、電話以外のコミュニケーションチャネルが増えたことが主な要因でした。しかし、近年では、様々な社会的・技術的変化が重なり、ノンボイス化への移行が加速しています。

まず、若年層を中心に、電話でのコミュニケーションを苦手とする人が増えてきました。彼らは、チャットやメールなどのテキストベースのやり取りを好む傾向にあります。また、カスタマーハラスメントの問題も深刻化しており、電話対応におけるオペレーターの精神的負担が増大しています。

一方で、AI技術の進歩により、チャットボットなどの自動応答システムが登場し、人的リソースに頼らないカスタマーサポートが可能になってきました。特に、最近の生成AI技術の発展は目覚ましく、より自然で知的な会話が実現できるようになっています(とはいえ、本番実装は今年以降)

加えて、コロナ禍によるリモートワークの普及で、オペレーターの確保が困難になったことも、ノンボイス化を後押ししています。在宅勤務では、電話対応に必要な環境整備が難しいケースが多いためです。

これらの要因が複合的に作用し、企業はカスタマーサポートのデジタル化、特にノンボイス化に舵を切らざるを得ない状況に直面しています。しかし、単にAIを導入すれば良いという話ではありません。AIを効果的に活用し、顧客満足度を維持・向上させるためには、綿密な戦略立案と実行が不可欠です。その際、従来の電話対応を起点とするのではなく、顧客体験の理想形から出発し、それを実現するためのテクノロジーの選択と組み合わせを考える必要があるでしょう。

2-2. 各社のノンボイス化の現状

セミナーにご登壇いただいた企業様の現状として、SBI VCトレード株式会社様では、グループ会社のノウハウを活かしてチャットボットや有人チャットを導入し、自己解決率の向上と問い合わせ削減に取り組んでいます。株式会社セブン銀行々では、UI/UXの改善とチャットボットのメンテナンス工数の削減がノンボイス化の課題となっていましたが、システムのリプレイスにより解決を図っています。ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社は、コロナ禍をきっかけにノンボイスチャネルを一気に拡大し、自動化を進めることで、電話応対量の抑制にも成功しています。

これらの事例から見えてくるのは、ノンボイス化の実現には、各社の置かれた状況や課題に応じた多様なアプローチが必要だということです。グループ会社との連携、UI/UXの改善、システムのリプレイスなど、ノンボイス化を進める上でのポイントは企業によって異なります。しかし、いずれの企業も、顧客の利便性を高めつつ、業務の効率化を図るという共通の目的を持っています。カスタマーサポートの未来を見据えた戦略的な取り組みが、ノンボイス化の成功の鍵を握っているのです。

3.現場感のある問題の把握

カスタマーサポートのデジタル化を進める上で、まず重要なのは現場感のある問題を正しく把握することです。顧客が何を望んでいるのか、どのような点で困っているのかを深く理解することが不可欠です。ただし、この現場感のある問題は、あくまでも全体戦略の中で位置づける必要があります。

デジタル化の全体ロードマップを作成する際には、まず顧客体験のあるべき姿を設定することから始めましょう。もしかしたらこのテーマはカスタマーサポートやコンタクトセンターの部門が関与していない場で決定されているかもしれません。その場合は、積極的にキャッチアップし、自らの戦略と紐づける活動をしましょう。

その上で、現場感のある問題を分析し、デジタル化の具体的な施策を検討していきます。顧客の声に耳を傾け、データを分析することで、適切で臨機応変なサポート戦略を立案することができるでしょう。

例えば、顧客がセルフサービスでの問題解決を望んでいる場合、FAQ やチャットボットの導入が有効な施策となります。一方、複雑な問題を抱えている場合は、人間のオペレーターによる丁寧な対応が求められるかもしれません。顧客のニーズに合わせて、最適なサポートチャネルを選択し、シームレスに連携させることが重要です。

ただし、これらの施策は、あくまでも全体戦略の中で位置づけ、優先順位をつけて実行していく必要があります。現場感のある問題は重要な入力情報ではありますが、それだけに頼るのではなく、顧客体験のあるべき姿を起点に、デジタル化の取り組みを進めていくことが肝要です。

4.自社のケイパビリティの把握

次に、自社のケイパビリティを正しく把握することが求められます。デジタル化を進める上で、投下できる人員や予算、既存システムとの兼ね合いなどの制約を理解する必要があります。また、既存の人材のスキルセットを考慮し、何を変えて、何を変えないのか、変える場合はどのように変えるのかを立案しなければなりません。

例えば、AI を活用したチャットボットの導入を検討する場合、既存のシステムとの連携や、オペレーターの役割変更などが必要になるかもしれません。限られた予算の中で、最大限の効果を発揮できるよう、優先順位を付けて取り組むことが重要です。

SBI VCトレード株式会社様の事例のように、グループ会社のリソースやノウハウを活用することも、自社のケイパビリティを補完する有効な手段の一つです。一方、株式会社セブン銀行様のように、既存システムの老朽化が課題となっている場合は、抜本的なシステムリプレイスを検討する必要があるかもしれません。

また、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社様のように、オペレーターのスキルセットを見直し、デジタルチャネルに適した人材育成を行うことも重要です。チャットや SNS での対応には、電話対応とは異なるスキルが求められます。

自社のケイパビリティを正しく把握した上で、外部リソースの活用や、段階的な導入など、柔軟な対応が求められます。デジタル化は一朝一夕で実現できるものではありません。長期的な視点を持ち、着実に歩みを進めていくことが肝要です。

5.ノンボイス化の具体的な取り組み事例

セミナーに登壇いただいた3社の取り組み事例を詳しく見ていきましょう。各社の置かれた状況や課題は異なりますが、ノンボイス化に向けた戦略的なアプローチという点で共通しています。

5-1. SBI VCトレード株式会社

SBI VCトレード株式会社様では、グループ会社のチャットボット利用やノウハウを活用し、自社のノンボイス化を推進しています。具体的には、以下のような取り組みを行っています。

  • チャットボット・有人チャットの導入により、自己解決率の向上と問い合わせ削減を実現

  • FAQページの拡充により、顧客の自己解決を支援

  • 予告架電の実施により、電話のみの顧客への対応を強化

SBI VCトレード株式会社様の事例から学べるのは、グループ会社のリソースを有効活用することの重要性です。グループ会社との連携により、自社単独では実現が難しい取り組みも可能になります。

5-2. 株式会社セブン銀行

株式会社セブン銀行様では、2023年10月にチャットシステムをリプレイスし、UI/UXの改善とチャットボットのメンテナンス工数削減を実現しました。同社のノンボイス化の課題は、以下の2点でした。

  • チャットボットのUI/UXに課題があり、利用率が低迷

  • チャットボットのメンテナンス工数が高く、運用コストが増大

これらの課題に対して、同社はチャットシステムのリプレイスという抜本的な対策を講じました。レガシーシステムに囚われない柔軟な発想と、果断な意思決定が、同社のノンボイス化を加速させたといえます。

5-3. ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社

ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社様は、2020年よりメール・有人チャットサポートを開始し、その後、AIチャットボット、YouTubeサポート動画、メッセージサポートなど、様々なノンボイスチャネルを順次導入してきました。また、以下のような電話応対削減策も実施しています。

  • 土日休日の受付終了

  • フリーダイヤル・予約受付の廃止

同社の取り組みから学べるのは、ノンボイス化を段階的に進めることの重要性です。一度にすべてを変えるのではなく、まずは実現可能な施策から着手し、徐々に改善の幅を広げていく。この積み重ねが、着実なノンボイス化につながっています。

また、電話応対削減策の実施は、ノンボイスチャネルへの誘導を強化する上で効果的です。ただし、顧客の反応を見ながら、慎重に進める必要があります。

以上、3社の事例から、ノンボイス化の具体的なアプローチ方法について学ぶことができました。各社の置かれた状況は異なりますが、顧客体験の向上と業務効率化という共通の目的に向かって、戦略的に取り組みを進めている点が特徴的です。

ノンボイス化は、一朝一夕で実現できるものではありません。自社のケイパビリティを正しく把握した上で、長期的な視点を持ち、着実に歩みを進めていくことが肝要です。3社の事例は、その道しるべとなるはずです。

6.まとめ

本記事では、カスタマーサポートのデジタル化、特にノンボイス化について、その背景と現状、具体的な取り組み事例、そして課題と解決策について詳しく解説してきました。

ノンボイス化の流れは、スマートフォンの普及、若年層の電話離れ、カスタマーハラスメントの問題、チャットボットの登場、オペレーター不足の顕在化、コロナ禍、生成AIの登場などを背景に加速しています。企業はカスタマーサポートのデジタル化、特にノンボイス化に舵を切らざるを得ない状況に直面しているのです。

しかし、ノンボイス化の実現には、各社の置かれた状況や課題に応じた多様なアプローチが必要です。SBI VCトレード株式会社様のグループ会社との連携、株式会社セブン銀行様のシステムリプレイス、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社様の段階的な導入など、各社の事例から学ぶべきポイントは数多くあります。

また、ノンボイス化を進める上では、現場感のある問題の把握、自社のケイパビリティの理解、社内の各部門との調整など、様々なハードルを乗り越えなければなりません。特に、顧客満足度の維持向上と電話応対の削減、社内の理解と合意形成、オペレーターの育成といった課題は、どの企業にとっても避けては通れない課題といえるでしょう。

加えて、ノンボイス化の取り組みは、多くの場合、コンタクトセンターの部署だけで完結するものではありません。システム部門、営業やマーケティングの部門との調整が必要となるケースが少なくないのです。特にAI活用というテーマに関しては、各部門で推進している施策が存在していることが多く、それらと一緒に進めるのか、どちらかに集約するのかといった取捨選択も、大きなハードルの一つとなります。こうした状況を乗り越えるためには、全社的な観点から大きなロードマップを描くことが不可欠です。また、泥臭いかもしれませんが、他部門の方々とのコミュニケーションが解決の糸口になるかもしれまん。

【セミナーレポートから抜粋】社内の別部門の方々とのコミュニケーションがハードルを超える一助になる可能性も?!

さらに、ソリューション選定の段階でもハードルは高いといえます。同じような機能を持つソリューションでも、価格帯は大きく異なり、無料のものから数百万円、数千万円の投資が必要なものまで様々です。特に、生成AIの登場により、AIで実現できるオペレーションの幅が大きく広がったことで、適切なソリューションを見極める力や、導入後に軌道修正を行っていく柔軟性がより一層求められるようになっています。*結構深いテーマなので、別でこの話題はやりたいなと思っています。

これらの課題に真摯に向き合い、一つ一つ丁寧に解決していくことこそが、ノンボイス化の真髄なのです。従来の電話対応を起点とするのではなく、顧客体験の理想形から出発し、それを実現するためのテクノロジーの選択と組み合わせを考える。この思想転換こそが、真のカスタマーサポートの進化につながるのです

セミナーに登壇いただいた3社に共通していたのは、カスタマーサポートの未来を見据えた戦略的な取り組み姿勢でした。

そして、この目的を実現するために、各社は現場の声に耳を傾け、データに基づいた意思決定を行いながら、ノンボイス化に取り組んでいます。電話応対に依存しない、インテリジェントでプロアクティブなサポートの実現。それこそが、カスタマーサポートの未来の姿なのです。

最後に、登壇者の方々が口を揃えて仰っていた言葉を紹介して、本記事の締めくくりとしたいと思います。

「ノンボイス化は、一朝一夕で実現できるものではありません。長期的な視点を持ち、着実に歩みを進めていくことが肝要です」

この言葉こそ、デジタル化の荒波を乗り越え、カスタマーサポートの未来を切り拓いていくための、かけがえのない指針となるはずです。企業の果敢なチャレンジに、大いに期待したいと思います。

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