血と暴力に彩られたインセプション『ポゼッサー』
10月31日から開催している第33回東京国際映画祭。今年はコロナの影響により、昨年まで実施していた「コンペティション」、「アジアの未来」、「日本映画スプラッシュ」の3部門を「TOKYOプレミア2020」という1つの部門に統合している。本作はその中の1本。人を操り暗殺者に仕立てる女と意識を乗っ取られた男との攻防を描いたSFスリラーだ。10月31日の16:30の上映回で鑑賞してきたので、感想を交えながら紹介をしていきたいと思う。
【監督はあの鬼才の息子!父の遺伝子を引き継ぐか?!】
本作の監督はカナダ出身のブランドン・クローネンバーグ。クローネンバーグという名前でピンときた方もいるかもしれないが、監督はあの映画界の鬼才デヴィッド・クローネンバーグの息子である。
デヴィッド・クローネンバーグといえば、超能力者同士の攻防を描いた『スキャナーズ』(1981年)やウィリアム・バロウズの同名小説を映画化した『裸のランチ』(1991年)、ベルリン国際映画祭にて芸術貢献賞を受賞した『イグジステンズ』(2000年)など、独特のビジュアルとストーリーで、世界中でカルト的人気を博している映画監督だ。
そんな監督のDNAを引き継いでるブランドン・クローネンバーグだが、本作が初監督作品という訳ではない。2002年に『アンチヴァイラル』という作品を手掛けている。こちらはウイルスを横流ししている青年医師が、あるモデルのウイルスを巡り巨大な陰謀に巻き込まれていくSFミステリーだ。そして後述するが、『アンチヴァイラル』も本作もデヴィッド・クローネンバーグに通ずる作風が見られるのが特徴である。
【バイオレンスかつスタイリッシュ!鮮烈なビジュアルが凄まじい】
本作の舞台は、架空の2008年ということだが、劇中で世界観の説明描写はほぼないため、観客側は手探りで情報を探っていかなければならない(2008年の架空の世界という設定も資料で書かれており、正直、全体的に説明不足の感は否めない)加えて、テンポもスピーディーとはいえない本作だが、それでも最後まで惹きつけられる魅力は、その鮮烈なビジュアルにある。例えば、相手の意識を乗っ取るための装置(下の画像)が出てくるが、この装置の外観からしてどこか不気味。(映画祭のシニアディレクターの谷田部さん曰くエイリアンのフェイスハガーを連想させるとのこと)
人の意識に潜り込む時の身体が溶けるような表現や、乗っ取られた後で起きるフラッシュバック、性交してるときの性器描写(!)など、こうしたビジュアルは、良い意味で父親譲りの気持ちの悪い表現を受け継いでいてると感じた。さらに言えば、ブランドン・クローネンバーグの方がよりスタイリッシュなビジュアルという印象。『アンチヴァイラル』そうだけど、ビジュアルセンスに関しては息子さんの方が好きだったりする。会議室みたいな所で話してる時の部屋全体が真っ赤なの格好良かった。不安を煽る重低音も作品にマッチしており世界観の作り込みは大満足。
後、本作を語る上ではずせないのは、その暴力描写。事前情報で血がドハドバ出るとは聞いていたが、それ以上に殺し方がえげつない。基本、ターゲットになった人物はめった刺しにして殺すし、その場面もじっくり映すので、目を背けたくなるような瞬間もたびたびあった。(また意識を乗っ取った相手の身体から「脱出」するためには、自分の脳天を打ち抜かなければならないというのもなかなか悪趣味)こういった場面は、監督のフェチを感じられるんだけど、残虐描写が苦手な方は心して観る事をお薦めしたい。
【意識を乗っ取る暗殺者 VS 乗っ取られた男の攻防!意識を乗っ取られているのは果たして誰なのか?】
そんな本作は人の意識に潜り込んで、相手を乗っ取るという恐怖を描いている。相手の意識に乗り込むという点では、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(2010年)を連想させるし、デヴィッド・クローネンバーグの監督作の多くに通じる「意識と肉体」というテーマにも通じてると思う。
そんな本作の面白い点は、乗っ取られる側の「知らない間に意識を乗っ取られ暗殺道具にされて殺させる」という恐怖と平行して、乗っ取る側の「他人を演じ続ける内に自分という存在が希薄になっていく」という恐怖も描かれているという点。女暗殺者のタシャは、人に乗っ取った後に自我を失っていないかのテストを受けてるのだが、劇中でもだんだんと自分が何者なのか分からなくなっていく様子が描かれる。
そして、それに繋がるように、実はタシャという女暗殺者こそが暗殺組織に自我を乗っ取られてるのではないのか?そう思わせるラストの展開が待ち受ける。本作は現時点で東京国際映画祭でのみ公開されており、一般公開されるのかは不明だが、(ちなみに前作の『アンチヴァイラル』は一般公開されている)一般公開された暁には是非チェックして欲しい。
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