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漫画『コワい話は≠くだけで。』から考える日本ホラーの現在進行形

皆さんホラーは好きですか?

私は好きです。といってもホラー映画は大の苦手(ジャンプスケアが駄目)。
怪奇小説や漫画、「死ぬほど洒落にならない怖い話」こと「洒落怖」等のネット怪談を読んだり聞いたりしています。

でも、子供のころはホラーは大の苦手でした。
どれくらい苦手だったかというと、楳図かずおの漫画を読んで熱を出したり、怪談本が怖すぎて家族に内緒でゴミ捨て場に持っていったりと。苦手というか嫌いと言っていい程だったんです。

それが中学にあがった頃からホラーに興味を持ち出して、気付いたらホラーを嗜むようになっていました。多分、子供の頃のショックの反動なのかなと思います。

そんな訳で今回はそんな自分が怖いと感じた漫画を紹介していきます。

それが『コワい話は≠くだけで。』という漫画です。

漫画:景山五月 原作:梨

作者がさまざまな人から聞いた怖い、奇妙な体験をエピソードごとにまとめた…という形式の漫画。

この作品、分かりやすい幽霊や化け物は出てこない。それどころか「何故そうなったのか?」という原因についても分からない。

だけど怖い。

体験者は前触れもなく奇妙な現象に巻き込まれる。彼らの体験談はまさに理不尽ともいえる。どの話にも共通するのが、怖いと思うと同時によく分からないモヤモヤした感情。

肝心なのは、このよく分からない気持ちが作品の面白さに繋がっているということ。

「分からないから面白くない」ではなく「分からないことが面白い」

「論より証拠」ということで、本作は試し読み(無料)できるので、興味を持った人は公式サイトで読んでみて下さい。

どのエピソードも自分の身にいつ降りかかっても不思議じゃないことなので身近に感じゾッとさせられる。

作画を担当されている景山五月先生の絵が、作品の雰囲気に合っているのも良い(リアルな絵とデフォルメな絵の使い分けが上手い!)。

漫画も面白いんですが、この漫画を読んでる時に思ったのが、こうした受け手を「よく分からないけど怖い気持ちにさせるホラー」が近頃増えているんじゃないかということ。

ホラーを研究してるという訳ではないので、あくまで個人感覚の話になるんですが、ここ最近自分に刺さる作品はそういうものが多い。

今回は漫画の紹介とともに、最近のホラーについて考えたことを記事にしています。

まず、そう思った根拠としてここ最近で自分が怖いと思った作品を紹介しています。そのうえでそれぞれの作品の共通点から伺える傾向を記事にしました。良かったら最後までお付き合いください。

【ホラー好きを賑わせている3作品】

①:フェイクドキュメンタリーQ

Youtubeで投稿されている全12話からなるショートホラー作品。
「フェイクドキュメンタリー」という名前の通り、Youtubeで配信しているドキュメンタリー風の映像動画。

ホラーが好きな人なら『ゾゾゾ』という名前を一度は目にしたことがあるのではないだろうか?
本作はそんなホラー系YouTubeチャンネル『ゾゾゾ』の発起人の1人である皆口大地さんが仕掛けた企画になる。

「フェイクだから偽物でしょ?」と思って観ると禍々しい雰囲気に吞まれること必至。「もしかして本物も混じっているのではないか?」とすら思うような現実味がある。

どのエピソードも内容は異なるが、背景や原因については不明という点で共通している。
1エピソード長くても30分掛からないくらいなので(短いのだと5分くらい)、興味ある人はチェックしてみてください。

※ちなみに自分のお薦めは『Sanctuary』、『フィルムインフェルノ』。

②:テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?

現在では観れなくなったTV番組の録画テープを視聴者から集め、スタジオで見るという… ていのフェイク番組。

内容はスタジオで過去の掘り出し物の映像を観ながら、出演者たちがコメントしていく…という内容。

全3回(テレビ放映時は3夜連続)で構成されており、回が進んでいくうち出演者たちの様子が変貌していく様が映し出される。

こちらは2021年に放映された4夜連続の特番『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』を制作した大森時生プロデューサーによる番組。

掘り出し物の番組もコメントしてる出演者たちもどんどん様子がおかしくなっていくのだが、「何故そうなったのか?」という原因に言及されることはない。

テレビでこの番組が放映されたというのだから驚きだ。
自分は評判を知ったうえで見たけど、何も知らずリアルタイムで観た人はさぞかし驚いただろうな。現在はTVerで視聴可能。

③近畿地方のある場所について

KADOKAWAと株式会社はてなが共同運営している小説投稿サイト『カクヨム』。ここで現在(4/8時点)も連載中の背筋さんが書いている『近畿地方のある場所について』という話がとても怖い。

あるライターの身に起こった語りを中心に、ホラー雑誌への投稿から一般紙への投稿、読者からの手紙など…一見、バラバラの事例から全ての出来事がある地方で起きてることが明らかになっていくるという内容。

さまざまな人たちの体験談で構成されており、あらゆるエピソードが禍々しい。「洒落怖」が好きな人は特にハマるんじゃないだろうか(恐らく作者の方も好きだし意識されてるんじゃなかろうか)。

映画だと『残穢 住んではいけない部屋』が内容的にも近いと思う

こちらは「近畿地方のある場所」に怪異の原因があるという所までは分かるが、それが何なのかはハッキリしない。

連載中のため、これからの展開次第では怪異の原因が明らかになるかも知れないが今現在は不明なため、こちらの作品も紹介させてもらった。

『近畿地方のある場所について』については、カクヨムで無料で読むことができるので、こちらもホラー好きな人はチェックしてみて欲しい。

【共通点から見出すJホラーとの関係】

以上の3作品に共通しているのは
どれも起こったことの直接的な原因は分からない
・いずれも日本発の作品である
ということ。

作品によっては「恐らくこれが原因か?」と因果関係に思い当たる描写ももあるが、作中で明らかにされることはない。

こうしたホラー作品を一言で表すなら
不気味
という表現が合っていると思う。

『フェイクドキュメンタリーQ』の皆口さんがインタビュー内で、印象的なことを語っていたので紹介したい。

上記リンク先は、集英社オンラインによる皆口さんへの『フェイクドキュメンタリーQ』の制作秘話を伺う形式の記事となっている。

上記のインタビュー内で番組の誕生から制作裏話、ホラーに対する思いなどを語っているけど、特に印象的だったのは日本のホラーについて語る場面。

和製ホラーの良さは、恐怖の輪郭は見えているのに、自分が何に触れているのかよくわからないという状況を湿度高く表現する点にあったと思う

集英社オンライン『カルト的人気を誇るホラー番組「フェイクドキュメンタリー『Q』」はいかにして生まれたのか?』より抜粋

ここを読んだ時に思った。
最近のホラー作品は、Jホラーの復権でありアップデートの流れを汲んでいるのかもしれないと。

Jホラーとは:ホラー映画のうち、日本で製作された独特のホラー映画を独立したジャンルとして扱った表現。絶叫シーンや大きなアクションなどは少なく、静かで、薄気味悪さが際立つような傾向がある。
※ただし明確な定義は定まってない様に思われる。

weblio辞書より

鈴木光司先生原作の映画『リング』がハリウッドでリメイクされた辺りから「Jホラー」という言葉が使われ始めたと記憶しているが、今現在は衰退してしまった印象がある
(今では宣伝文句で使ってる媒体はほぼない&Jホラーシアターというブランドも10年程まえに終了している)。

ハリウッドのホラー映画のように原因がハッキリ分かっているホラーではなく、不気味で湿度の高いホラー。それこそが日本のホラーの魅力であり強み。

『ゾゾゾ』の皆口さんがそこを意識して作っているのは分かったし、最近のホラー作品の作り手たちもかつてのJホラーを意識しているのではないだろうか?

もう少し言うと、Jホラーに少なからず感化を受けた世代が、今のホラー界の一線を牽引しているのではないかと思う。

【最近のホラーに見られる"考察"という人気要素】

もう一つ、上に挙げた3作品に共通していることがある。
それが「考察する」という楽しみ方だ。

それぞれの作品をネットで調べると色々な考察を述べた記事が出てくる。どの作品も恐怖の輪郭は分かるが、その正体までは分からない。

分からないからこそ内容について調べて語りたくなる。そうした人を惹きつける魅力があるのだ。

例えば『フェイクドキュメンタリーQ』でよく考察されるのは「全てのエピソードは繋がりがある」という説だったりする。

自分も映画の考察なんかをするので分かるのだけど、断片的な情報から推測したりすること自体が楽しい。

そしてSNSで自分の考えを言い合っていくことで更に盛り上がっていく。
そうした楽しみも人気を後押しする理由の一つになっているのだと思う。

話を元に戻すと、今回紹介した『コワい話は≠くだけで。』もそうした系譜に連なる作品だと思っています。

この漫画、実は上に挙げた作品の1つと共通点がある。
それが原作者である梨さんの存在。
梨さんは『コワい話は≠くだけで』の原作者でもあるが、実は『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』の構成作家の1人として関わっている。

なので自ずと作品のテイストも似ている。

※梨さんはnoteもやっていてホラー記事を定期的に挙げてらっしゃるので、気になる方はこちらもチェックしてみてはどうでしょう。

実際、既に1巻の終わりでそうした謎に対する片鱗 へんりんが出てきているので(恐らく全てが繋がっているかと思われる)、これからより考察の勢いも加速していくんじゃないでしょうか。

個人的にこの漫画は、より注目されていく作品になると思っています。
少なくとも上の3作品のいずれかを好きな人ならハマると思うので、是非チェックしてみて下さい。

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