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【演技と本当の境界線はどこに】映画『アルプス』感想

2024年に最初に観た映画が本作の『アルプス』
ただ、最初に観たといっても劇場ではなく配信サービスの『JAIHO』で鑑賞しました。

監督は1月26日に最新作『哀れなるものたち』の公開が控えてるギリシャの奇才ヨルゴス・ランティモス。『ロブスター』、『女王陛下のお気に入り』などの作品で知られているが、今作は長編3作目にあたる。
なお本作はベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞も受賞している。

2011年製作/93分/ギリシャ・フランス・カナダ・アメリカ合作

今回改めて思ったが、やはりランティモス監督は初期作品ほどシュールさ加減が凄い。
『女王陛下のお気に入り』を観てから『籠の中の乙女』を観ると、本当に見やすくなっているんだなと感じる。

上『女王陛下のお気に入り』(2019) 下『籠の中の乙女』(2012)

ランティモス作品に共通しているのが「奇抜な設定」。

「結婚できない男女は動物にされる」とか「呪いを回避するために家族の誰かを生贄にしなければならない」など、これまでの作品も奇抜な設定が面白かったけど、今作は「今回は親しい人を失った人のためにその人の代役を演じる」グループが題材となっている(タイトルにもなっている「アルプス」とはそのグループ名でもある)。

こういう設定だとハートフルな感動ものを連想しそうだが、そこはヨルゴス・ランティモス。どこか突き放したようなシュールな作品となっている。

代役を演じるグループも善意の行動という訳ではなく、しっかりお金を取ってるし(劇中の台詞を聞いてるとむしろそこがメインっぽい)、メンバー間のヒエラルキーもキツそう。

また、気まずい場面に居合わせたようないたたまれない気持ちになるのもランティモス作品ではよくある場面。

死んでしまった若い娘のために主人公が娘の代わりを演じる場面はシュールで観てられない。テニスウェアを着て父親と添い寝する場面は画的にもインパクトがあるし「これは良いのか…?」というギリギリなラインも突いてくる。

この映画、面白いところは観ている内に「今画面にいる人たちの関係性は本物か?それとも演じてるものか?」ということが分からなくなっていくといくところ。

主人公は父親と同居をしてるんだけど、中盤からは本当の父親なのか分からなくなってくる。

さらに後半からは、主人公は金儲けとしてだけじゃなく「役割を演じる」ことに呑まれていることも分かる。

どこまでが本当の感情でどこからが演じてる感情か?

この2つはコインの表裏にようにハッキリ分け隔てられたものではく、延長上にある曖昧なものなんじゃないだろうか。

そしてその曖昧な部分こそランティモスが描きたかったことなのかもしれない。最後の体操少女の表情は、まさにそれを表していると思うのだ。

思うにヨルゴス・ランティモスという人は奇妙な設定下においての人間の滑稽さを描くのが好きなんだと思う。そんな監督の最新作がどんなものになるのかも楽しみだ。


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