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シェイクスピアの記憶 その17

◾️お気に召すまま(2018)@彩の国さいたま芸術劇場小ホール 演出:河合祥一郎

我らが河合先生の演出。
いやー、何と言うか、実に河合先生らしい、研究者らしい舞台。原典に忠実に、言葉を大切に。正統派で奇を衒わず、純粋にシェイクスピアって面白い。
 張り出し舞台の割に、正面を意識した芝居だったり、少し安っぽい衣装だったりしたけれど、そんなのは瑣末なことだと思えるくらいに、楽しい気分にさせてくれた。

 ロザリンドに太田緑ロランス、オーランドーに玉置玲央、シーリアに山崎薫。三人がとても魅力的だ。
 ロザリンドは、長い手足に端正な男顔。お嬢様姿よりも、男装してからの方が生き生きとする。頭の回転も早くて、男をやり込めてしまう口の達者さも度胸もあるのに、オーランドーへの恋心で浮かれたり、悲しんだり、怒ったり。恋する女の子の可愛らしさが出ている。相手をからかってやろうと、自分からしかけたイタズラなのに、自分の方がそれに振り回されるようになっていくのがおもしろい。
 従兄弟のシーリアは、表情豊かにリアルな女の子を演じてくれた。姉妹のように恋人のように愛するロザリンドが、恋に落ちてしまい、浮かれて、自分はほったらかしにされる。その時のふてくされ具合。応援しつつも、冷静に突っ込んだり、意地悪を言ったり。今まで一心同体だと思っていた相手が、他の誰かに心を奪われてしまう。シーリアにしたら、面白くない出来事。それを隠さず、実にかわいらしく表現していた。さらに、恋するロザリンドを冷静に見ていた自分もまた、オリヴァーに出会って恋に落ちる。ロザリンドも顔負けくらいの勢いで。おそらく小さい時から、愛情深く、大切に、時に甘やかされて育てられてきたのであろう。天真爛漫でわがままで心優しいお嬢様。実にキュートだ。
 オーランドーは、細身ながら、強い体幹で動きが小気味よい。森のあちこちに詩を貼り付けて行く時は、物理的にも精神的にも1mくらい地面から浮き上がってるんじゃないかと思うくらいに、浮かれてアホ全開で跳ね回る。あぁ、若い恋ってこういうものなんだなぁと微笑ましい。ただ、正直いうと、演じている最中よりも、アフタートークで話している時の方が魅力的だと思った。作品や役柄に対する姿勢が真面目でストイック。シェィクスピアでは、我慢して抑圧した方がよいと思っていたという。自分で演出することもあるそうで、なるほど。他の出演作品も見てみたい。

 この日、アフタートークがあったせいか、河合先生が客席でニコニコとお芝居を観ていて、なんとも微笑ましかった。

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