弦理論入門①~古典弦~

 はじめまして。しもだです.
 今回はWathematicaのアドカレ企画の記事として弦理論について話します.
 この企画に向けて勉強したので初学です.


参考文献

底本は
[1]吉川圭二,「弦の量子論 超弦理論への道」,朝倉書店,1991
です.

前提知識

・特殊相対論(アインシュタインの縮約規則,ローレンツ変換,相対論的力学),
・解析力学(ラグランジアン,ハミルトン形式)
・量子力学(正準量子化,交換関係と生成子について)
がわかっていれば読めると思います.
相互作用を考えないので場の量子論は使いません.

概略

 前半では弦を古典的に扱い,運動方程式を導きます.
 後半では弦を量子化し,理論のローレンツ不変性を要請して次元が26次元になることを導出します.

1.古典弦

南部・後藤作用

 特殊相対論において,自由粒子の作用積分は

$${S=\int d\tau\sqrt{\dot{x}_{\mu}\dot{x}^{\mu}}, \dot{x}^{\mu}=\frac{dx^{\mu}}{d\tau}}$$

と表されます.
 粒子はこの$${S}$$が極小となるような世界線を描くわけですが,被積分関数をよく見ると,この$${S}$$はミンコフスキー空間における軌跡の"長さ"になっています。
 つまり,粒子を時空に放つと,粒子はその世界線が最短になるような運動をすると解釈できます.
 ここから,時空において弦を放つと,弦は弦が掃く世界面の"面積"が最小となるような運動をするのでは?と考えられます.
以下では$${D}$$次元時空で考えます(後に$${D=26}$$であることを導きます).ミンコフスキー計量は$${\eta=diag(-1,1,\cdots,1)}$$とします.弦の描く世界面上の時間方向(弦が進む方向)を$${\sigma^{0}}$$,弦が伸びる方向を$${\sigma^{1}}$$でパラメーターづけて座標を導入します.
 世界面上の点の$${D}$$次元時空間における座標を$${X^{\mu}(\sigma^{0},\sigma^{1})(\mu=0,1,\cdots,D-1)}$$とし

$${\dot{X^{\mu}}=\frac{dX^{\mu}}{d\sigma^{0}}}$$
$${X^{\mu'}=\frac{dX^{\mu}}{d\sigma^{1}}}$$

と略記します.
 「弦の描く世界面の面積が最小になるだろう」という考えに基づくと,弦の作用積分は

$${S_{NG}=-\frac{1}{2\pi\alpha'}\int d^{2}\sigma\sqrt{-[\dot{X}^{2}X'^{2}-(\dot{X}\cdot X')^2]}}$$

(ただし,$${V^{2}=V_{\mu}V^{\mu},V\cdot V'=V_{\mu}V'^{\mu}}$$のような略記をしており,この後も同様の記述をします)
と考えられます.この作用を南部・後藤作用といいます.$${\alpha'}$$は定数で,スロープパラメーターと呼びます.
 この作用は幾何学的な意味は明瞭ですが,平方根が入っており,扱いづらくなっています.
 そこで古典論の範囲では南部・後藤の作用に等価である,ポリヤコフ作用を導入します.

ポリヤコフ作用

世界面の計量テンソルを$${g_{ab}\quad(a,b=0,1)}$$で表します.$${(g_{ab})}$$の逆行列を$${(g^{ab})}$$で表せば,

$${g_{ac}g^{cb}=\delta_{a}^{b}}$$
$${g_{ab}=g_{ba}}$$

が成立します.また,

$${g=\det{(g_{ab})}}$$

と表します.
 この$${g_{ab}}$$を用いて,ポリヤコフ作用は以下のようにあらわされます.

$${S=-\frac{1}{4\pi\alpha'}\int d^{2}\sigma\sqrt{-g}g^{ab}\partial_{a}X^{\mu}\partial_{b}X^{\nu}\eta_{\mu\nu}}$$

$${S}$$を$${g_{ab}}$$について変分をとると,

$${\partial_{a}X^{\mu}\partial_{b}X^{\nu}=\frac{1}{2}g_{ab}g^{cd}\partial_{c}X^{\mu}\partial_{d}X^{\nu}}$$

を得ます.両辺を(a,b)に関して行列式をとれば,ポリヤコフ作用と南部・後藤作用の被積分関数が等しいことが分かります.したがって,この作用は南部・後藤作用と等価です.

 ポリヤコフ作用は

  1. ポアンカレ不変性(平行移動とローレンツ変換に対する不変性)

  2. $${\sigma}$$の座標変換に対する不変性

  3. ワイル変換不変性

の三つの不変性があります.
ワイル変換とは,計量を局所的に変える変換

$${g_{ab}(\sigma)\to g'_{ab}(\sigma)=\xi(\sigma)g_{ab}(\sigma)}$$

のことです.

これらの不変性から,まだ自由度が残っているのでいくつかのゲージを導入することができます.

共形ゲージ: $${g_{ab}(\sigma)=\xi(\sigma)\eta_{ab},(\eta_{ab})=\begin{pmatrix}-1 & 0\\0&1\end{pmatrix}}$$

このゲージによって,作用を$${g_{ab}}$$について変分して得た式

$${\partial_{a}X^{\mu}\partial_{b}X^{\nu}=\frac{1}{2}g_{ab}g^{cd}\partial_{c}X^{\mu}\partial_{d}X^{\nu}}$$

から

$${(\dot{X}\pm X')^{2}=0}$$
(ここでの二乗は,ミンコフスキー時空上のベクトルの内積の意味)

を得ます.また,作用積分は,

$${S=\int d^{2}\sigma \mathfrak{L}_{c},\quad \mathfrak{L}_{c}=\frac{1}{4\pi\alpha'}(\dot{X}^{2}-X'^{2})}$$

となります.これを$${X^{\mu}}$$について変分をとると,

$${\ddot{X^{\mu}}-X^{\mu''}=0}$$

という関係の成立が分かります.これは弦の運動方程式です.

さらに,

残留ゲージ:$${\partial_{0}f^{0}=\partial_{1}f^{1},\quad\partial_{0}f^{1}=\partial_{1}f^{0}}$$

となるような$${f^{a}(\sigma)}$$によって

$${\sigma\to\sigma'=f(\sigma)}$$

と座標変換をしても共形ゲージを導入して得た式

$${(\dot{X}\pm X')^{2}=0}$$
$${S=\frac{1}{4\pi\alpha'}\int d^{2}\sigma (\dot{X}^{2}-X'^{2})}$$
$${\ddot{X^{\mu}}-X^{\mu''}=0}$$

は形を変えず成立します.
 したがって,この自由度を利用して上にあげた関係式を満足する座標系をとれます.
 $${f^{a}}$$の関係式から,

$${\ddot{f^{a}}-f^{a''}=0}$$

すなわち,弦の運動方程式を満足することが分かるので,次のように$${X^{\mu}}$$と$${\sigma^{0}}$$を関係づけることができます.

光円錐ゲージ:$${X^{+}=\frac{1}{\sqrt{2}}(X^{0}+ X^{D-1})=x^{+}+2\pi\alpha'P^{+}\sigma^{0}}$$
($${x^{+}}$$は定数)

このゲージでは

$${X^{-}=\frac{1}{\sqrt{2}}(X^{0}-X^{D-1})}$$

とし,$${\pm}$$以外の成分$${X^{i}(i=1,\cdots,D-2)}$$を直交成分と呼びます.以下,直交成分の関係式を表す時,単に$${X}$$ではなく$${\bm{X}}$$と太字で表します.

正準形式

$${X^{\mu}}$$に共役な運動量$${P_{\mu}}$$は

$${P_{\mu}=\frac{\partial L_{c}}{\partial\dot{X^{\mu}}}=\frac{1}{2\pi\alpha'}\dot{X_{\mu}}}$$

となります.またハミルトニアンは

$${H=\int d\sigma^{1}[\dot{X}^{\mu}P_{\mu}-\mathfrak{L}_{c}]=\frac{1}{2}\int d\sigma^{1}(2\pi\alpha'P^{2}+\frac{1}{2\pi\alpha'}X'^{2})}$$

と求まります.

$${(\dot{X}\pm X')^{2}=0}$$

から,

$${P\cdot X'=0}$$
$${P^{2}+\frac{1}{(2\pi\alpha')^2}X'^{2}=0}$$

を得ます.この二つの式はヴィラソロ条件といいます.
光円錐ゲージで考えると

$${a_{\mu}b^{\mu}=-a^{+}b^{-}-a^{-}b^{+}+\bm{a}\cdot\bm{b}}$$
$${X^{+'}=0}$$

となることに注意すると,ヴィラソロ条件から,

$${X^{-'}=\frac{1}{P^{+}}\bm{P}\cdot\bm{X}}$$
$${P^{-}=\frac{1}{2P^{+}}[\bm{P}^{2}+\frac{1}{(2\pi\alpha')^2}\bm{X}'^{2}]}$$

と求まります.

 結局,解くべき運動方程式は

$${\bm{\ddot{X}}-\bm{X}''=0}$$

となります.

 弦には開弦と閉弦がありますが以下では開弦について考えます.すなわち,運動方程式に弦の開放端条件

$${X'|_{\sigma^{1}=0,\pi}=0}$$

を課します.
(閉弦の場合は周期的境界条件$${X(\sigma^{0},\sigma^{1})=X(\sigma^{0},\sigma^{1}+\pi)}$$を課します)

 次回はこの弦を量子化し,臨界次元が26次元であることを導出します.

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