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俺を太らせた魅力あるラーメン屋の店主

職場の近くにラーメン屋がオープンした。
2018年11月のことだ。
オープン数日後に行ってみた。
カウンターのみ10席ほど。
50代と思しきスリムな男性店主が一人でやっている。

もやしがたっぷり載ったラーメン。
サンマーメンのようなあんかけ風ではなく、豚骨で背脂をチャッチャとかける、いわゆる二郎系の太麺のラーメンだ。

嫌いではない。嫌いではないが、ちょっと豚骨のにおいが強く、その後しばらく行かなかった。

数ヶ月後、二度目に行った時はつけめんにした。
麺は平打ち麵になり、もやしはつけ汁のほうにたっぷりと入っている。つけ汁はラーメンのスープと同じだが、それほどにおいがなく、すっきりとした味になっていた。
「あれ?」と思って店主に「ラーメンと同じスープですよね?」と聞くと、「つけめんのスープは濃いから、ちょっと黒酢を入れてすっきりさせてるんですよ」とのこと。
なるほど。お店もいろいろ考えてるんだなあ。
それからは、行けばつけめんを注文し、店主と話すようになった。

ある日、朝10時ごろ、店主が開店前に店の前をほうきで掃いていた。しかも両隣4~5軒分もだ。
「ずいぶん遠くまで掃くんですね」
と声をかけると
「食べ終わった後、外で煙草を吸うお客さんがいるんですよ。だからこれぐらいはやらないと」
いい人だなあ。
自分の店の前は掃除できても、4~5軒も店から離れたところまではなかなかできるものではない。以来、人柄に惹かれてますます通うようになった。

どうもこの店主は人を惹きつける。ラーメンの味が味だけに、客層は若者が中心だが、たまに高齢の女性がやって来る。常連のようで、ラーメンを食べながら店主と世間話を楽しんでいる。もちろん、高齢者でもこってりしたラーメンを食べるだろう。でも、それだけではなさそうだ。量や濃さの好みを聞いて、その日の体調に合わせて作ってあげている様子。一人で切り盛りして忙しいだろうに、それでも手を抜かない。店主の人柄が高齢者をこの店に通わせるのだろう。

コロナ禍で飲食店が苦境に陥っている。このラーメン屋も閉店時間を早め、ビールを出せない。そのうえ、近くの大学がオンライン授業になり、それまで多かった客層の学生が来なくなってしまった。それでも定休日を設けず営業している。しかも店主一人で!なんでも豚骨は毎日火にかけないといけないので、休みにしても店に来ないとならないらしい。うわ、大変だ‥。店主いわく、「働き過ぎて女房に逃げられそうになった」。おいおい‥。まあ、「逃げられそう」であって、「逃げられなかった」のはやっぱり店主の人柄が魅力あるからだろうなあ。

さあ、来週もつけめんを食べに行こう。
店主も私もお互い競馬好き。土日の競馬の成果を翌月曜日に報告するのが、つけめんを食するのと同じくらい楽しみとなっている。


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