若者に言いたいことが多すぎる

今の子どもは大変だ。
英語をしゃべれない大人から「やはり4技能が大切!」とか言われ、ADSL時代からアップデートできていない大人から「これからの時代はプログラミング!」とか言われる。暑すぎである。あと、圧がありすぎである。

グローバル化と国際化は違う。人々の思考がある構造、端的に言うと言語によって規定されるとすれば、英語以外の考え方を学ぶにはそこの現地の言葉を学ぶしかない。これが国際化だ。そこにいる人を、まさにその人を、理解しようとする営み。グローバル化は逆に、世界を1つの方向にまとめようとする。英語、アメリカ式資本主義、民主主義…。まあ確かにまとまってる方が楽だけど、じゃあ若者に「若いうちは好きなことしろ」とか言うなよ。

若者は良しにつけ悪しきにつけ、選択肢が少ない。
選択肢が少ないから、迷わない。運良く選択肢が合っていたら、勢いで突き進める。運悪く選択肢が間違っていたら、わりと取り返しつかないところまで行く。

と、いうことを、『BAD BLOOD』を読んで思った。若者の勢いが悪い方に向いた時の事例だ。エンロン以来、シリコンバレー最大の捏造スキャンダルは、スタンフォード大学を中退し、ジョブズを心の師と仰ぐエリザベスと、謎の恋人サニーによっておこなわれた。

ジョブズも、現実歪曲フィールドを持っていた。普通は、巨大な現実に、自分の理想を合わせる。まあこんなもんか、と妥協していく。ジョブズは違った。理想に現実を合わせた。そうして革新的な製品が生まれていった。

エリザベスもまた、現実歪曲フィールドを持っていた。何が違った?まずは分野だ。彼女が理想とする世界は、指の先から1滴の血をとるだけで、様々な病気の血液検査ができる、というもの。医療分野は、地道で正統な教育と経験が必要である。ノーベル医学生理学賞の受賞者が軒並み60代以上なのはそういうわけで、ペニシリンを偶然に見つけられた時代とは違う。大学を中退し基礎を疎かにした者に何かが成せる分野ではない。

と、いうことで、彼女は現実を歪曲した。嘘をついた。できないものをできると言い続けた。

当然、齟齬が出る。彼女が言うことと異なるファクトがばっちり出てくる。もういつ死んでもおかしくないような血液検査の結果が元気な人々から出てきたり、さらに悪いことには重大な病気の人からその兆候が見逃される。

んで、問題の二つ目。
彼女の希望に魅せられた、グローバル化=同質化、のトップ層、白人高齢男性たち。決定権を持つ彼らは、現場からファクトを持って異議を唱える担当者たちを信じない。「こんな立派な女性起業家を何故じゃまするのか」と苛立っている。しかもエリザベスはそうして騙した投資家から集めた資金を利用し、世界最高の弁護士軍団を雇って反対者を破産に追い込んでいく。

会社のナンバー2でありエリザベスの恋人であるサニーは、極端な猜疑心とほとばしる傲慢でもって、社内を支配した。分断と秘密主義。シリコンバレーのユニコーン企業はすべからく秘密主義であったという隠れ蓑でもって。

倫理観。

世界観は、強い世界観は、彼女たちは持っていた。
それは白人高齢男性にとってもあって欲しい、希望だった。

結局、彼女たちを止めたのは告発者の勇気と信念あるジャーナリズムと規制当局の業務停止命令だった。
そこに、彼女たちの倫理観はなくて、倫理観がないってことはある種無敵状態であって、そうなってくると現実歪曲フィールドを持つ人を止めるって困難だよね。だって、「患者の命」が軽いんだもん、彼女らにとって。

若者は好きなことして良いけど、倫理観はどっかで身につけて欲しい。

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