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お茶を「出す?」「出さない?」(小説・第4回)

こんにちは、Shimizu_Tです。

今日は、超短編小説の第4回目です。
これまでと同じように、小説なのでフィクションです。実在するSさんとは全く関係ありません。(今回の文字数は、約1,300文字です。)


静岡支店に勤務することとなった男は、取引先などへ挨拶に回っていた。
挨拶と言っても、支店の規模が小さく、取引先の数もそれほど多くはないので、2日ほどでほとんどの取引先への挨拶を済ますことができた。

挨拶回りを一通り終えた男は、ある事に気が付いたので、支店の部下である課長に聞いてみた。

「挨拶に行くと、お茶を出してくれるところが多かったけど、今どき珍しいね。」

すると、課長はこう答えた。

「えっ?珍しいですか?」

課長が、あまりにも驚いた様子だったので、男はそう思った理由を説明してみた。

「韓国に行く前に住んでいた地域(C地方)ではね、お客さんにお茶を出すっていう習慣が殆ど無かったんだよ。」「その理由がね、『お茶を出すために雇っている人はいないから』『今どき、お茶くみなんてさせてる暇はないし、その分働いてもらったほうが良い』というんだ。」「だから、最近はどこでもこんな考えが浸透していて、お茶を出すことが無くなってきたのかなと思っていたんだ。」

「それはどうでしょう。他の地域でどうなっているかを全て知っているわけではありませんが、お客様にはお茶を出すことが多いと思いますよ。」「特に静岡はお茶処ですから、出すことが当たり前だと思います。」「お茶を出さないということは、『あなたには来てほしくない=招かれざる人物だ』と言っているようなもんじゃないでしょうか?」

「そうか、なるほどね。」「これまでは、私もそう思っていたんだ。でも、以前住んでいたC地方では、お茶が出ないことが当たり前だったので、最近ではどこでもそうなのかと思ったんだ。」

男がそれまでに身に付けたビジネスマナーでは、「よほどのことがない限り、来客にお茶を提供するのが当たり前」と思っていた。
もちろん、お茶汲み・お茶出しを女性だけに押し付けるのは良くないので、手が空いている者が担うべきと思っている。

しかし、C地方で、ほとんどお茶を頂く機会がなかった男は、「もしかして、C地方では、自分はことごとく嫌われていたのだろうか?」「だから、自分はC地方から、急に転勤させられたのだろうか?」「でも、そんな理由で海外に転勤させられるものだろうか?」

男は、細かいことでも気になると、自分で勝手に妄想に近い世界へ入り込む癖がある。
韓国に転勤になった理由は、もちろん、そんな理由ではないが、いったん思い込んでしまうと、それが正解だろうと、自分で勝手に決めつけてしまう。

C地方で男と一緒に暮らしていた女は、男のそんな「思い込み癖」「妄想癖」が煩わしくて、韓国にも静岡にも付いて行かないと決めたのだが、男は1人での生活を苦にしないこともあって、別の理由で女が一緒に行かないと決めたと思っていた。
いや、思い込んでいた、というのが正しいのかもしれない。


ここ迄お読み頂き、ありがとうございます。
いつものように、締めくくりはこの言葉で。

 「毎日が、心穏やかに過ぎますように」

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