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【エスパルス】2022年J1第31節 vs磐田(H)【Review】

3年ぶりに日本平で行われた静岡ダービーは、残留争いを巡る両チームが置かれた状況や、台風被害による試合順延など複数の要素が重なり、過去の歴史の中でも重要な意味を持つ戦いとなりました。

そんな中で、ピッチ内ではどんなことが起きていたのか。今回も端的に振り返ります。

1.スタメン

エスパルスは、前節・川崎戦から原→片山の変更のみ。

磐田は、大金星をあげた前節・横浜FM戦からメンバー変更はなし。

2.スタッツ

シュート数やゴール期待値ではエスパルスが上回ったものの、パス本数やボール保持では磐田に水をあけられるなど、双方にとって苦しい戦いだったことがスタッツからも読み取れます。

3.試合の流れ

(1)前半(ボール保持時)

エスパルスのビルドアップは、自陣に左SB(山原)を残し、右SB(片山)が高い位置を取る形が中心。
この陣形の狙いは、サイドに作り出すスペース(下図の赤い部分)を狙うこで下記2点を実現すること。

①中山のスピード(質的優位)を利用した右サイドの攻略
②左サイドに作るスペースを活用した、ビルドアップの出口の創出

序盤は、5-4-1で構える磐田の守備隊形に対して、狙い通りの試合運びができていたように感じます。

先制点となったコーナーキックは、白崎がニアに走り込み、フリックしたボールをファーで再び折り返す、見事にデザインされたゴールでしたが、このCKをもたらしたのは、上図の赤丸の箇所でボールを受けた北川と、中山のスピードを活かした仕掛け。
2つの意味で、狙い通りのプレーだったことがわかります。

相手を敵陣に押し込んだときは、ここ数試合と同じように、白崎が右SBの位置に下りてボールの前進をサポート。サイドの選手は、ハーフスペースと大外レーンを被らないように使い分け、ローテーションしながら最終ラインの背後への攻略を目指します(下図)。

(2)ボール非保持時(清水の泣きどころ)

一方の磐田。序盤はある程度ボール保持を放棄し、自陣でマイボールになった場合は、シンプルに前線へロングボールを蹴りこんできます(下図)。

ターゲットは、身長の低い松岡・山原がいるエスパルスから見て左サイド。マッチアップで優位に立てるサイドを基点にボールの前進を試み、セカンドボールを回収しては素早くゴール前にクロスを上げてゴールに迫ります。

ゲームが落ち着き、ボールが保持できる状況になると、磐田はシステムの嚙み合わせ上フリーになりやすいWBを活用し、エスパルスの泣きどころであるCB-SB間を狙ってきます。
エスパルスの守備は人につく傾向が強いため、磐田のWBにボールが回るとSBが前に出てきますが、磐田はすかさずCHやSHがSB裏(下図の赤い箇所)に流れて基点をつくり、人数をかけて攻め切ることを狙います。

エスパルスはサイドの奥に基点を作られると、CBがそちらに引き出され、そのカバーとしてCHが最終ラインに吸収される現象が起こります。
この現象の厄介な点は、SHがきちんと自陣に戻らないと、バイタルエリアをもう1枚のCHが1人でカバーすることを余儀なくされること(下図)。

上述の現象は、再現性を伴い何度も発生しましたが、それでも前半は、やるべきことを遂行したエスパルスが貴重なリードを危なげなく守り切り、1-0で終了します。
構造上の弱みを愚直に突いてくる、磐田のスカウティングの綿密さと組織としての練度を感じました。

(3)後半

エスパルスは追加点を狙いつつ失点のリスクを避けるため、プレッシングに手を加えてきました。両SHが磐田のCB→WBへのパスコースを切りながら(外切りのプレス)、前半よりも高い位置からプレッシングを試みます。

しかし、磐田は後半の入りから、ボール保持時に右CBをSBの位置に上げる後方4枚でのビルドアップに変更していました(下図)。
これにより、エスパルスのプレッシングはやや空回りし、磐田にボールを持たれる時間が次第に長くなっていきます。

また、エスパルスは前半と同様の現象(SB裏のスペースを突かれること)を防ぐため、途中から相手WBにSHがスライドして対応する形に変更(下図)。
この対応で、SB裏のスペースを突かれる脅威は減ったものの、エスパルスの陣形が全体的に後ろに重くなり、攻撃のチャンスもロングカウンターに傾倒していきます。

58分、磐田は山田→ジャーメイン、金子→大津の2枚替えを敢行。
エスパルスが磐田の4枚でのビルドアップに対応できていない様子を見て、ボール保持に目途が立ったとみて、よりゴールに迫れる選手を投入する意図だと思われます。

さらに、磐田は飲水タイム直前の67分、畳みかけるように松本→松原、上原→遠藤を投入。ボールを握ってチャンスを作り出す方向へ明確にシフトします(下図)。
第3節・アウェー磐田戦のレビューで、遠藤のネガティブトランジションの不安に触れましたが、安定してボールを保持できている状況であれば問題は表面化しません。

一方のエスパルスは72分、痛んだ(?)中山に代えて、ヤゴ・ピカチュウを投入。
試合終盤にも片山の足がつって原との交代を余儀なくされますが、1点リードしていて試合をクローズしていきたい状況で、アクシデントによる交代はゼ・リカルド監督も本意ではなかったはず。

ここで中山のスピードを活かした相手ディフェンスライン背後の活用という選択肢を失ったエスパルスは、ますます自陣でのサッカーを強いられることになります。

79分、最終ラインを突破するため前線の圧力を強めたい磐田は、前節・Fマリノス戦の勝利の立役者となった古川を投入。
キレのあるドリブルを持つ古川が左サイドに入り、松原が積極的にオーバーラップを仕掛けることで、引きずられるようにピカチュウがSB化。
また、大津や遠藤が代わるがわるバイタルエリアに侵入してくることで、松岡も最終ラインに張り付く形に(下図)。
磐田のボールホルダーにプレッシャーがかからず、ビルドアップを規制できない状況が続きます。

苦しい状況の中、81分、エスパルスは北川に代えてコロリを投入。コロリ投入の意図として考えられるのは、前線でタメを作る役割。
北川の献身的なチェイシングからは、静岡ダービーに対する意気込みが十二分に感じられましたが、この時間帯では前向きなプレス自体が難しくなっていたため、ボールを奪い返した際の時間づくりを図ります。
ここまでの試合の流れや疲労度、ベンチ入りしている交代カードを勘案すれば、妥当な交代だと思います。

しかし、状況は好転せず。ボールを奪い返しても、疲労しているサンタナやコロリが単独でボールを収めるのは難しく、後方からの押し上げを待つ時間的な猶予を作ることは叶いませんでした。

この後、杉本と白崎との小競り合いや磐田ベンチへの警告などがあり、ピッチ内が落ち着きを失う中で、92分に悪夢の同点ゴールを許すことになりますが…

失点シーンは、皆さんが指摘しているように、エスパルスの選手が(なぜか)セルフジャッジをして足を止めてしまったのがすべてだと思います。
VARも存在する中で、どこに選手がプレーを止める要素があったのか、自分には全くわかりません。

その後も、終了間際にはサイドを完璧に破られ、古川にフリーでのシュートを許したり、サンタナのバーに当たるシュートがあったりと、混沌さが増しましたが、結果的には1-1で終了。
試合内容を冷静に眺めると、引き分けでも御の字と言わざるを得ないでしょう。


今のエスパルスの戦い方は、自陣でボールを回すことで相手をおびき出してフィールドにスペースを作った上で、その場所にボールを運び、前線の選手の質を活かして、一直線にゴールへ迫るもの。
後半は、エスパルスが狙い通りにボールを回し、スペースを作り、ボールを運んでシュートに持ち込んだ場面はなかったはずです。

得点を奪うために、速い攻撃の方が効率が良いのはわかります。ただし、得点を奪うための手段と、試合に勝つ方法は似て非なるもの。最後の最後までゴールを目指すことが、チームの最適解になり得ないこともあります。
また、リードを保ったまま、試合を上手にクローズするためには、主体的にボールを握って時間を使う戦い方が不可欠です。それは自チームの疲労軽減(最後の最後に力を残すこと)にもつながります。
そうした場面を想定した、ピッチ内外の準備は十分だったと言えるのでしょうか。

ボール保持が叶わないのであれば、ペナルティエリアに入れさせない、ゴール前の「際」で跳ね返す、そのためのベンチの人選や戦い方もあり得ます。そんな選択肢はなかったのでしょうか。

4.所感

アディショナルタイムに失点を繰り返すエスパルス。ATに失点した試合は8試合にのぼり、合計で11もの勝ち点を失ったそうです。

直近にあった同様の試合を振り返ってみると、最終盤にウェリントンのゴールで追いつかれた湘南戦も、リードしながら再逆転を許した前節・川崎戦も、相手が前線の選手や布陣を変更して対応すべき状況が変化しているにも関わらず、相手の狙いに合わせて戦い方をアレンジする術を持ち合わせていなかったこと、つまりチームとして準備すべき「二の矢」「三の矢」がないことが、勝ち点を失った要因でした。

スタッフを含め、誰もが死力を尽くして目の前の1試合1試合に向けて準備し、試合終了の笛が鳴るまで選手たちが走り抜いているのは、サポーターの私たちが1番知っています。
そして、ゼ・リカルド監督の戦術は、彼の指導者としてのキャリアやコーチ陣の力に、今いる選手の特徴や戦術理解度を加味して、極めて現実的に組み立てられたものだと理解しています。

この試合も、先制点を取るまでの準備や、それを遂行する選手たちの動きは見事でした。それでも、前述のとおり、相手の交代策および陣形の変化に対して用兵や戦い方を変えて主導権を握ることができず、前半30分以降は終始ボール支配率が終始40%を下回る状況でした。

失点シーンのように選手が足を止めてしまう背景には、選手の意識、体力、集中力、メンタルコンディションなどさまざまな要因があり、とくに精神的な部分は外部からうかがい知る術もありませんが、少なくともチームとして終盤まで足が動く状況が維持できていたとは言えないのではないでしょうか。

ここ数試合、個々の頑張りだけでは乗り越えられない「弱さ」が表面化しています。それは、リードを奪った状況でのゲームマネジメントであり、マネジメントを可能にする選手編成であり、一貫性のある強化方針に基づいた個人・チーム戦術の積み上げの欠如であり、特定の人物に責任をなすりつけられる類のものではない、クラブ全体を取り巻く問題です。

現時点で誰かの責任を追及するのは無意味だし、ここまで来たら信じて見守ることしかできませんが、シーズンが終わった暁には、これまでの道のりとこれから歩むチームの方向性がきちんと検証され、私たちに示されることを期待します。

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