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【エスパルス】2023年J2第31節 vs町田(H)【Review】

首位・町田を相手に、エスパルスサポーター冥利に尽きる大逆転勝利。
とくに後半の、ほぼ満員のスタジアムが作り出した雰囲気は格別で、その場にいたサポーターの勝利を願う想いが選手に乗り移ったと思わずにはいられませんでした。

秋葉監督が思わず「This is , This is … This is Football!!!」と叫ぶほど、エンターテイメントとしては見どころ満載のエモーショナルな試合だったのは間違いありませんが、幸運も重なった紙一重の勝利だったのも事実。
今一度「フットボール」の内容を振り返ってみます。

1.スタメン

2.スタッツ

3.試合の流れ

(1)前半

試合の序盤は町田のペース。エスパルスは前半早々に失点したうえに、ボールがうまくつながらず、追加点を喫する嫌な流れ。ファウルや小競り合いで度々プレーが止まり、立て続けにイエローカードが出て殺伐としたスタジアムの雰囲気も相まって、選手たちも浮足立つ様子が伺えました。
このときピッチでは、何が起きていたのでしょうか。

町田は縦横にコンパクトな守備陣形を保ってボールをサイドに誘導しながら、ピッチ中央ではタイトな寄せでエスパルスのミスを誘い、奪ったボールを素早く前線(藤尾・エリキ)に送り込んでカウンターを狙います。

また、1つ1つのセットプレーにじっくり時間をかけたり、自陣からのロングボールやクロスでは身長の低い山原のところを執拗に狙うなど、とにかく自分たちの土俵でゲームを進めようと様々な手を打ってきます。

複数の打ち手の中でも特徴的な、敵陣深くでのロングスローを用いた攻撃はエスパルスも織り込み済みだった一方で、前半3分の失点シーンはエリキがスローインをクイックに始めてその裏をかき、ファーサイドへのクロスのこぼれ球を押し込まれてしまいました。
エスパルスの選手たちが集中を欠いたのは否めませんでしたが、このあたりのプレー選択には試合巧者ぶりを感じました。

さて、町田の非保持局面での振る舞いを見ると、エスパルスのGKにはプレスに行かず、パスが出たところでリターンのコースを切りながら狭いサイドに押し込み、ロングボールを蹴らせるよう仕向けていました(下図)。セカンドボールへの反応も速く、コンセプトが徹底されているのを感じました。

こうしたプレスの傾向を感じ取った権田は、前半10分過ぎから原を高い位置に上げて直接ボールを送り込みますが、このパターンも想定済だった様子で、奥山がタイトに対応。原が競り勝てれば良いのですが、跳ね返されてしまうとエリキに渡って一転してピンチを招く場面もありました(下図)。

最終ラインでボールを動かせないエスパルスは、次第に中盤の選手が頻繁に下りてくるようになり、いわゆる「後ろが重い」状態に(下図)。
サンタナとの距離が遠くならないよう中央に寄る前線の選手は、相手のプレッシャーを背後に受けてプレーする機会が多いうえ、そこにボールを届ける過程で中央を締めて守る相手にボールを引っ掛けてしまう場面が頻発するなど、この日もビルドアップの出口設計には苦労していました。

つまり、乾や白崎がボールの出し手となり、針の穴を通すように正確なパスを出さなければ前進できない弱みを的確に咎められたといえます。

前半に一度、白崎がサイドに開いてボールを受けて前進する場面がありましたが、町田がコンパクトな守備陣形を志向する逆手を取って、サイドから縦に前進する手段も有効だったと思います。

苦しい時間が続くエスパルスは、前半22分、相手のスローインからの流れをハッキリと切れず、大きなサイドチェンジから1対1の仕掛けを許し、グラウンダーのクロスを押し込まれる形で2失点目を喫します。

飲水タイムを経ても、試合の構造は大きな変化がないまま進みますが、試合の流れを変える転機となったのはエリキの負傷交代。試合後のコメントで黒田監督が言及しているように、ここでカードを1枚切らざるを得ないこと、貴重な前線でのボールの収めどころを失うことは、町田にとって大きな痛手だったはず。
事実、その後の乾を巡るいざこざから、スタジアムの怒りの雰囲気にも押される形で、徐々にエスパルスがペースを握る時間が長くなります。

そして、冷静さを取り戻した乾から始まった、町田のお株を奪うようなFKのリスタートからカルリーニョスが押し込んだ意地のゴールは、後半の怒涛の反撃を予感させるものになりました。

(2)後半

後半の冒頭から、エスパルスは恒例となった3バック(3ー4-2-1)へのシステム変更を実施。ここ数試合とは異なるビハインドの状況もあり、早速中山に代えて、同じくスピードに優れ神出鬼没な動きと運動量で前線をかき回せる北爪を投入します。

システムの嚙み合わせは下図のとおり。ボール非保持時に1人1人が対峙するマーカーが明確になったのがわかります。

ボール保持時を示したのが下図。
エスパルスの左右のCBがボールを持った際、前半と同じように町田のSHがプレスをかけると、エスパルスは町田のSBを囮にして相手の最終ラインの背後を取ることができます(1枚目)。
CBが持ち場を離れてサイドにつり出されるのを嫌う町田は、SHがポジションを下げてエスパルスのWBをケアせざるを得なくなり、原が自分でボールを運ぶ時間と空間が生まれます(2枚目)。

GIFアニメ(計2枚、3秒ごと切替)

システムの嚙み合わせの変化によって原が攻撃参加しやすくなったことが、逆転ゴールの布石となりますが、その前に2得点目を振り返ってみます。

【2得点目のシーン(乾)】

システムの変化により、エスパルスはCBがボールを運びやすい状況となったものの、左サイドでは鈴木が運ばず、乾がボールを受けに下りてきます。
2得点目はまさにこの形で、ボールが乾に渡ったところから(下図)。

GIFアニメ(計2枚、3秒ごと切替)

乾はボールを受けると鋭くターンして前を向きますが、背後から迫った宇野はファウルを恐れて(前半からこのパターンでイエローカードが出ていた)乾のドリブルを止めることができません。
これであっさり相手の中盤の守備ラインを突破すると、乾が顔を上げながらドリブルをするため、それに呼応して背後を狙うサンタナやカルリーニョスを警戒して町田の最終ラインが下がり、乾の目の前にはゴールに迫ってくださいと言わんばかりの広大なスペースが。

そして「シュートを打たないと何も起こらない」とよく言われますが、このボールには何か強い想いが乗り移っていたのではないかと本気で思います。

同点に追いつかれた町田は、後半19分、即座に黒田監督が修正に動きます。
選手交代と同時に3バックに変更し、ボール非保持時の形を噛み合わせに来ました(下図)。
前線の選手がエスパルスの左右のCBにプレスをかけやすくするとともに、乾の自由を奪うのが狙いです。

ただ、この日は秋葉監督も迅速な対応を見せます。
後半25分の飲水タイム明け、白崎に代えてオ セフンを投入すると、ホナウドが1アンカー気味となり、サンタナとオ セフンが2トップを組む「3-1-4-2」にシフト(下図)。

前線の圧力を強めることで町田のプレッシングラインを全体的に押し下げ、
再び左右のCBが攻撃に参加しやすい状況を作りだし、徐々に相手を押し込んでいきます。

後半35分、運動量が落ちてきた乾・カルリーニョスを西澤・宮本と交代。
宮本は中盤のスペースを忠実に埋め、西澤はバランスを取りながら機を見て積極的に前線に飛び出していきます。この交代から、あの決勝ゴールが生まれることになろうとは…(下図)。

完璧なアーリークロスが入る直前、西澤がフリーでボールを持つことができたのは、彼自身が相手SB裏へのスプリントを仕掛けたから。
そして、サイドにいる西澤を見て中央に切り込んでいった北爪や、高い位置でボールに絡んだ原の、1人1人のゴールに向かう前向きな姿勢と行動が、スタジアムに歓喜をもたらしました。

リードしてからもボールの出し手にしっかりプレッシャーをかけて、決して受け身に回ることなく勝ち切ったエスパルス。
ラストプレーは決めてほしかったところですが、次節以降の奮起に期待したいものです。

4.所感

改めて今節を振り返ってみると、2点を先行されて町田のペースにのまれていた様子を考えると、エリキという相手のキーマンが退いたこと、また前半のうちに1点を返せたことが本当に大きかったと思います。
そして、後半の先手を打った選手交代、とくに黒田監督が修正を加えた後の采配がチームに再び勢いをもたらしたのも、盤面から読み取れました。
監督がシステムに関して細かな指示は出しているわけではないと思いますが、選手の特徴を活かした戦い方がガッチリと嵌まる結果となりました。

また、出番に恵まれない選手がアシストという形で結果を残したのも、チーム力がさらに上がる良い兆し。ゴールを決められなかったり、ベンチ外だったりした選手も、次節以降はその悔しさを勝利への意思に昇華してくれるはずです。

これでなんとか優勝争いにも踏みとどまり、後は勝ち続けて頂点を目指すだけ。この日のスタジアムの雰囲気はそうそう作れるものではありませんが、首位のチームを撃破したという事実が、今後も選手たちに力を与えてくれると思います。


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