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【エスパルス】2023年J2第30節 vs山口(H)【Review】

前回に書いたのが第8節だったので、実に4カ月ぶりのレビューです。
書こうと思ったきっかけは、フリーランスでサッカー関連のライターをされている ひぐらしひなつ さんのツイート。

秋葉監督になってから、自分自身の忙しさもあり試合の振り返りをしていなかったのですが、内容が良くないながらも直近2戦で1-0の勝利を積み重ねているエスパルスを改めてしっかり観察し、ポジティブな材料を見つけてみたいと思いました。

今回もあくまで自分の見方で恐縮ですが、見えたことを書いていきます。

1.スタメン

2.スタッツ

3.試合の流れ

(1)前半

この試合、最初のシュートはエスパルス。
前半開始直後(00:45~)、相手スローインからの流れで中山がうまくボールを奪い、素早い攻守の切り替えから裏へ抜け出したサンタナへ乾がスルーパス、シュートを演出しました。これは相手GKに防がれますが、このシーンは秋葉監督が日頃コメントしている「圧力をかける」「ゴールに向かう」という指針とも重なります。

その後も、相手を敵陣に押し込んで立て続けにセットプレーを獲得し、CKから高橋があわやゴールというヘディングシュートを放つなど(02:28)、上々の入りを見せます。
また、第6節・群馬戦(3/29)以来、実に4か月半ぶりのスタメン起用となった山原も、周囲との連携は途上ながらも、相手のプレッシャーをかわしてドリブルで持ち上がるプレーや、鋭い縦パス、ダイナミックなオーバーラップなど、随所に本来の持ち味を発揮。攻撃のアクセントとして大きな存在であることを見せつけました。

そして、試合が落ち着くと、徐々にお互いの狙いが見えてきます。

①山口の狙い(ボール保持)

山口は、ボランチでゲームの舵取り役を担う印象があった矢島を右WBに起用。この意図を察するには、反対側の左WB・田中に高い位置を取らせて、エスパルスから見て右サイドの裏を徹底的に突くこと(下図)。

山口は、最終ラインや中盤の選手がボールを持つと、前線の選手が裏抜けのアクションを繰り返し、後方からのパスを呼び込みます。
矢島の右サイド起用は、エスパルスの守備陣をそちら側に寄せたとき、簡単にボールを失わない安定したポゼッションの実現と、サイドチェンジから敵陣になだれ込んで一気呵成にゴールを狙うことを企図したものと思われます(下図)。

現地ではエスナイデル監督の指笛がたびたび聞こえましたが、それを合図にサイドチェンジをする場面なども見られ(07:58)、その直後にも同じ形から仕掛けの形を作るなど(08:15)、とにかくこのスペースを見るよう意識づけられていたことがわかります。

山口のこうした狙いに対しては、CBもこなせる守備能力の高さを持つ右SBの原が粘り強く対応。このマッチアップは、エスナイデル監督も予想以上に分が悪いと感じたのではないでしょうか。
また、最終ラインからのロングボールも、高橋が空中戦の強さを発揮して五分以上の競り合いに持ち込み、決定的な場面は作らせません。
(※それが後半の戦い方の変化につながった可能性も…)

ただし、エスパルスは相変わらず中盤の選手が持ち場を離れてボールを奪いに行き、取り切れなかった際にこの形からピンチを招く場面もあり(下図)、個の能力に依存した守備の危うさも感じさせました。

②エスパルスの狙い(山口のボール非保持)

一方のエスパルス。ボールの前進にこれといったルートはなく、個々人もしくは小さなグループで目の前の相手を剥がしていくスタイルに変わりはありませんが、相手の陣形に応じた工夫は見られました。

一例が下図。エスパルスのGKの場面、山口は最終ラインの数的同数を受け入れて、フィールドプレーヤー全員がマンマークにつきます。
これを利用し、ショートパスから始めることが多い権田も、この日はサンタナを目がけてダイレクトに放り込む形を多用しました。そして、両脇のカルリーニョスと中山がセカンドボールを回収し、直線的にゴールへ迫ります。

このサンタナとヘナンとの複数回のマッチアップが、後半の得点(後述)につながったとも感じます。

ミドルゾーンでは、山口はサイドの選手を1列上げて、守備者の近くに来る選手を掴まえる形で圧力を強めてきます(下図)。
これに対し、エスパルスは選手が流動的に動いてチャンスを演出。カルリーニョスがピッチをドリブルで横断して、乾とのパス交換からゴールに迫ったシーン(22:15~)などは、その典型といえるでしょう。

また、アタッキングサードでは、5-3のブロックを作る山口(下図)。
エスパルスは縦パスをスイッチにしたワンツーでの侵入や、山原によるハーフスペースへのインナーラップ、原の攻撃参加などで人数をかけて攻撃しますが、少ないタッチのパスでブロックを崩す難易度は高く、ゴールに迫れないまま、前半終了にかけてゲームは膠着状態に。

【ピックアップ】自陣でのパスミスによる被決定機(39:33~)

そんな最中に、エスパルスは大ピンチを迎えます。ホナウドのパスミスが契機でしたが、このとき何が起きていたのか図示してみました(下図)。

GIFアニメ(計4枚、3秒ごと切替)

まず、ボールを持つホナウドに寄ってきた白崎との短いパス交換が、相手(池上)のプレスを呼び込んでしまっています。
白崎の意図は不明ですが、この場面では彼が敵陣側に数メートル移動して池上をピン留めし、ホナウドがドリブルでボールを運ぶスペースを作ることもできたでしょう。

また、ホナウドには2度、パスを出すチャンスがありました。

①左サイドに下りてきた山原への横パス(上図2枚目)
②中盤前方に位置する原への斜めのパス(上図3枚目)

いずれのケースも、ホナウドはサポートに来た味方の選手を認知している様子が伺えますが、同時にその背後に迫る相手の選手も目に入ったのでしょう。最終的には、しつこくまとわりつく池上に根負けする形で、苦し紛れに高橋に出した横パスをカットされてしまいました。

ここは鈴木義宜の神がかり的な危機察知能力とカバーリングに救われますが、ホナウドの判断もさることながら、味方がサポートに入る際のちょっとした立ち位置が相手のプレー判断にどんな影響を与えるか、学びの多いシーンとなりました。

(2)後半

エスパルスは、前半リードしながら追いつかれた千葉戦以来、常套手段となりつつある4バックから3バックへのシステム変更を実施。
これにより、山口の前線3枚(相手FW2枚+左WB)に対し、エスパルスは最終ラインに5枚が貼りつく後ろに重い形となった上に、前線からプレスに行くと中盤が数的不利に陥ることに(下図)。

一見すると、システムの噛み合わせとしては不利なはず。前半0-0で推移したにも関わらず、なぜ元々は逃げ切りの戦略として導入したこの形にシフトしたのか、読み取るのが難しいのですが…

エスパルスにとって救いだったのは、山口が前半のようにサイド奥への長いボールを多用せず、ショートパスで前進するビルドアップを志向したことで、中盤でボールを引っ掛けてカウンターを仕掛ける場面が増えたこと。
後半にかけて疲労とともにオープンな展開になるのは自然なことですが、この地上戦に切り替わる傾向を事前にスカウティングしていたとなれば、分析の勝利ということになります。

また、後半の山口は、池上が前半よりも比較的トップに近い位置で縦横無尽に動いてボールを引き出す役割を担っていましたが、結果的にこれがちょうど山口の陣形(ライン間)にエアポケットを作り、エスパルスで最も危険な選手である乾のまわりに広大なスペースを創り出すとともに、山口の最終ラインにギャップを生むことに(下図)。

この乾の立ち位置こそが、決勝点の伏線となるとは想像できませんでした。

【ピックアップ】エスパルスの得点シーン(78:36~)

得点は、CKの跳ね返りをマイボールにして自陣に戻したところから。
山口もメンバーが代わっていますが、前述の配置は変わっておらず、これによって乾が構造上フリーになり、プレッシャーをかけにきた相手CBの裏にギャップができています(下図)。

オ セフンのゴールへ向かう素晴らしい動き出し(いわゆるプルアウェイ)とカルリーニョスの献身がもたらした美しいゴールでしたが、この場所で乾が得た時間とスペースが糸を引くようなスルーパスを生んだのも、映像を見るとよくわかります。
総じてみると、このゴールにはシステム変更も含めた両チームの意図が影響を及ぼしており、今回はそれがエスパルスに味方したといえそうです。

得点後にラインが下がる時間もあり、危うさを孕みながらも、終盤はパスを回してゲームを落ち着かせる時間もあるなど、チームの地力で上回るところを見せつけたエスパルス。

後半途中から北爪・オ セフン・吉田を投入して、エネルギーを追加するとともに攻め筋を変え、得点後も北川・宮本を入れて追加点とクロージングの両方を狙うことができるのは、対戦相手からすると脅威でしかありません。
相手CBのヘナンがエスパルスの得点後に交代しましたが、サンタナとの激しいマッチアップの後にオ セフンに出てこられては、相手にとっては相当な負担だったことでしょう。

4.所感

この試合を振り返ってみて改めて思うのは、今のエスパルスの生命線はいかにオープンな展開に持ち込めるか、そして決して多くないチャンスをゴールに結びつけられるか(カウンターの精度)ということ。

J2での対戦も一巡して相手の研究も進む中で、秋葉監督就任直後のような、相手が自分たちのスタイルを振りかざしてなりふり構わず戦ってくる機会は減っています。当然、チャンスの数は少なくなり、毎試合ピンチを招く場面すらありますが、エスパルスはJ2でも屈指の選手層の厚さと質の高さをいかんなく発揮して、物量で押し潰すことができています。
選手の質やシステムの噛み合わせは、相手ありきの相対的なものですが、選手が持っている能力の総和を、グループの連携強化やシステム変更への慣れに伴って着実に表現できるようになってきたことが、3戦連続の1-0というスコアに表れている気がします。

また、こうしたサッカーに必要な、殴り合いに耐えうる運動能力や攻守の切り替えの速さを担保し、試合冒頭の圧力を終盤まで継続できることができているのは、身体面・メンタル面ともに一貫して秋葉監督が言い続け、やり続けてきたことが、ようやく花開いてきた証左ともいえるのかもしれません。

さて、次節は首位・町田との非常に重要な一戦。カウンターの精度では相手に分があるだけに、どれだけ球際や運動量で上回ってカオスな状況を作れるかが鍵を握りそうです。

その試合をホームで迎えることができるのは、勝って勢いをつけてJ2優勝を目指す上でも、非常にポジティブなこと。とくに今節は、お盆休みでたくさん集まったサポーターが作り出すホームの圧力もあり、いつもより自分たちのペースで試合を進められる時間が長かったように感じます。
次節も、いちサポーターとして、そんなスタジアムの雰囲気づくりに貢献したいと思います。

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