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【エスパルス】2022年J1第1節 vs札幌(H)【Review】

2022シーズン、あけましておめでとうございます!
今シーズンも、気ままにレビューを書いていきますので、よろしくお願いします。

コロナ禍のリーグ戦も3シーズン目を迎えましたが、複数回にわたりクラブ内から新型コロナの感染者が出るなど、例年以上に厳しい状況で迎えることとなった開幕戦。
「一体感」「結束力」「献身性」「犠牲心」などのキーワードを掲げる新チームにおいて、新加入選手を含めたチーム内での意思疎通やコンディショニングの面で困難を強いられたのは、想像に難くありません。
実際に、今節では外国人選手のスタメン起用はゼロ。開幕早々、クラブの総合力を試される機会となりました。

そんな中、平岡監督が目指す「アグレッシブかつフレキシブル」なサッカーとはどんなものなのか。
ベールに包まれていたその姿を、この試合で見えたことから、自分なりにまとめてみます。

1.スタメン

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エスパルスは、今季加入した神谷・白崎・山原がスタメンに名を連ね、リザーブにも岸本・髙橋大悟が入るなど、「新生エスパルス」感が満載のメンバー構成。
各々がどんなプレーを見せてくれるのか、否が応でも期待が高まります。

※平岡監督は、控え選手のことを「キープレーヤーズ」と呼ぼうと思っているそうです。

札幌も、ジェイ・チャナティップがチームを去った代わりに、興梠・シャビエルが加入。ミシャ体制も5年目を迎え、円熟味を感じさせます。

2.スタッツ

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スタッツを見ると、多くの指標で札幌がエスパルスを上回り、「ゴール期待値」も札幌がエスパルスの倍以上を記録。
ただ、走行距離はエスパルスの方が長く、このあたりにも「献身性」を重んじる新チームのスタイルが垣間見えます。

3.前半

試合の立ち上がりから、エスパルスは2トップ(神谷・鈴木唯)が前線から積極的にプレスをかけ、「アグレッシブ」の一端を見せていきます。

ただ、そのプレスは空転気味。その背景には、ミシャサッカーお馴染みの「相手のプレスを無効化する仕組み」がありました(下図)。

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【札幌のビルドアップの仕組み】
・ビルドアップ時、「GK+2CB+CH」の4枚で、相手の2トップに対して数的優位を確保
・CBがボールを運ぶ際、前線の選手の「下りる動き」と「裏抜け」を組み合わせ、相手の中盤の後方(いわゆる「ライン間」)でも数的優位を形成
・SH、SBが高い位置を取り、常にサイドで2名が関与できる状態を作っておく

ボール非保持時のエスパルスは、以下のような問題を抱えていました。

①前線の数的不利により、ファーストディフェンダーが定まらず、2トップがボールの出どころを制限できない
②このため、2トップ(1列目)と中盤(2列目)以降のプレスが連動せず、全体の陣形が間延びする
③結果、ボールを持ち上がる札幌の選手に対して、誰が対応するか明確にならない(ポジショニングが後手に回る)

平岡監督は、試合後コメントで

相手のワイドの選手にナーバスになりすぎてラインが下がってしまっているので、そこをズルズル引かないこと、そして前からプレッシャーをかけること。そこを(ハーフタイムに)確認した

と語っていますが、相手のワイドの選手に高い位置を取らせてしまったのは、元を辿れば2トップのプレスのかけ方に問題があったと思われます。

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前半のエスパルスは、相手CBに時間を与え、前線から下りてくる札幌のシャドー(小柏・シャビエル)を捕まえきれず、サイドチェンジから多くのチャンスを作られてしまうシーンが目立ちました(上図)。

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また、スピードと仕掛けに特徴がある札幌のSHを自由にさせないため、エスパルスは基本的にSHとSBが2名で対応していました(上図では、山原と片山)。
ただ、札幌はSHの仕掛けを止められても、後方でフォローするSBがフリーでクロスを上げられるうえ、ペナルティエリア内には4人が入れる状態。
このとき、札幌の前線3枚とエスパルスの最終ラインが数的同数となり、ファーサイドの選手が浮いてしまいます(1失点目はこのパターンでした)
さらに、クロスを跳ね返されても、宮澤がバイタルエリアをカバーしてボールを奪取し、相手を自陣に押し込みます。

立田がハンドを取られたシーンでは、エスパルスのパスミスを起点に、左サイドで金子に縦への仕掛けを許していますが、2対1で対応しないと、あのような突破を許してしまうことになります。

このように、構造的に不利な状態でのゲームを強いられたエスパルスは、苦しい戦いを余儀なくされました。

続いて、エスパルスのボール保持(=札幌の守備)についても見ていきます(下図)。

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札幌の守備は、基本的に「自分のゾーンに入ってきた人を捕まえる」マンツーマンに近い形。
札幌が球際に強い選手が多く起用していたのも、こうして意図的に作った1対1の局面を制するため。

特に鈴木唯人に対しては、宮澤か高嶺が後方から激しくプレッシャーをかけて前を向かせません。
唯人も彼らを振りほどくべく、かなり動いていましたが、そのマーキングは徹底していました。

エスパルスは、シンプルながら力強い札幌の守備に苦戦します。

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こうした中でも、選手が自らの判断で「フレキシブル」な対応を見せ始めたのが、前半の光明でした(上図)。

エスパルスは、鈴木唯人が相手を引き連れた際に生まれたスペースを活用したり、神谷がサイドに流れつつ、原がハーフスペースに侵入したりと、自らのポジションを崩しながら、相手のマンツーマンベースの守備を空転させる工夫を見せます。

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また、攻守の切り替えの意識は、平岡監督になってから大きく改善された部分。
とくにポジティブトランジション(守→攻の切り替え)において、両SHが積極的に前線へ飛び出していくシーンが何度も見られ、SHに機動力のある山原・中山を起用している意図が垣間見えました(上図)。

4.後半

「後半はプラン通りに進めていた」と語った平岡監督。
では、どのような点が前半とは違ったのでしょうか。

後半の立ち上がりから、コロリを投入。この意図を、平岡監督は次のように語っています。

・前半は相手の背後を狙っていきたいので、シンプルにそういう選手を使ったが、後半はコロリにボールを収めて、そこからチャンスを作っていく。もう少しボールを握っていく、そういうサッカーを自分の中で描いていた

確かに、前線に収まりどころができ、ボール保持率は多少改善したかもしれませんが、それ以上に「ボール非保持時」の整理ができたことで、主導権を握ることに成功したように感じました。

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後半は、2トップが縦の関係になり、鈴木唯人がファーストディフェンダーの役割を担うことが多かったように見えました。
まず唯人が、次にコロリが相手CHを抑えてからプレスをかけることで、ボールの行き先を限定し、相手のプレーの選択肢を狭めていきます。
コロリは相手の立ち位置を見ながら上手にプレスをかけられる賢い選手だと思います。

前線のプレスがこのように連動すれば、後ろの選手も的を絞りやすいもの。
陣形の間延びは改善され、ハードワークに定評のある竹内・白崎の「献身的な」スライドの甲斐もあり、徐々に中盤でボールをカットし、素早い攻撃に繋げられる機会が増えていきます。

監督のハーフタイムの指示にあった「前からプレッシャーをかけること」という指示を、選手が自ら咀嚼し、実行した結果と言えます。

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また、唯人やコロリが相手を引きつけて空けたスペースを、3列目から飛び出してきた白崎が使う場面(上図)なども、チームの「フレキシブルさ」や「一体感」を感じさせる部分。

このような選手の特徴を出しあったプレーぶりが、試合後の

・後半、選手たちが自信を持ってプレーできた

という監督コメントにも繋がったのではないでしょうか。

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同点に追いついた唯人のスペシャルなゴールも、コロリの「収める力」を警戒した札幌の選手が彼に食いつき、空いたスペースを突いたもの。

もちろん、唯人のトラップからの一連の流れは見事でしたが、あの瞬間を作り出したのは、チームとして「裏を狙う」という方向性が共有されていることや、誰かのために自分が犠牲になる「献身性」が生んだものだと言っても過言ではありません。

5.所感

昨季の主力メンバーを何人か欠く中で、札幌を相手にドローという結果を得られたのは、ポジティブに捉えられる材料だと思います。
監督の意図も予想以上に浸透している様子がうかがわれ、ここに新たな選手が加わることでどんな変化が起きるのか。まだまだチームの全貌は見えませんが、とても楽しみです。

なにはともあれ、今季の合い言葉は「一戦必勝」

来週からはルヴァンカップも始まり、チームにとっては厳しい日程が続きますが、目標でもある「タイトル」を獲るためには、サポーターも含めて勝利に貪欲でありたいものです。

次の試合も、最後の1分まで勝利だけを信じて、見守っていきましょう。

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