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トキメキの正体


息子のトキメキが止まらない。

うちの息子(3歳)はアラレちゃん顔負けの天真爛漫さを発揮していて、朝から晩まで目をキラキラさせながら遊び倒している。

ガムテープを見つけたと思えば、家中に貼って結界のようなものをつくり「パパ、そこ通ってみて」と誘導してくる。引っかかった僕を見てケラケラと笑う。

スマホ三脚を見つけては「これ武器になるじゃん!」と嬉しそうに手にとり、ビヨーンと伸ばして僕のスネのあたりに一太刀喰らわせる。


ガムテープもスマホ三脚も、息子にとっては「初めて触れるもの」だ。

それがダンボールの梱包に使われることも、スマホでの自撮りに使われることも知らない。

うっひょー!という顔で手にとり、未知の道具にワクワクし、独自の技術をもって調べあげた結果、「これって、結界と武器じゃん!」という発明に至っているのである。

そんなトキメキ全開の息子を見て、なんだか羨ましくなった。

なぜこやつはこんなに毎日トキめいているんだろう? 僕にもこんな頃があったのだろうか。


思い返せば学生時代、初めて新宿にいったときのことだ。

駅構内で『16番線』という表示をみて「なんじゃこりゃ」とひっくり返ったことがある。ありすぎだろう。番線が。

でも、それ以上にワクワクしたのを憶えている。

それぞれの線路がちがう場所につながっていて、ここにいる人たちはみんなどこかへ行きたくてこの場所にいる。そんな人の渦を感じて、なんだかワクワクしたんだよね。

初めて触れた、新しい世界だった。


ほかにも池尻大橋のスターバックスとか、下北沢のライブハウスとか、阿佐ヶ谷のミニシアターとか、「初めて」に触れるたびになんともいえないトキメキみたいなものを感じていた。

たぶんこの「初めて」に出会ったときのワクワクというかドキドキというか、なにか未知なるものに触れちゃった感と、それを知る前よりも楽しい未来にこれた感が、トキメキの正体なのかなと思った。

知らない世界ばかりだった学生の僕は、トキメキだらけの毎日を駆けまわっていた。


息子だってそうだ。3歳の彼にとっては日常で触れるもののほとんどが初めてで、だからこそ「トキメキチャンス」みたいなものがゴロゴロと転がっている。そりゃあアラレちゃんにもなる。

大人になるにつれて、たくさんのトキメキに出会う。そのたびに「初めて」が消化されていって、だんだんと新鮮味みたいなものはなくなっていく。

いま16番線を見ても、何も思うことはないだろう。

この変化を、少し寂しいなと感じる。


僕たち夫婦は半年ごとにコロコロと住む場所を変えているんだけど、それはきっと、どこかでトキメキを求めているんだろうなとも思う。

新しい場所にいくと、僕と妻もアラレちゃんになるからだ。

逆に、いままであんまり新しいことをしてこなかった人には「初めて」がたくさん残されていて、トキメキの伸びしろが両手いっぱいに広がっていたりするのよね。ウラヤマシ!


そんなことを考えていたら、息子がつっぱり棒にタオルを巻いて「ハンマー!」と言いながら走ってきた。瞳がダイヤモンドのように輝いている。

僕は静かに屈み、スネをガードする体勢に入った。


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表紙とアナザーカットたち↓


⌇ 絵 えりちゃん(妻)
✎  文 しみさん(夫)

夫婦で絵本をつくるのが夢です。

日記のようなエッセイを書いています。
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