妻がエスパーになった。
うちの妻はエスパーだ。
先日、息子が悲しそうにしていたので理由を尋ねてみると「ワンワンがいい」と返された。
ん?ワンワン?犬のことかな。
犬のぬいぐるみを渡すと「ちがう!!!」とブチギレられた。ほてった甘栗のような顔をしているので、早めにギブアップをして妻に聞いてみた。
すると妻は「ああそれね」みたいな顔をして、犬のコップに水を入れて息子に渡した。
甘栗はそれをゴクゴクと飲み干し、平熱に戻ったようだった。
翌日、同じシーンに出くわしたので、犬のコップにお茶を入れてもっていくと、
「お茶じゃない!!!」とブチギレられた。
息子のなかではどうやら「ワンワン=犬のコップに水を入れたもの」らしい。あまりにも隠語すぎる。
しかし妻はそれらをすべて把握し、息子の求めていることを察することができる。
この妻のエスパーのような「察する力」は家庭内で幾度となく発揮されていて、僕と甘栗はこれによく助けられている。
僕が仕事で立て込んでいたときのことだ。
「仕事前にコーヒー淹れようっと」
「淹れといたよ」
「ZOOM前にシャワー浴びようっと」
「お湯ためてあるよ」
「あの服どこにあるっけ」
「あの日あそこにしまってたよ」
なんだこれは・・
こちらの動きがすべて把握されている。何手も先を読まれている。
ハンターハンターのパクノダのように相手の記憶を読みとり、ヒカルの碁の背後にいるロン毛の方のように先を読む力。
妻のこのスキルを僕は「あーね力」と呼んでいる。
1を言えば「あーね(ああそれね)」と10を察してしまうからだ。
妻からすると察するのが当たりまえなので、僕がなにも気づかずにボーッとしていると「察せ」という言葉が矢のカタチをして飛んでくる。サッセ。
こういったスキルは、いわゆる動画編集とかデザインみたいなパッと聞いてわかりやすいスキルではないため、軽く見られがちだ。
職務経歴書のスキル欄に「あーね力」と書けるわけもなければ、面接官にアピールしようもない。
でも、妻のこの能力に助けられてきた人はきっとたくさんいる。
妻にかぎらず、誰しもこういった「まだ言語化されてないけど実はすごい能力」みたいなものを持ち合わせていると思っていて、
自分にとっては、出来ることが当たりまえすぎて気づいていないけれど、コイツが知らず知らずのうちに他人を救っていたりもする。
僕は妻のあーね力に触れるたびに「おれは自分のことしか考えられてないな…」と察することのできない自分を悔いたりもするんだけど、
妻は妻で「センサーが過敏すぎて疲れる」みたいなことを言っていたので、エスパーはエスパーなりに悩んでいるんだなと察した。サッシタ。
妻はひとり時間に回復する。カフェにいき、本を読み、その時間に浸っていると元気になる。
これはきっとセンサーを休ませている時間で、彼女にとっては大切なことなのだと思う。
そんなわけで、今年の夏休みは息子と一週間お出かけすることに決めた。センサーが反応しないよう、なるべく離れた町へいこうと計画している。
もちろん、ワンワンも忘れずに。
エスパーに休息を。甘栗は引き取ります。
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表紙とアナザーカットたち↓
⌇ 絵 えりちゃん(妻)
✎ 文 しみさん(夫)
夫婦で絵本をつくるのが夢です。
日記のようなエッセイを書いています。
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